第183話 王都奪還作戦会議
◇
『ドルゼーバ帝国』の追撃部隊を撃破した俺たちは王都奪還を視野に入れた作戦会議をしていた。
『第七ドグマ』の作戦会議室には『聖竜部隊』の主要メンバーを始め騎士団員が大勢集まっている。
この部屋の中心には円卓状のテーブルが置かれていて普段はそこで話し合いをするのだが、今回は人が集中しすぎたので皆立ちながら説明を聞いている状況だ。
円卓机の椅子に座って作戦会議の中心になっているのはシャイーナ王妃とクレイン王太子だ。作戦参謀としてガガン卿とシェリンドンが補佐に付いている。
現在ガガン卿が王都の状況について説明をしている。
「――現在、王都の上空には『第七ドグマ』と同型の飛空要塞<フリングホルニ>が駐留している。その飛空要塞が放つエーテル干渉波によって長距離エーテル通信が使用できない。その為、国境戦から撤退した王都騎士団と連絡が取れないばかりか国内各地の騎士団との円滑な情報のやり取りが不可能であり、王都奪還に必要な戦力が中々揃わないというのが重要な問題点だ」
ガガン卿が話を終えて一息ついていると今度はシャイーナ王妃が続きを話し出す。
「おまけに王都周辺には帝国の装機兵部隊が放たれていて、王都騎士団と接触することも難しい状況よ。王都奪還には王都騎士団の戦力が必要。けれどその為には、まずあの飛空要塞から発信されている干渉波を止めなければならないわ。――つまり、ここの戦力だけで飛空要塞に乗り込み干渉波の発信装置を破壊する必要があるの。けれど、今回の作戦では『第七ドグマ』は後方配置になるわ」
周囲が一気にざわつき始める。飛空要塞ほどの巨大な構造物を攻め落とすのに飛空艇と装機兵だけで対処しなければならない。
帝国は十五隻もの飛空艇で『第七ドグマ』に攻撃してきたが、ここにはその半分にも満たない五隻の飛空艇しかいない。圧倒的に手札が足りないのだ。
そこでシャイーナ王妃はシェリンドンに目配せをすると今度は彼女が作戦説明を引き継ぐ。
「それでは、ここからは私シェリンドン・エメラルドが作戦説明を致します。まず今回の作戦で『第七ドグマ』を後方待機にする理由は戦闘の位置関係にあります。帝国の飛空要塞は現在、王都並びに『第一ドグマ』の上空で待機しています。つまり飛空要塞が破壊され地上に落下した場合、王都と『第一ドグマ』に大きな被害が出ます。王都住民は『第一ドグマ』の地下居住区に避難していますが、飛空要塞二隻分の質量が地上に落下した際のエネルギーは地下施設に崩落を起こす程の規模になります。まだ一隻分の落下エネルギーなら地下施設には影響が出ないという計算が出ました。このような経緯から『第七ドグマ』は後方待機となった次第です」
説明が一度区切られるとさっきのようなざわつきは起こらなかった。「なるほど」と所々から聞こえ皆納得がいった顔をしている。
それはそうだろう、戦いに勝っても救うべき住民が全滅しては何の意味もない。
「ここから飛空要塞攻撃の詳細説明になりますが、攻撃に参加するのは『聖竜部隊』のみとなります。竜機兵チームを搭載した<ニーズヘッグ>は飛空要塞の高度よりも更に上、高高度まで上昇し接近します。一定範囲まで近づいた後<ニーズヘッグ>は急降下をしつつ全火力を前方に集中させ敵砲台を破壊、強行突破し飛空要塞に肉薄します。そこで竜機兵チームを出撃させ、要塞並びに干渉波の発信装置の破壊を行います」
かなり無茶な作戦だが、これは確かに<ニーズヘッグ>にしか出来ない戦法だ。
飛空要塞に発見されるのを遅らせるために高高度からの電撃戦をするのだろうが、そもそも一般の飛空艇では高高度まで上昇するのは不可能。
加えて要塞攻撃時に必要な攻撃力、防御力、機動力にしても性能が相当高くなければ、敵の迎撃で落とされるのがおちだろう。
現状、作戦遂行可能な条件を全て満たしているのは<ニーズヘッグ>だけになる。
「<ニーズヘッグ>以外の戦力は干渉波が消失した後に長距離エーテル通信で王都騎士団と連絡を取りつつ、王都周辺にいる敵地上部隊の掃討を行ってください。その際、先の戦いで王都を破壊した
王都奪還の作戦会議が終了し参加していた人々が部屋から出て行った。さっきまで人口密度が高かった作戦会議室が一転して広く感じる。
部屋の真ん中にある円卓には両手を組んで考え事をしているシャイーナ王妃、会話をしているクレイン王太子とシェリンドン、難しい顔をしているガガン卿がいた。
俺たち竜機兵チームも部屋を出ようとするとガガン卿が近づいて来た。
「すまんな、またお前たちにばかり負担をかける」
「そんな事気にしないでくださいよ。俺たちの部隊は強敵を相手する為に作られたんですから。それにガガン卿たちも王都周辺にいる敵の大部隊と戦わないといけないから大変じゃないですか。お互いに頑張りましょう」
「うむ、そうだな」
ガガン卿と俺たちは作戦に向け機体調整の為に格納庫に向かう。そこにはクリスティーナも一緒だった。
今しがた後にした作戦会議室の方を気にする様子を見せていたのでどうにも気になる。
「機体のメンテナンスなら後でもいいんだし、お母さんやお兄さんの所に行ってきなよ」
「いえ……いいんです。まだ作戦の細かい話で忙しいでしょうし、お疲れのようですから。戦いが終わって落ち着いてからにします」
クリスティーナはきりっとした表情になって足早に格納庫の方に歩いて行く。どうにも様子がおかしいと思っているとシオンが原因を教えてくれた。
「僕も詳しくは知らないんだが王都を脱出する際にシャイーナ王妃と何かあったらしい。ここに来てからも二人で会ったりもしていないようだ」
「――つまり、親子喧嘩だと」
「たぶんそうだろう。クリスはあれで結構頑固な部分があるからな。あの感じだと作戦開始までに王妃と仲直りをする気はなさそうだ」
なるほどね、そういうことか。うーん、普段なら誰かの喧嘩とかに口を出すのは無粋かと思うんだけど、状況が状況だからなぁ。
俺がどうするべきか悩んでいるとシオンと目が合った。
「――お互いにおせっかいな性格だよな」
「そうかもしれない」
「あっ! 忘れ物したからちょっと戻るよ。皆は先に格納庫に行ってて」
我ながら非常にわざとらしかったが、そそくさとその場を離れて会議室に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます