第189話 王都奪還作戦開始
◇
――時は少し
雲海の上で<サイフィードゼファー>と<ブラフマー>が睨み合いをする中、大型飛空艇<ニーズヘッグ>は作戦遂行のため再び雲海へ突入しようとしていた。
「雲海への再突入ポイント確認完了しました」
「一度目の雲海通過後、<ニーズヘッグ>各部に異常なし。再突入時も問題ないと思われますわ」
「ここまでは順調ね。これより本船は再度雲海に突入後、王都上空に鎮座する飛空要塞<フリングホルニ>への攻撃に入ります。アメリは衝撃に備えるように船内に放送をかけてちょうだい。――この作戦が成功するかどうかは、<ニーズヘッグ>の奇襲攻撃の良し悪しで決まるわ。皆、頑張りましょう!」
「「「了解!」」」
アメリとステラの両オペレーターから報告が入り作戦遂行に支障がないことが分かるとシェリンドンは作戦開始の指示を出した。
<ニーズヘッグ>は雲海再突入ポイントに到着し潜行を開始した。分厚い雲は海のように大きく波しぶきを上げながら巨大な飛空艇を飲み込んでいく。
シェリンドンは船体が完全に雲海に沈み込み通信が途絶されるまでブリッジモニターに映る<サイフィードゼファー>を目で追っていた。
(ハルト君、必ず生きて戻って来て。あなたが合流するまでに私たちが飛空要塞を攻略してみせるわ)
ハルトの無事を祈る中、<ニーズヘッグ>は雲海の底を抜けて王都上空に姿を現した。
『ドルゼーバ帝国』の飛空要塞<フリングホルニ>では突然上空に出現した敵飛空艇に虚をつかれる形となり、指令室において混乱が起きる。
そうしている間にも<ニーズヘッグ>との距離は縮まり、飛空要塞では迎撃として各砲台が発砲を開始し弾幕がばら撒かれた。
「敵飛空要塞、本船に向けて迎撃を開始しました」
「エーテルフェザー最大出力。エーテル障壁前面及び船底面に集中展開、飛空要塞に接近したらエーテルスラスター逆噴射をかけて減速。ハンダー君、タイミングは任せるわ!」
「エーテルフェザー出力最大……力場安定。エーテル障壁、船体前面と船底面に展開しますわ」
「了解、<ニーズヘッグ>突貫します!!」
ブリッジでシェリンドン研究チームの息が合ったやり取りによって<ニーズヘッグ>は飛空要塞の弾幕を弾きながら高速で接近する。
船体前方に展開したエーテル障壁に加えてエーテルフェザーの力場がバリアーの役目を果たし防御力を向上させていた。
<ニーズヘッグ>が飛空要塞に近づくと、操舵手のハンダーは逆噴射をかけて減速しながら敵の居城へと飛空艇を滑り込ませる。
猛スピードのまま船底が要塞と接触し、激しく火花を散らし装甲表面を削りながら突き進んでいく。
衝撃が船内を襲い、その振動は装機兵のコックピット内にも伝わって待機している竜機兵チームの面々に緊張が走る。
要塞表面を削りながら減速していった<ニーズヘッグ>は要塞中央にある大きく開けた場所で止まった。
強行着陸時の振動で頭がくらくらしながらもシェリンドンは船体状況のチェックを指示する。
「――つっ。各員<ニーズヘッグ>の状態を確認!」
「は、はい。――左舷エーテルフェザー発生装置小破、右舷側は損傷なし。メインのドラゴニックエーテル永久機関並びにサブのエーテル永久機関二基に異常なし。船底部のエーテルスラスターは三番から八番までが使用不能ですが、それ以外は生きていますわ。これならば飛行可能ですわ!」
「操舵システムに異常なし。離陸時に必要なエーテルがチャージされればすぐにでも飛べます!」
「船底部小破。第一から第三装甲の破損が散見されますがそれより内側の全装甲層は全て無事です!」
「あれだけ激しくぶつかったというのに、この程度の被害で済んだのはさすが<ニーズヘッグ>ね。船底部のエーテル障壁を厚くしておいたのが良かったか。――それで火器類の状況は?」
各ブリッジ要員から船体のダメージが最小限に抑えられたという報告が入り、シェリンドンは改めて自分たちが設計した飛空艇の性能に内心驚いていた。
「全エレメンタルキャノン砲台のうち九十パーセントは使用可能です。――いけます、主任!」
「それは
シェリンドンの命令を受けて<ニーズヘッグ>に搭載されている全てのエレメンタルキャノンが次々と放たれ、周囲の建造物や砲台を破壊していった。
あっという間に大型飛空艇の周囲は火の海になり凄惨な様子がモニターに映る。
その映像を見て強い罪悪感に襲われながらも、それを今は飲み込んで徹底的に攻撃を加えていく。
その時船体を衝撃が襲う。状況を確認すると敵要塞の砲台がいくつも<ニーズヘッグ>に向けられていた。
「このままではまずいわ。至急迎撃を!」
現在、船体のエーテルエネルギーを火器類に全て回している<ニーズヘッグ>は防御機能が低下しており、威力の低い砲台攻撃でも連続して受ければ危険な状況であった。
弾幕が今まさに発射されようとした時、次々と砲台が沈黙していった。
空中から放たれるエレメンタルキャノンとブーメランのような武器が破壊していったのである。
砲台を蹂躙したエーテルブーメランが空を飛んでいき主のもとへと戻っていく。
それを手に取ったのはエメラルドグリーンの装甲に身を包む竜機兵<シルフィード>であった。
「予め出撃しておいて正解だったな。これ以上<ニーズヘッグ>に攻撃はさせない!」
再度エーテルブーメランを投げて砲台を破壊していく。同時に掌からエレメンタルキャノンを発射して母船にとっての脅威を潰していった。
<ニーズヘッグ>を攻撃範囲に収めていた砲台が全て破壊される頃には帝国の装機兵が要塞内部から次々と姿を現す。
それらが飛空艇を覆うように近づいてくると、船の前方と後方に別れて出撃した竜機兵チームが迎撃を開始した。
前方では<グランディーネ>と<アクアヴェイル>が、後方では<ヴァンフレア>と<ドラタンク>が母船を守る布陣を敷いて接近する敵装機兵をなぎ倒していく。
「パメラは接近戦で敵を抑えてください。わたくしが遠距離攻撃で仕留めていきますわ!」
「合点承知! 私たちのチームワークを見せてやろうじゃん。そんじゃ、<グランディーネ>行くよっ!」
「私を避けて<ニーズヘッグ>をやれると思うなよ。<ヴァンフレア>迎撃行動に入る!」
「おい、フレイア一人で突っ込むな! 本当に血の気の多い妹だな~」
四機の装機兵によって<ニーズヘッグ>の守りは問題ないと確認したシオンは<シルフィード>を攻撃目標へと向かわせた。
飛空要塞から発射される砲弾の雨を潜り抜けながら破壊していき間もなく目的地に到着した。
「あれがエーテル通信干渉波の発信装置か!」
長距離エーテル通信を阻害する装置を発見したシオンは配備されている<ドール>数機を一気に全滅させエーテルブレードで装置を真っ二つにした。
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