第181話 僕がシステムTGだ①
青年は姿が時々消えたり現れたりしながら柔和な笑みをミカエルたちに向けている。
神秘的な雰囲気を醸し出す青年を目の当たりにして二人は驚きを隠せないでいた。
「お前はシリウス・ルートヴィッヒ……何故お前がここに。それに今お前が使用しているのは光学迷彩か。――それをどうやって?」
「結論を急ぐなんて君らしくないね、ミカエル。思索に思索を重ねて物事の真実を探求する。――それが君のスタンスだと僕は常々思っていたんだけどね」
シリウスは親しい者を見るような目でミカエルとラファエルを交互に眺め語り掛ける。二人はそんな彼とある存在のイメージが重なって見えた。
「――おい、ミカエル。信じられないかもしれないが、俺は今あいつとアレが似ていると思ったんだが、お前はどうだ?」
「奇遇だな、俺もそう感じた。だが、もしそうだとしたら悪い冗談だ。俺たちにとっても『聖竜部隊』の連中にとってもな。――そうだろう、〝システム
ミカエルがその名を叫んだ瞬間、その場が凍ったように静まり返る。しばらくしてシリウスの傍らにいるセシルが頬に付着した返り血を気にすることなく口を開いた。
「すぐに分かってしまいましたね。やはりもう少し演技をしてみた方が良かったのではありませんか?」
「いやー、でもさ。この雰囲気でそんなことしたら空気が読めない痛い人間だと思われちゃうじゃない。僕はナイーブだからそういうの気になっちゃうんだよね」
正体を隠す素振りもなくシリウスは自身がシステムTGだと言ってのけた。
自分たちの推測が当たっていたと判明したミカエルとラファエルは改めて驚きつつも、目の前で繰り広げられる緊張感のない会話に呆れていた。
「マジかよ。本当にお前がシステムTGなのか? だってお前は――」
「『ドルゼーバ帝国』の元貴族シリウス・ルートヴィッヒ。そんな彼に転生した異世界の人間、黒山修。他のアバター転生者とは異なるケースの転生者だと言いたいんだよね。一応、ジュダスも僕のケースと似ているけど、彼は能力的にはアバター準拠なんだよね。まあ、そんなことはどうでもいいか」
ラファエルの言葉を遮り疑問にシリウスは答える。その口調は事実だけを述べる淡々としたものだった。
「お前がシステムTGだとしたら、シリウスとなった転生者は最初から存在しなかったということか?」
「いいや、それは違うよミカエル。僕はシリウスとなった黒山修と融合した存在なんだよ。僕はシリウスであり黒山修でありシステムTGでもあるのさ。一応、第三特異点としての側面もあるんだけど、第四特異点のハルトの方が影響力がずっと強いからほとんど死にスキルになっちゃったね」
「ハルト・シュガーバインか……あの男が大事にしているティリアリア・グランバッハは現在ジュダスの手に落ち<オーベロン>に組み込まれている。お前とそのメイドの力があれば、それを食い止めることも容易だったはずだ。何故そうしなかった?」
その質問がされた時、一瞬だけシリウスの表情が曇るのをミカエルは見逃さなかった。
「全てはこの世界を滅びの道から救う為だよ。ハルトたちは順調に成長しているけどそれだけでは十分とは言えない。彼等の爆発的な成長を促すためには、それ相応の試練が必要だったんだ。だから、敢えてジュダスの行為に目を瞑った」
「成程ね。だとしたら、相当酷い話じゃねぇか。お前が連中の成長を促すためにやった行為は、あいつらから大事な者を大勢奪う結果になった。まぁ、それをやった俺たちが言えた義理じゃないけどな」
「そうだね、ハルトや皆がこの事実を知ったら僕を許さないだろうね。――けど、そんな些末な事は重要じゃない。僕がこの世界に呼んだ転生者たちと新人類の手によって今度こそ世界の終焉を食い止める。僕はその為だけにここにいるのだから」
最初はおどける様子を見せていたシリウスであったがその目は真剣そのものだ。彼の意志の頑なさを理解したミカエルとラファエルは彼の行った行為についてこれ以上どうこう言うつもりは無かった。
だが気になる問題は他にもある。それはシステムTGである彼の傍に仕えるメイドの存在だ。
彼女はナノマシンで肉体を強化した人種〝オリジン〟たるミカエルとラファエルを圧倒して見せた。
その身体能力や身体の頑丈さから見ても新人類とも思えぬ存在だったのだ。再び彼等から異形の者を見るような目で見られたセシルはポーカーフェイスで見つめ返す。
「どうやら私が何者なのか気になっているようですね。隠す必要もないので説明しましょうか。――私は
「アンドロイド――人造人間か。成程それなら納得だ。常人離れした頑丈さと体捌き。それに加えて最強の熾天機兵である<ヴィシュヌ>の戦闘用AIの組み合わせとはな。俺の攻撃がかすりもしないはずだぜ」
「君たちでも歯が立たないのは仕方がないよ。『クロスオーバー』にある戦闘用シミュレーターはセシルが担っていた。戦闘の師匠である彼女相手じゃ分が悪すぎたのさ。君たちの戦い方は彼女に熟知されているからね」
シリウスが苦笑いしながらセシルを見ると彼女は頷いて傷だらけの二人の所まで歩いて行く。
そしてそっと二人に手を伸ばして触れると彼らの傷が急速に塞がっていった。
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