第190話 シルフィードVSオーベロン
一方その頃、後方で待機している『第七ドグマ』ではエーテル通信干渉波の消失を確認していた。
その報告を聞いたクレインはすぐに長距離エーテル通信にて王都騎士団との連絡を取るように指示する。
無事に王都騎士団と連絡が繋がった後は飛空艇で王都付近まで接近していたガガン率いる部隊と連携して帝国の装機兵部隊の殲滅へと動き出すのであった。
飛空要塞上で戦闘を続ける<ニーズヘッグ>でも通信干渉波の消失を確認していた。
「主任、エーテル通信干渉波が消失しました!」
「良かった、シオンが装置の破壊に成功したみたいね。――それでは作戦を第二段階に移行します。この飛空要塞の戦力を無力化した後に<オーベロン>と接触し聖女ティリアリア・グランバッハを奪還します」
作戦の第一段階が成功し士気が高くなる『聖竜部隊』。その時、エーテルレーダーに異常なエーテル値の反応が示された。
その存在に気が付いたアメリの表情が緊張で強張る。緊張感が顔に貼り付いたまま彼女は船長であるシェリンドンの方に振り向いて報告した。
「強力なエーテル値の反応を確認しました。これは……<オーベロン>です!」
アメリの報告がブリッジ内に響き空気が重々しいものに変わった。
予想以上に早い標的の出現に意表を突かれる形となる中、シェリンドンは敵の位置を問う。
「敵は……<オーベロン>の出現位置は何処?」
「ええと……干渉波装置の近くです!」
「何ですって! そこには<シルフィード>が――」
――その頃、干渉波装置を破壊したシオンの目の前には赤く巨大な装機兵が現れ上空から彼を見下ろしていた。
尊大な雰囲気を持つ機体とは真逆の下卑た笑い声が、通信により<シルフィード>のコックピット内に響く。
「あははははははははは! 久しぶりだね、シオン・エメラルド。思ったよりも早く王都を取り戻しに来たじゃないか」
「いつまでもお前たちに王都を好きにさせるわけにはいかないからな。それにしても、お前こそ随分早いお出ましだな。味方のピンチにいち早く駆け付けたというところか?」
「味方って、もしかして『ドルゼーバ帝国』の連中のことかい? だったら見当外れもいいところだよ。僕も連中も互いに味方だなんて思っていないさ。――僕の頭の上で派手に騒いでいて目障りだったからぶっ潰しに来たんだよ」
<オーベロン>の周囲にいくつもの魔法陣が展開されていく。その前方にいるシオンに殺意と異常なエーテルによるプレッシャーがのしかかる。
「――来る!」
「落ちなよ!!」
展開された魔法陣から次々にエレメンタルキャノンが発射される。
シオンは<シルフィード>を地面すれすれで高速飛行させて障害物を壁代わりにしながら回避していく。
その間も<オーベロン>は魔法陣を次々と展開しエレメンタルキャノンをマシンガンのように連続して放ち続けた。
シオンの回避テクニックと機体の高機動性によってエーテルの弾幕はことごとく外れたが、<フリングホルニ>は攻撃の雨に晒され多くの設備は破壊され火の手が回っていくのであった。
「なんて滅茶苦茶な攻撃だ。飛空要塞が沈んでも構わないのか!?」
「だから最初から連中はどうだっていいって言ってるじゃないか。そもそもこんなデカい物体を僕の土地の上に浮かばせておくなんて気に入らなかったんだよね。丁度いいからついでに壊すのも一興かな。くふふふふふふふふふふ!」
「お前は狂っている。これ以上被害が広がる前に――」
<シルフィード>がエーテルブレードとエーテルブーメランを構えて反撃に転じようとした時、ジュダスがクスクス笑いながら攻撃を一旦止める。
「いいのかい? この機体のどこかに聖女が乗っているんだよ。下手に攻撃して彼女に当たったらどうするつもりだい?」
「……くっ!」
敵の言葉にシオンは奥歯を噛みしめる。モニター越しに得意げに笑うジュダスを睨む事しか出来ない。
シオンが攻撃できないと分かるとジュダスはますます得意げになり、この状況を思う存分楽しもうと画策する。
<オーベロン>を無防備な状態にして<シルフィード>の前方へとゆっくり下りて来る。それは明らかにシオンを挑発する行為だった。
「ほら攻撃してみなよ。この通り僕は今ノーガードな状態だよ。これなら君一機でも思い切りやれば大ダメージを与えられるかもしれないよ。この千載一遇のチャンスをみすみす棒に振るのかい?」
ジュダスはしたり顔でなおもシオンを挑発し続ける。これには竜機兵チームで一番冷静なシオンも腸が煮えくり返る思いだった。
いつもはポーカーフェイスな顔が今では額に青筋を立てて鬼の形相をしている。
「人質を取ってよくもそう得意げにいられるものだな。お前は戦士の風上にも置けないクズだ」
「言いたいことはそれだけですかぁ~? 戦士がどうとかそんなものに何の価値があるんだよ。要は勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあ。負けたらそこでおしまいなんだからなぁ! 利用できるものはとことん利用すればいいんだよ。それをせずにぎゃあぎゃあ騒ぐほうが格好悪いっつーの。――ということでサービスタイム終了。今度こそ落ちなよクソガキャァァァ!!」
<オーベロン>の頭上に浮いているエーテルハイロゥの輝きが増すと巨大な魔法陣が形成される。
そこから無数の光の矢が上空に発射されると雨のように飛空要塞に向けて降り注いだ。
<シルフィード>は攻撃範囲から逃れるように急速離脱しギリギリで回避に成功した。
改めて自分がさっきまでいた場所を確認すると光の雨によって破壊し尽くされ、建造物の内部構造が丸見えになっている。
「くそっ、どうすればいい。せめてティリアリアが何処にいるか分かれば」
ティリアリアのマナを感知しようと意識を集中するも<オーベロン>の強力なエーテルによって彼女の気配は全く感知できない。
彼女の居場所を特定できないまま周囲の被害だけが広がっていく。また、戦闘が長引くほどシオンの体力と集中力も摩耗していき状況は悪くなる一方だった。
「ったく、ちょろちょろとすばしっこい。それならこれでどうだい?」
<オーベロン>の指先から光の細剣が出力されると背部の翼を羽ばたかせながら<シルフィード>に向けて突っ込んで来た。
光の爪――フォトンネイルで何度も引掻こうと肉薄してくる中、それを回避と剣による切り払いで何とかしのいでいく。
それでも妖精王のパワーの前に徐々に押されていく。
「くっ……ティリアリア、何処にいるんだ。答えてくれ!!」
「無駄だよ。ティリアリア・グランバッハはこの機体を動かすための部品に成り果てた。お前等が名前を呼ぼうが何の反応もしないよ。残念でしたーーーーー!!」
ジュダスは五本のフォトンネイルを一つにまとめて巨大な光の剣であるフォトンソードを形成すると、それで<シルフィード>を薙ぎ払おうと思い切り腕を振るった。
エーテルブレードで防御したシオンであったが、そのパワーによって思い切り瓦礫の山に叩き付けられ動きが麻痺する。
そこに追撃を仕掛けようと<オーベロン>が二本のフォトンソードを構えながら接近してきた。
「さようなら、シオン・エメラルド!!」
「しまっ――!」
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