第182話 僕がシステムTGだ②
「なっ、これは……!」
「体内のナノマシンを活性化させて自己修復機能を最大にしたのです。失った血液はさすがに戻らないのでこれでも食べてください」
そう言ってセシルは呆然とする二人にチョコレートを渡した。
「すまねぇな……ってボコボコにしたのはお前だしお礼を言うのはおかしいか」
「そうですね。ここでお礼など言われてしまうと、ラファエル様はドMの気があると認定せざるを得ないので言わないのをお勧めします。それとドM気質の方は既に沢山いるのでキャラ立ちしませんよ」
「何の話だよ……あと一応訊いておくけどよ。システム
「ああ、それなら……セシル」
シリウスがセシルに指示すると彼女は一礼した後に「ストレージ」と呟いた。
すると彼女の頭上に巨大な天使の輪が出現し、その向こうの空間には彼等を見つめる巨大ロボットの顔があった。
その姿を見てミカエルとラファエルは思わず息を呑む。そこにいたのは最強の熾天機兵だったからである。
「<ヴィシュヌ>……こんな所にいやがったのか」
「どうりで捜しても見つからないはずだ。ストレージの中に隠されて常に移動していたのだからな。しかし、大型の装機兵一機を収納可能なストレージとは、本当にとんでもないメイドだ」
「痛み入ります」
――それから四人は今後のことを話し合っていた。世界の終焉を食い止めるという共通目的を持ちながらも、互いに『聖竜部隊』と『クロスオーバー』という敵対関係に別れた彼等。
その状況下において『聖竜部隊』の味方とも言い難い行動をするシステムTGに疑念の目を向けるミカエルは情報を整理した上で最後の質問を彼にする。
「お互いの最終目標が同じなのは分かった。そこに至るまでの経緯が相いれないことも。――だが、システムTG。転生者と新人類に試練を与え続け、お前は最終的にどのような行動に出る気だ?」
この場にいる全員の視線がシステムTG――シリウスに集中する。そんな彼は少し考えてから口を開いた。
その内容は現在敵対関係にあるミカエルやラファエルでさえも複雑な心境を感じてしまうものであった。
「本当にそれでいいのか? それでお前は納得できても、あの小僧は――」
「いいんだよ、ラファエル。これまで他に解決方法はないか色々シミュレートしたけど、これが最も確実な方法なんだ。それに、そこに至るまでに彼らが相応しい存在に成りえなかったと判断したら、その時は迷うことなく僕は自分の全戦力を持って対処するつもりだ」
シリウスの迷いのない瞳を見たミカエルは踵を返して通路の出入り口に向けて歩き出した。
「お前がそう決めたのなら俺たちがとやかく言う問題ではないな。敵同士であるなら戦うだけだ。お前が未来を託す彼等と俺たち、どちらが生き残るのか。――ただ、お互いに宿願が果たせるように前に進むのみ。また会おう、シリウス、セシル」
一人背中を向けて歩いて行くミカエルをシリウスとセシルはポカンとした表情で見送り、ラファエルは悪戯っぽく笑っていた。
「『また会おう』だとよ。あいつは本当に素直じゃないな。――さて、それじゃ俺も行くぜ。シリウス、セシル、お互いに悔いが残らないように全身全霊でぶつかり合おうや。それとお前等に朗報だ。『第七ドグマ』撃破に向かった帝国の大部隊が返り討ちに遭った。『聖竜部隊』は健在のようだから、近々ここに攻め込んで来るかもしれねぇ。その時は連中の実力をもう一度俺が確かめてやるよ。じゃあな!」
ラファエルはミカエルの後を追って行き、二人だけになったシリウスとセシルは『聖竜部隊』が無事である報を受け安堵の表情を見せていた。
「彼らが無事で良かったですね、シリウス様」
「そうだね」
「ハルト様の安否について不明のままなのが残念ですね」
セシルが心配そうにシリウスを見ると以外にも彼は笑っていた。何故彼が笑っているのか分からずその真意を問う。
「何故笑っておいでなのですか? ハルト様の生死はまだ――」
「生きているよ。さっきの話で確信した。『第七ドグマ』に集まっている戦力の大半は空中での戦いに対応できないはず。帝国は<フレスベルグ>の量産に成功しているし、飛空艇もかなりの数が投入された。――それでも負けたということは、空の戦いで帝国の部隊を圧倒する何かがいたという事になる」
「――まさか!?」
「あそこにはマドックさんが残って何かをしていたからね。オシリスの復興を手伝っていた頃は設計室に缶詰めになっていたし、新型機を用意していたとしても不思議じゃない。であれば、そんな特別な機体を乗りこなせる人物は一人しか思い浮かばない。――ハルトが新型で敵を倒したんだ」
「という事でしたら計画は次の段階に移行するという事でよいのでしょうか?」
「そうなるね。セシル、これから忙しくなるよ」
「了解しました、マスター」
シリウスとセシルはシナリオを次の段階に以降するべく行動を開始した。
システムTGの所在と目的を知ったミカエルとラファエルは『クロスオーバー』としての活動をしながらも独自の考えで動き始める。
一方でその戦力の全容が明らかになっていない『クロスオーバー』本体と組織をまとめるガブリエルは今後どのように動くのか。
王都の地下に佇む妖精王の中では囚われた聖女が深い眠りについたままであり、その力に心を奪われたジュダスは不敵な笑みを見せている。
様々な者たちの思惑が絡み合う中、再び王都を巡る戦いの火ぶたが切られようとしていた。
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