第178話 国を支える者たち


 <ニーズヘッグ>のブリッジでは皆が唖然としていた。つい先ほどまで包囲網を敷いていた敵飛空艇八隻が瞬く間に撃沈されたのである。

 激しく燃え上がりながら落ちていく敵を見ていたアメリが我に返り、現在の状況を確認する。


「これは……! て、敵飛空艇は全滅しました。残存戦力は<シルフィード>と戦闘中の<フレスベルグ>五機と『第七ドグマ』に降下した部隊のみになります」


 その報告に皆がざわついた。苦戦を強いられていた戦況が<サイフィードゼファー>一機の参戦でがらりと変わってしまったのだ。

 <ニーズヘッグ>の船首に佇む白い機体に皆の注目が集まる。すると操者から連絡が入った。


『こちら<サイフィードゼファー>、敵飛空艇の全機撃墜完了。これより本機は<シルフィード>と合流し敵空中戦力の殲滅に向かいます』


「りょ、了解しました」


 ハルトは機体を飛竜形態に変形させるとシオンを援護する為に飛んでいった。

 アメリが『第七ドグマ』に敵増援はもうないことを告げると士気が向上した装機兵部隊は敵残存機を一気に殲滅するのであった。

 一方の空中戦においてもハルトが合流するまでもなく敵装機兵との戦いに集中していた<シルフィード>によって<フレスベルグ>は全機が破壊された。


 戦闘が終了し出撃していた全戦力が『第七ドグマ』に帰還する中、<ニーズヘッグ>の目の前には<サイフィードゼファー>と<シルフィード>が飛行していた。

 ブリッジでは空戦に乱入してきた聖竜機兵の話題で盛り上がっていた。

 この機体に関しては開発中という噂があっただけで既に完成していたとは皆知らなかったのである。

 唯一状況を把握していたシェリンドンは部下たちから質問攻めにされて疲れて……などいるわけが無く喜々としながら説明をしていた。


「――そうなのよ。<サイフィードゼファー>は両脚部にもアークエナジスタルを追加したことで、足回りの出力が段違いに向上しているの。それに現在の状況でドラグーンモード発動時の<サイフィード>を上回る出力を誇っているわ」


「それはつまり、<サイフィードゼファー>にもドラグーンモードが搭載されているということですの?」


 ステラが挙手をして質問するとシェリンドンの目の輝きが一層強くなり説明したくて堪らないという顔をする。

 だが「それに関してはまだ秘密」と言われ、ブリッジではざわつきが起こっていた。

 その様子を見ていたハルトとシオンは苦笑いをしながら『第七ドグマ』に着陸するべく機体の高度を下げていた。


「緊張感が皆無だな。戦闘は終わったが基地に戻るまで気を抜かないのが基本だろうに」


「まあ、そう言うなよシオン。『第七ドグマ』でも周囲に敵が残っていないか監視してるし、俺たちも警戒態勢は解いていないから大丈夫だろ。<ニーズヘッグ>のブリッジクルーは全員が錬金技師だから新型の装機兵が出てくれば気になるのは当たり前だろうし」


 戦闘直後であるにも関わらず冷静な様子のハルトを見てシオンは彼の変化に気が付いた。

 戦闘時における彼の強さはこの上なく心強い。だが精神面に関しては命のやり取りをするには優しすぎると以前から思っていた。

 それがストレスになってどんどん蓄積していけば、いつか精神を病んでしまうのではないかと危惧していたのだ。

 

「ハルト……何か吹っ切れたようだな」


「どうしたんだよ、突然。……でも、そうだな。色々考えることは沢山あるけど、いつまでも誰かに甘えているわけにはいかないって思っただけさ。悩んだり迷ったりを繰り返して前に進んで行かないと絶対に後で怒られるしね」


 空を見上げながら笑っているハルトを見てシオンもまた微笑んでいた。今まで自分たちを引っ張ってくれた先達の多くはもういない。

 これからは自分たちが中心となりこの国を支えなければならないのだ。


「そうだな、その通りだ。これからは僕たちがこの国の屋台骨を支えていかないといけないんだよな」


 これまで以上の責任と決意を胸にハルトとシオンは『第七ドグマ』へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る