第179話 絡み合う思惑
『ドルゼーバ帝国』によって占拠された王都。その『アルヴィス城』付近にある地下施設に巨大な装機兵――<オーベロン>の姿があった。
元々<オーベロン>が安置されていたこの地下施設には独自に装機兵のメンテナンスを行える設備が揃っており、先の戦闘後はここに戻り機体の調整が行われていた。
<オーベロン>の操者となったジュダスは血塗られたような赤い機体を眺めて満足そうな顔をしている。
その時、この施設を訪れる二人の男の姿があった。
「やれやれ、よくもまあ飽きないもんだな。そんなにその機体がお気に入りかよ」
黒髪短髪で筋骨隆々の男――ラファエルは呆れた顔で悦に浸っているジュダスに話しかけたが、自分だけの空間に踏み込まれた彼は迷惑そうな顔を隠そうとはしない。
「あんたたちか……確かラファエルにミカエルだったね。いったい何の用だ?」
「随分と冷たい反応だな。お前が<オーベロン>に乗れるように機体を改造してやったのは俺たちの組織だぞ。感謝はされても邪険に扱われるのは面白くないな」
「それに関して感謝はしているよ。けど、その代わりにこの世界のルーツになったゲームの情報を色々と教えただろ? それで貸し借りは無しになったはずじゃないかな」
ジュダスの人を食ったような態度にラファエルは苛つきを見せるが、ミカエルは手で彼を制すると感情を見せずにで淡々と要件を伝えた。
「ここには別れの挨拶に来ただけだ。俺はこれから用事を済ませた後ここを発つ。一応ラファエルは残るがお前と顔を合わせることは無いだろうからな」
「ふ~ん、そうなんだ。それはご丁寧にどうも」
ミカエルたちに全く関心を示さず格納庫に佇む妖精王を見てニタニタ笑うジュダスに対し二人は嫌悪感を覚えていた。
「そう言えば、『ドルゼーバ帝国』への合流を断ったそうだな。一人で何をする気だ?」
「ああ、そのことか。別にあんな連中と手を組まなくたって、この<オーベロン>一機があれば何の問題もないからだよ。僕がこいつを手に入れた時点で僕はこの世界の神になったも同然なんだ。気に入らないヤツは徹底的に潰してより住みやすい世界にするだけ。連中が邪魔をするのなら破壊してしまえばいい」
「随分と気が大きくなったじゃねぇか。たかが装機兵一機を手に入れただけでそんなに変われるもんかね?」
ハンガーデッキに移動しながらラファエルはジュダスの変貌ぶりに苦笑していた。目的地に到着し<オーベロン>に追加された装置に手を置くとハッチが開放される。
その中には触手のような機械に縛られたティリアリアが収まっていた。この装置に組み込まれた時から聖女はずっと眠ったままだ。
その寝顔を複雑そうな表情でラファエルは見ていた。
(やはり似ているな、何処となくあいつの面影がある。この銀色の髪……あいつの血が受け継がれているんだな)
ラファエルがティリアリアをまじまじと眺めていることに気が付いたジュダスは一瞬驚いた顔をするが、間もなくクスクスと声を出して笑い出した。
「へえ~、意外だね。そんな女があんたの好みだとはね。僕にはそんなモブ女のどこがいいのかよく分からないよ。おまけにそいつはあのハルトとかいうモブ野郎の手が付いた中古品だよ。聖女様が聞いて呆れるよ」
「――おい、あまり調子に乗ってんじゃねえぞガキ!!」
ラファエルは今までにない怒気のこもった声と表情で聖女を嘲笑するジュダスを睨み付けた。
彼から発せられる殺意に危険を感じたジュダスは顔を強張らせながら後ずさりをしていた。
「な、なんだよ。本当の事じゃないか。聖女って言うのは純潔であるべきだろ。それを捨てた女なんて僕にとっては無価値なんだよ」
未だジュダスを睨み付けるラファエルに落ち着く様に促すとミカエルは無表情を崩さずに話の続きをするのだった。
「お前が女性に対してどういう幻想を持っているかは知らないが、そんなことは俺たちにはどうでもいい話だ。――ただ一つだけ忠告しておく。『第七ドグマ』追撃に向かった部隊から昨日、彼等の発見とこれから交戦するという通信が送られたのを最後に連絡が取れなくなった」
「それじゃあ、返り討ちに遭ったんじゃないの? お粗末な結果だね」
「恐らくは全滅したのだろうな。――ただ問題なのは、『第七ドグマ』へ送られたのは飛空艇十五隻、装機兵百機以上から成る大部隊だったという事実だ。あそこには『聖竜部隊』が逃げ込んでいたはずだが、彼等とその他の僅かな戦力だけでこれを退けたとなると看過できない」
ジュダスは両手を上に挙げてやれやれという感じで首を左右に振る。真剣さを感じさせない彼の態度を目の当たりにしながらもミカエルは淡々と続ける。
「今回の竜機兵の性能は今まで繰り返されて来た場合と比較してかなり強力になっている。ドラゴニックウェポンやドラグーンモードといった機能は今まで存在していなかったしな。あまり彼等を甘く見過ぎていると足元をすくわれるぞ。――それと、お前は<オーベロン>を手に入れて神にでもなったつもりのようだが、所詮こいつは強力な力を持った兵器でしかない。より強い力を持った存在が現れた時スクラップにされるのがおちだ。死にたくなければ悪い事は言わない。<オーベロン>を帝国に渡して何処か遠い所で隠遁生活でも送った方がいい」
「ふふ……あははははははは。そんなことを言って本当は僕が羨ましいんだろ? この絶対的な力を手に入れた僕をさ。せっかくの忠告だけどそんな必要はない。竜機兵にしても多少パワーアップしたところで僕の敵にはならないさ。――あ、もしかしてお前たちが<オーベロン>を欲しいんじゃないの? 悪いけどその手には乗らないよ。あれは僕のものなんだからね」
話の通じない相手を前に目を閉じながらミカエルは心底呆れていた。ハンガーデッキから降りてきたラファエルはジュダスに対し冷笑を浮かべながら言った。
「何か勘違いをしているようだが、俺たちはお前の
ラファエルの馬鹿にしたような物言いに苛立つジュダスは彼を睨み付けて敵意を剥き出しにする。
それを見てラファエルは満足したらしく鼻で笑って見せた。ミカエルは溜息を吐くと踵を返して出口に向かって歩き出す。
「忠告はしたぞ、これで俺たちは失礼する。もうお前と会うことはあるまい。――さらばだ」
未だ睨んでいるジュダスに一方的に別れを告げるとミカエルとラファエルは地下施設を去り外へと向かって行った。
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