第175話 第七隔壁より現れし者
フレイアは『第七ドグマ』に降下してきた帝国の高性能量産機<ヴァジュラ>の部隊と交戦していた。
この敵は彼女にとって思い出深い相手であった。
「こいつの相手をしているとハルトと初めて一緒に戦った時を思い出すな。あの時私は<ウインディア>で戦っていたがこいつ一機を倒すのに相当苦戦させられた」
昔を思い出しながらフレイアは一機、また一機と<ヴァジュラ>を二刀のエーテルソードで斬り伏せていく。
左右から同時に敵機が剣で斬り込んで来るがそれを後方に飛んで回避した。
「そんなノロマな攻撃では私を捉えることは出来ないぞ」
着地と同時にエーテルスラスターを噴射して再び敵に接近する。エーテルソードの柄頭を接続して
その間に近づいて来た敵を膝部ブレードを赤熱化させたニースラッシュで蹴り斬る。
全身が鋭利な刃物と化した<ヴァンフレア>は舞うように周囲に群がる<ヴァジュラ>を確実に仕留めていった。
数で圧倒していた帝国の装機兵部隊は一機の赤い竜機兵相手に歯が立たず、斬り裂かれ燃やされていく。
炎の剣神を前にして帝国の操者たちは恐怖を植え付けられていた。そんな中、三機の装機兵が前に出た。
その姿を捉えたフレイアは目を細めて睨み付ける。
「あれは……以前『第一ドグマ』を襲撃した<シュラ>か。あの時はスルード隊の乗機で手強い相手だったが――今の私と<ヴァンフレア>の相手としてはどうかな?」
先に動いたのは<シュラ>だった。三方向に別れて<ヴァンフレア>を囲むように展開する。
「囲んで一気に攻めて来る気か。悪くない手だが私相手には――悪手だ!」
フレイアは迷いなく正面にいる<シュラ>目がけて機体を走らせる。一瞬戸惑う挙動を見せる相手だったが、槍を装備して迎え撃つ体勢を瞬時に整える。
その様子から相手は手練れだと判断するフレイアであったが、彼女もまた死線を潜り抜けて来た猛者である。
敵の刺突攻撃を紙一重で回避しすれ違いざまに斬撃を浴びせ、更に振り向きざまにもう一撃加えた。
それでも<シュラ>は落ちずフレイアに向かってくる。
「さすがそう簡単には落ちないか。――<ヴァンフレア>!」
二刀のエーテルソードの刀身が燃え上がるとフレイアも敵に向かって行く。
「これで決めるっ――フレイムクロスッ!!」
炎の十字斬りが炸裂し<シュラ>の厚い装甲を溶断する。瞬時に炎が全身に回っていき炎上爆発した。
味方が撃破されたにも関わらず、残り二機の<シュラ>は動揺することなく<ヴァンフレア>に接近する。
その内の一機に炎を帯びるエーテルランスを投擲するとコックピット部に突き刺さりそのまま燃え落ちた。
「――これで二機目。あと一機!」
三機目の<シュラ>と剣をぶつけ合い刀身から火花が散る。そこから流れるような剣戟で敵を斬り刻みバラバラに散らせた。
「三機目撃破! <シュラ>相手にはよくやった方か。だが、
その時、空から降下してくる敵の装機兵部隊が見えた。すると『第七ドグマ』側から敵に向けて無数のエーテル弾が放たれる光景が映る。
空中で動きが鈍った装機兵は為すすべなく撃墜されていく。
「あの攻撃は<ドラタンク>か。兄さんも頑張っているようだな。――よし、次の防衛ポイントに向かう!」
一方、フレイはこれ以上の敵の上陸を防ぐために砲台が破壊されたエリアに移動し<ドラタンク>で迎撃を行っていた。
「くそっ、まだまだ降りて来やがる。やっぱり<シルフィード>と<ニーズヘッグ>だけじゃ、空の大部隊相手には分が悪いな。せめてもっと空を飛べる機体がこっちにあれば」
フレイたちの頭上では帝国の飛空艇編隊や<フレスベルグ>といった空中戦力と戦うシオンやシェリンドンたちがいた。
空中で戦える戦力が少ないためシオンたちは苦戦を強いられている。そんな彼等を抑えつつ帝国側は飛空艇から次々と装機兵を『第七ドグマ』に降下させていた。
<ドラタンク>の周りでは『第七ドグマ』に降りた機体とガガン卿率いる装機兵部隊が交戦し、フレイの砲撃を援護していた。
そのような激戦が続く中、『第七ドグマ』の第七隔壁周囲には敵機が集中しこのままでは敵が内部に侵入してくる恐れがあった。
竜機兵三機が敵の侵入を防ぐべくその付近で応戦していると突然第七隔壁が開き始める。
思いがけない状況にクリスティーナたちは動揺を隠せない。
「そんなっ、どうして第七隔壁が開いていくのですか!?」
「まずいよ、このままじゃ敵が一気に入り込んじゃう。急いで止めないとヤバいよ」
「――くそっ、雑魚が邪魔をして! まずいぞ、隔壁に気が付いた敵が移動を始めている!!」
フレイアたちの視線の先では完全に開放された第七隔壁に走って行く<ドール>の集団がいた。
三人が急いで向かおうとした時、隔壁の内側から鞭のようなものが伸びて一瞬で<ドール>数機をバラバラに斬り刻んだ。
破壊された<ドール>は連鎖的に燃え上がり周囲に爆発の煙が広がっていく。それを利用して一機の<シュラ>が内部に侵入を試みる。
「しまった! 侵入されたっ」
フレイアが思わず叫ぶ。クリスティーナもパメラも彼女と同じように考え、内部が蹂躙される最悪の状況を思い浮かべる。
だが煙が風で流されるとそこにはまだ<シュラ>がいた。
何故かと思い三人が目を凝らすと、敵の胴体を剣が貫いていた。コックピットを一突きする一撃。操者は恐らく即死だっただろう。
煙が更に晴れるとその剣の所有者の姿が露わになる。
純白の装甲に深紅のデュアルアイ、背部のエーテルマントをたなびかせるその姿は、王都で破壊された<サイフィード>を彷彿とさせるものであった。
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