第191話 灯る希望

 <オーベロン>に止めを刺されると思ったシオンであったが、二振りの凶刃が振り下ろされた時、二機の竜機兵が滑り込み事なきを得た。

 フォトンソードを受け止めたのは、ドラゴニックウェポンを装備した<ヴァンフレア>と<グランディーネ>だった。

 二刀の炎剣と白金の盾が光の剣を食い止めている。

 <シルフィード>を仕留めそこなったジュダスは顔を引きつらせながら怒りに満ちていた。


「――普通、今の攻撃を止めるか? ふざけるなよ、雑魚ドラゴン共!!」


「ざまぁみろ、このキモ大臣。前々から目線がいやらしいと思ってたのよ、このスケベ!」


「そうそうお前思い通りにいくと思うなよ! ――シオン、大丈夫か?」


「すまない、助かった」


 パメラとフレイアがジュダスに噛みつく中、敵のエーテルハイロゥに対し三基の円盤が攻撃を開始した。

 円盤に装備された水の刃がチェーンソーのように高速回転しながら天使の輪を削っていく。

 そこにダメ押しとして大量の水を圧縮した砲撃が直撃し天使の輪を破壊した。

 それに伴い<オーベロン>はパワーダウンし、操者であるジュダスはパニックに陥っていた。


「エーテルハイロゥが破壊されただと!? パワーも低下して――くそ、いったい何がどうなってるんだ?」


 <オーベロン>の天使の輪を破壊したのは<アクアヴェイル>だった。

 エーテルフラガラッハによる攻撃で耐久性を低下させた後に止めとしてリヴァイアサンを叩き込んで破壊したのである。

 パワーダウンを起こした妖精王の様子を見て、クリスティーナはハルトの推測が当たっていたと実感していた。

 そして、それがパメラの父であるランド・ミューズからの最後のメッセージであったことも理解していた。


「ハルトさんの言っていた通りですわ。エーテルハイロゥにダメージを与えることで本体の性能が低下している。――パメラのお父様のお陰で光明が見えましたわ」


「へへっ、あったりまえじゃん! なんてったって、私のパパなんだからね。――ありがとう、パパがヒントをくれた戦術で必ず勝って見せるからね!!」


「パメラ、タイミングを合わせて敵を吹き飛ばすぞ!」


 フレイアとパメラは同時にフォトンソードを弾き飛ばし<オーベロン>をのけ反らせることに成功した。

 バランスを崩しながら赤い巨躯は瓦礫に倒れ込む。予想だにしなかった竜機兵チームの反撃によって、ジュダスは自分の優位性が揺らぎ癇癪かんしゃくを起こしていた。


「何だよこれは。こんな展開になるなんて聞いてないぞ。ちんけな竜機兵なんかに遅れを取るなんて、こんなの全然面白くない!!」


 状況が竜機兵チームに優位に傾き、彼らの後方では飛空要塞上空を飛ぶ<ニーズヘッグ>とその船首カタパルト上で移動砲台として空中の敵を迎撃する<ドラタンク>の姿があった。

 <シルフィード>のコックピットモニターに心配そうな表情をするシェリンドンが映り、シオンが無事だと分かると安堵していた。


『シオン怪我はしてない? お腹は痛くない? あなたは子供の頃からお腹が弱いから――』


「母さん、余計なことを言わないでくれ。今は戦闘中なんだから!」


 まだ何か言いたげな母親との通信を強制的に閉じるとシオンは溜息を吐いて目の前にいる敵に視線を戻す。

 そんな彼の周りには炎、水、大地の竜機兵が勢揃いしていた。

 この構図はこれまでに八百回以上繰り返されて来た世界線における<オーベロン>との戦いを再現したものであった。

 これまでやり直してきた世界線の記憶は彼等にはない。しかし、自分たちの中でこの状況は初めてではないという強い既視感が確かにあった。


「ティリアリアが人質になっている状態では攻撃をするわけにもいかない。彼女に呼びかけても何の反応も無かった。――どうする?」


 シオンが先の戦闘状況を説明しているとサブリーダーのクリスティーナが情報を整理して作戦提示する。


「――それでも呼び続けましょう。わたくしたちにはそうする以外策はありませんわ。ティリアリアならわたくしたちの呼びかけに必ず応えてくれるはず。その間<オーベロン>に対して攻撃は禁止ですわ。あくまで牽制レベルで対応しましょう。」


「「「了解!」」」


 竜機兵四機は四方に散り<オーベロン>に囚われているティリアリアに対し呼びかけ始めた。


「ティリアリア、目を覚ましてください。あなたの従姉あねであるわたくしが迎えに来ました。そこから出て一緒に帰りましょう!」


「ティリアリア、一緒に<ニーズヘッグ>に帰ってご飯食べようよ。お腹空いたでしょ?」


「君自身も本当は<オーベロン>の中になんていたくないはずだ。僕たちの呼びかけに応えてくれ!」


「ティリアリア様、皆の声が聞こえているでしょう? 必ずそこから救い出しますから声を聞かせてください!」


 四人の必死の呼びかけに対し聖女からの返答はない。

 その代わりに一時的にパワーダウンしていた<オーベロン>のエーテルハイロゥが復活し再び出力が上がっていく。


「パワーが回復した? ははは……なんだ脅かしやがって。――よくも僕をコケにしてくれたなぁ!」


 <オーベロン>は両手のフォトンソードを大きく振り回しながら竜機兵四機に襲い掛かった。

 シオンはエーテルブリンガーを装備し光剣と斬り結ぶ。同時にフレイアも前に出てシオンと二人で<オーベロン>相手に剣戟を繰り広げる。

 パメラとクリスティーナはエーテルハイロゥへ攻撃し敵のパフォーマンス低下を狙っていく。

 

「くそっ! 何だこいつら。どうしてこんな雑魚共相手に手間取るんだ。何をやってるんだよ<オーベロン>、お前の実力はこんなものじゃないはずだ。もっと本気を出してこんな奴等を瞬殺して見せろよっ!!」


 ティリアリアを人質に取っていることで攻撃されないという最大のアドバンテージを得ながらもゲームのように竜機兵を圧倒できない現状にジュダスは苛つきを募らせていた。

 しびれを切らした彼は術式兵装で一気に決めようと考え、<オーベロン>の周りに無数の魔法陣を展開する。

 攻撃に備えて四体の竜機兵は距離を取る。しかし、妖精王の術式兵装は一向に発射されなかった。


「な……どうして? 既にエーテルはチャージされているのにどうしてエレメンタルキャノンンが撃てないんだ!?」


 突然敵に起きた不具合を前にしてシオンは王都の戦いで脱出した時のことを思い出していた。


「そう言えばあの時もヤツの動きが鈍くなった隙を突いて無事に脱出することが出来た。あの時も今も僕たちが危険な目に遭いそうになった時に機体に不具合が起きている。これはもしかして――」


 シオンの推理を聞いた『聖竜部隊』の面々に希望という名の光が灯るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る