第176話 戦場を駆ける聖竜機兵
◇
第七隔壁が開放されるとマドック爺さんが言っていたように敵装機兵が群がっているのが見えた。
そこにいた機体はゲームのストーリー中盤以降『ドルゼーバ帝国』の主力量産機となる<ドール>だった。
<ガズ>に毛が生えた程度の性能だが、とにかく数が多くて倒すのが面倒だったという思い出しかない。
こっちが一機しかいないと分かると一斉に攻め込んで来た。
俺は予め左手に装備していた新武装ワイヤーブレード参式を使用した。
以前のものよりやや大型化した刀身をいくつにも分割させ、鞭のように振うと一瞬で<ドール>の群れをバラバラに斬り裂く。
「凄い……鞭形態のしなやかさと威力が以前とは段違いだ」
破壊された敵機の集団は次々に爆発炎上し煙が立ち込める。その中を一機の<シュラ>が駆け抜けて来るのが見える。
この状況で突っ込んで来るとは勇気があるのか無謀なのか。……正直俺には判別し難いが、彼我戦力差の見極めが甘すぎるということだけは分かる。
「悪いけどここから先には行かせられないよ!」
剣を構えて刺突攻撃を仕掛けて来るが動きが遅い。左手のワイヤーブレード参式で剣を切り払い、右手に装備した専用エーテルブレードでコックピットを突き刺す。
帝国の機体の中でも高性能機にあたる<シュラ>が相手にならなかった。この短時間で<サイフィードゼファー>が如何に優れているのかが分かってしまった。
エーテルブレードを引き抜きながら蹴り飛ばすと間もなく<シュラ>は炎上した。その炎の向こうにはまだまだ沢山の敵が残っている。
「マドック爺さん、<サイフィード>を外に出すからすぐに隔壁を閉じてくれ」
『分かった。それよりもハルト――名前、<サイフィードゼファー>じゃからな!』
「分かってるよ。でも名前が長くて言いにくいんだよ。<サイフィード>には変わりないんだから普段呼ぶのはこれでいいじゃないか」
爺さんは少し不満そうな顔をしていたが、再び機体名を言おうとした時に舌を噛んだらしくそのまま回線を閉じてしまった。あれは痛そうだ。
<サイフィードゼファー>を前進させながら敵の種類を確認する。<ガズ>、<ドール>、<ヴァジュラ>、<アリエテ>――『ドルゼーバ帝国』の量産型装機兵が勢揃いしている。
「まるで帝国製装機兵の見本市だな。上空じゃ<フレスベルグ>の群れが飛んでるし――蹴散らすぞ、<サイフィード>!」
両手に持った剣にエーテルを集中し敵部隊に突っ込む。こっちを包囲するように展開してきたところを蛇腹剣で迎撃し一気に胴体を真っ二つにする。
敵が怯んだ隙に間合いを詰めてエーテルブレードとワイヤーブレード参式の二刀流で斬り刻んでいく。
俺と機体の反応速度が完全にマッチしていて非常に動かしやすい。それに敵はこっちの攻撃速度に付いて来れないみたいで鍔迫り合いすら発生しない。
完全に俺の独壇場だ。二十機以上いた敵の集団は二分足らずでスクラップと化していた。
一段落すると少し離れた場所で戦っていたフレイアたちが敵部隊を倒し終えてこっちに合流した。
『ハルトさん、その機体はいったいなんなのですか? <サイフィード>に似ていますが――』
クリスティーナたちに<サイフィードゼファー>のことを手短に話すと皆絶句していた。そりゃそうでしょうよ、少し前の俺も同じ反応していたよ。
『こんなとんでもない機体を秘密裏に造っていたとは、さすがマドック錬金技師長だな。それにシェリンドンさんも一緒に開発していたとは――。あの人は本当に凄い人だよ。同じ女性として尊敬しかできない』
フレイアが目をキラキラさせながらシェリンドンを褒めちぎっている。
ドMのフレイアではあるがぞんざいに扱われるだけでなく普通に優しくされるのも好きであり、気がついたら母性の塊であるシェリンドンを尊敬するようになっていた。
上空を見ると、そのシェリンドンたちが乗っている<ニーズヘッグ>が敵の集中砲火に晒されていて危険な状態だ。
「これから俺は<ニーズヘッグ>、<シルフィード>と合流して空の敵を叩く。そうすれば『第七ドグマ』への敵の増援も止まる。皆は引き続きここに降りた敵の掃討を頼む」
『分かった。こっちは任せて』
パメラたちが見守る中、機体脚部のアークエナジスタルにエーテルを集中し上空を見上げる。
「――跳ぶぞ、<サイフィード>」
地面を思い切り蹴って上空目がけて跳躍する。その反動でコックピットに荷重がかかった。
「ぐっ、くぅぅぅぅぅぅ!」
一瞬意識が飛びかけたが何とか耐えてジャンプの最高度に達した。
下側には『第七ドグマ』を始め、空中戦をしている<ニーズヘッグ>や帝国の飛空艇<カローン>の編隊が見える。
アークエナジスタルで脚部の出力を上げていたとは言え、これだけ高く跳躍したことに驚いてしまう。
「なんてジャンプ力だ。エーテルスラスターを使わずにここまで跳べるなんて。――驚いている場合じゃないな。シェリーやシオンの援護に行かないと!」
エーテルスラスターを噴射し<ニーズヘッグ>に向けて高度を下げながら飛んでいく。
俺に気が付いた<フレスベルグ>三機が向かってくる。攻撃可能範囲に入るとエレメンタルキャノンを次々に撃って来た。
「狙いが甘いんだよ」
最小限の動きでそれらの攻撃を躱しながら敵との距離が近づいていく。今度は巨大な爪をこっちに向けて発射した。
爪と敵本体はワイヤーで繋がっており捕まえられたら厄介だ。エーテルブレードで切り払いワイヤーを切断する。
一番前にいる敵の鳥顔に剣を突き刺し、そのまま身体を真っ二つに斬り裂いた。間髪入れずに蛇腹剣を伸ばして二体目の身体に巻き付ける。
刀身を元の状態に戻そうとすると巻き付けた刃がチェーンソーのようになり削ぎ斬って撃墜した。
「二機撃破――あと一機!」
近づこうとすると危険と判断したのか<フレスベルグ>は速度を上げて離れていく。このまま逃がすわけにはいかない。
「逃がすかっ!」
ストレージにアクセスし機体の一部形状変化とパーツ交換により一瞬で飛竜形態へと変形する。
翼を大きく羽ばたかせ各部エーテルスラスターを全開にして追尾すると一気に追いついてしまった。
以前よりも飛竜形態の速度が格段に上がっているようだ。
「追いついたぞ。これでもくらえ!」
敵の後ろに張り付きドラゴンブレスを当てていく。敵の翼や胴体が吹き飛び速度を落とさないまま空中分解していった。
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