第177話 星屑の刃

 敵の撃墜を確認して機体を加速させながら<ニーズヘッグ>に向かう。その周囲に<カローン>四隻が包囲網を敷いているのが見える。

 他にも<フレスベルグ>の姿もある。<シルフィード>はこの鳥型装機兵の部隊とたった一機だけで戦っていた。


「シオン、そのまま持たせてくれ。俺は先に<ニーズヘッグ>の援護に向かう」


『ハルトか!? 僕なら大丈夫だ、向こうを頼んだぞ!』


 シオンは一人で母船を守りつつ敵装機兵部隊を抑えていた。それが無ければいくら<ニーズヘッグ>でも危険な状態に陥っていただろう。

 <シルフィード>と入れ替わる形で<ニーズヘッグ>の援護に入る。前方では複数の飛空艇がド迫力の砲撃戦をしていた。

 帝国の飛空艇が<ニーズヘッグ>を落とすためにどんどん集まって来る。こうなりゃ、一気に叩き落とすしかないな。

 まずは手始めに目の前にいる二隻の<カローン>に狙いを絞る。丁度俺の前方で二隻は重なるような位置にいた。


「突っ込むぞ、<サイフィード>。術式解凍――リンドブルムッッッ!!」


 飛竜形態の<サイフィードゼファー>を強力なエーテル障壁で包み敵飛空艇に突撃させる。

 俺の接近に気付いてエレメンタルキャノンを撃ってくるが、そんなのが当たるはずはない。

 突撃の速度を落とすことなく俺は飛空艇のど真ん中を二隻連続でぶち抜いた。その二隻は船体に火が回って行き下降しながら火だるまになっていった。


 そのまま<ニーズヘッグ>の上側に位置取ると機体を人型に変形させて船首部分に強行着陸する。


「<サイフィードゼファー>着艦します!」


 エーテルスラスターで落下速度を落として出来るだけ衝撃を和らげたつもりだったが、足を接触させた時に結構激しく火花が散ったので焦ってしまう。

 恐る恐るその場所を見ると少しではあるが船首部分に傷がついていた。


「――こんくらいなら大したことないかな」


『んなわけあるか、どうしてくれるんだ。俺の可愛い<ニーズヘッグ>の玉のお肌に傷ができちゃったじゃないか!』

 

 被害が大したことは無かったので胸を撫で下ろしていると、モニターに操舵手であるハンダーさんの怒り心頭の顔が映ってビクッとした。

 普段は物静かな彼だが飛空艇――ことさら<ニーズヘッグ>に関しては異常な反応を示す。

 噂では彼はこの大型飛空艇を自分の恋人のように思っているらしい。多分それは本当なのだろうと俺は思う。

 だって、俺の知る限りドグマの錬金技師は興味のある事をとことん追求する変態集団なのだから。飛空艇を恋愛対象にしている人がいても別に驚かない。


 涙ぐむハンダーさんの近くから「キモッ」という声が聞こえる。これは辛口貴族令嬢のステラの声だ。

 するとハンダーさんとステラの口喧嘩が始まりオペレーターのアメリが仲裁に入った。

 戦闘中だというのにブリッジ要員のメイン三人組がわちゃわちゃとやり始めた。

 それでも<ニーズヘッグ>は敵の砲撃を巧みに躱すし、オペレーター二人はシェリンドンの指示を的確に実行している。

 『聖竜部隊』の人員って変態ばかりだけど、何やかんやで凄い優秀な人材ばかりだよな。


『三人共、そこまでにしなさい。今は戦闘中なんですよ!』


 緊張感がない三人にとうとうシェリンドンの雷が落ちた。ばつが悪そうな顔をするステラとハンダーさんを他所にアメリだけは物凄く嬉しそうだった。

 その時の彼女の表情とフレイアのイメージが一瞬重なったが、俺は見なかったことにする。

 この部隊で唯一まともだと思っていたアメリがフレイアと同じ趣向の持ち主とか結構きつすぎる。

 俺は何も見なかった、何も聞かなかった。

 現実逃避をしているとシェリンドンがモニター越しに微笑んでいるのに気が付く。


『ハルト君、意識が戻って良かったわ。それに早くも<サイフィードゼファー>を乗りこなしているみたいね』


「いやいや、まだコイツの性能を引き出せてないよ。まだ試運転の段階ってとこかな。――ということで<ニーズヘッグ>は進路そのままでよろしく。周囲の敵飛空艇編隊を一気に殲滅するよ!」


『分かったわ、アレを使うのね。ハンダー君、進路そのまま。ステラ、エーテル障壁最大出力』


 シェリンドンの指示を受けた二人が命令を実行する。

 そんな中、船首で仁王立ちする<サイフィードゼファー>の前方では八隻の<カローン>がエレメンタルキャノンを放っていた。

 エーテル砲弾は防御に徹する<ニーズヘッグ>のバリアに弾かれていくがそう長くは持たない。

 そうなる前に一瞬でケリをつける。ワイヤーブレード参式にエーテルを集中し切っ先を天に掲げる。


「ワイヤー、エーテルエネルギーカット――ブレードパージ!」


 エーテルで構成されたワイヤーを消し、刀身を形作っている幾つもの分割された刃を空に向けて射出する。

 それらは流星のように光りながら不規則な軌道で近くの敵飛空艇に向かって行った。一つ一つ刃にエーテルと俺の意識を集中させる。


「――見えたっ! 術式解凍……スターダストスラッシャーーーーー!!」


 分割された刃たちが一斉に素早く動き出し<カローン>のブリッジと動力部を破壊していく。

 一瞬で二隻を同時に沈め、次の標的に向かわせ再び二隻を沈める。攻撃部位をブリッジとエンジンに絞ることで効率的に撃沈していく。

 飛空艇の運航を司る脳と心臓を同時に潰された後は、抵抗することもなく身体を燃え上がらせながら落ちていくのみだ。


「これでラストだ。――落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺の命令を受けて流星のように輝く無数の刃が空を高速で飛んでいき、残り全ての飛空艇を撃沈した。

 炎上する飛空艇同士がぶつかり合い一層強く燃え上がり爆散する。空を赤く染め上げる光景を目の当たりにしながら、任務を終えた刃の群れをこちらに戻す。

 つかつばだけになっているワイヤーブレード参式に再びエーテルのワイヤーを発生させると、そこに分割された刃たちが次々と帰還し一振りの剣の姿へと戻った。


 以前のワイヤーブレードは特殊繊維のワイヤーと分割された刃によって構成された剣だった。

 使い勝手が優秀な武器だが構造上耐久性が低いという弱点があった。その弱点を克服しつつ機能を進化させたのがこのワイヤーブレード参式だ。

 ワイヤーと刀身はエーテルブレードと同じように術式制御でエーテルを物質化させたものに変更している。

 これで強度が段違いに上がった。そこから更に改良が加えられて分割された刃を飛ばして遠距離攻撃を可能とする機能が追加された。


 その成果がこれだ。八隻の飛空艇を瞬殺してしまった。機体性能も武器の性能も以前とはレベルが違う。

 ――これなら戦える。あの<オーベロン>や<シヴァ>とも渡り合える。

 この機体には新たに追加された、とっておきの機能がある。それを使いこなせれば、あの化物共とも互角に戦えるはずだ。

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