第186話 死神鎌と熱線と
「どうして<ニーズヘッグ>をあのまま行かせた? 迎撃態勢が万全な飛空要塞なら問題ないとか考えているのなら――」
『何か勘違いをしているようだな。俺は帝国の連中とつるむ気はない。お前等の飛空艇のことも<フリングホルニ>には連絡してねぇよ。そもそも俺がここにいたのは、お前等が俺の予想通りの戦術を仕掛けて来たら面白いと思っていただけだしな。――実際、現れた時には笑いが止まらなかったぜ』
ラファエルが笑い出す。ただそれは俺たちを嘲笑するようなものではなく純粋に……そう、ただ純粋に楽しくて仕方がないというものだった。
敵意どころか親しみを持つ相手に見せるような笑みを俺に向けて来る。この感覚はアインの時と似ている。
「帝国に作戦内容が伝わっていないのはありがたいね。それなら皆は大丈夫だろう。俺はあんたを倒すことに集中できる。――いくぞ、ラファエル!!」
『かかってきな、小僧ッ!!』
下腿後部のエーテルスラスターと背部エーテルマントの出力を高めて真正面から攻撃を仕掛ける。
両手にエーテルブレードとワイヤーブレード参式を装備して斬りかかる。
<ブラフマー>は機体上方に展開しているエーテルハイロゥから死神が持っているような大型の鎌を取り出し構えた。
「はああああああああああああっ!!」
エーテルブレードと死神鎌の刀身がぶつかり合いエーテルの干渉による火花が激しく散る。
全力ではないにしろかなり力を入れて斬り込んだがヤツはびくともしない。やはりパワー勝負では向こうに分があるか。
『いい一撃だ。思ったよりパワーがあるじゃねぇか。……で、これで終わりじゃないだろうな?』
「あたりまえだろ。ここからが本番だ」
左手に装備したワイヤーブレード参式で死神鎌を切り払い距離を取る。それと同時に刀身を分割させた鞭形態で敵を滅多打ちにする。
何発かは身体に入ったがエーテル障壁の影響でほとんどダメージは無い。途中から鎌を回転させてこっちの攻撃を弾き返してきた。
『中々に便利な武器だな。<シヴァ>とやり合った時のデータよりも攻撃速度、威力、耐久性が段違いに上がっているようだ。――その機体を完成させたのはマドック・エメラルドだな。あのジジイでなけりゃ、それだけの機体は造れんだろ』
「あんた等にまで名前が知れ渡っているなんてマドック爺さんも有名人になったもんだ」
『あいつは新人類の中で最も俺たちに近い技術的知識を持っているからな。俺たちの中にはあのジジイを仲間に迎え入れようなんて意見も出てるんだぜ。お前はどう思うよ?』
「愚問すぎて笑えないね。あんた等の仲間になるような爺さんじゃないよ。あの人はナノマシンで不老不死になろうとかなんてこれっぽっちも考えちゃいない。自分が持つ知識を後に続く人間に伝え育てることで技術を進歩させていこうとしてる。自分たちの頭だけで気の遠くなる年月しこしこやってきたあんた等とは違うんだよっ!!」
二刀流の十字斬りを<ブラフマー>に放つがそれも死神鎌に受け止められる。武器が衝突した際の余波で周囲の雲海が一時的に吹き飛んでいく。
『いいねぇ。さっきよりもずっと力と殺気がこもった一撃だ。さてと、それじゃ今度はこっちからいかせてもらうぜ!』
ラファエルは死神鎌を大きく振りかぶり勢いをつけて斬りつけてくる。それを咄嗟に横に逃げて躱すと斬撃を受けた雲海が大きく斬り裂かれた。
「なっ!?」
『今の一撃を避けたのは正解だ。最大出力のザグナルサイズは中々の切れ味だからな。下手に受ければ武器ごと機体が真っ二つになるかも知れねぇぜ』
死神鎌の刀身から次々と黒い斬撃が繰り出され、俺はそれを何とか避けていく。その一方で標的に当たらなかった黒い刃は雲海を次々と斬り裂きズタズタにしていく。
「くそっ、何て威力だ! おまけに連続可能とかチートにもほどがあるだろ」
『この程度で弱音か? <ブラフマー>の力はこんなもんじゃねぇぞ』
<ブラフマー>のフェイスマスクが開かれ口のようなものが露出する。そこに超高密度のエーテルが収束していき魔法陣が展開された。
フレイアたちの話ではヤツの口部から強力な衝撃波が放たれて大ダメージを負わされたということだった。
それなら距離を取れば問題ないはず。敵機から離れて攻撃範囲から逃れようとした時、嫌な予感がした。
動きを止めた<ブラフマー>は俺が離れていくのもお構いなしにエーテルを収束し続けている。
それはつまり俺がまだヤツの射程範囲内にいるということだ。
「――まずいっ!」
回避系のスキルを使用しながら全速で<ブラフマー>の正面から退避する。その直後ヤツの魔法陣から熱線が発射された。
熱線は<サイフィードゼファー>がついさっきまでいた場所を通過すると分厚い雲海を貫通した。
大穴が空いた場所にすぐに雲海が集まり穴は塞がれ元の状態になっていく。
『初見で〝ブラフムストラ〟を躱すとは大したもんだぜお前。これは<ブラフマー>最大の術式兵装で威力は見ての通りだ。四つの頭部それぞれから発射することが可能。――いつまで躱しきれるかな?』
ラファエルは妖しく笑うと熱線攻撃――ブラフムストラを再び放ってきた。それを間一髪で躱すと装甲の表面を焦がし、着弾した雲海を燃え上がらせる。
「くっ!」
『初弾よりは威力を落としてある。その分連射性は上がっているぜ』
そこから敵の一方的な攻撃が始まった。メインと両肩、合計三つの頭部から熱線を次々に発射してくる。
機動力が無ければやられる。<サイフィードゼファー>を飛竜形態に変形させて俺は攻撃を躱し続けた。
ギリギリで躱せば装甲が蒸発する。完全に躱しきらなければ機体を徐々に削ぎ落とされてしまう。
「くそっ、さすがは『クロスオーバー』最強クラスの機体。あんなバカみたいな威力の攻撃を連射とか、マジでシミュレーションRPGのボスみたいだな」
けれど、これは現実だ。これだけの威力の攻撃を連射するなんて普通は不可能。必ずカラクリがあるはずだ。
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