第174話 父の死を乗り越えて


 『第七ドグマ』に『ドルゼーバ帝国』の飛空艇が特攻してきたことで敵の上陸を許してしまった。

 それにより『第七ドグマ』の一部では砲台が破壊されてしまい、弾幕が薄くなった箇所から次々に帝国の装機兵部隊が降下して来る。

 出撃した『アルヴィス王国』所属の装機兵部隊は『第七ドグマ』上で敵との交戦を余儀なくされていた。

 竜機兵チームも飛行可能な<シルフィード>以外は敵の迎撃に当たっており、各々が獅子奮迅の活躍をしてこれ以上の被害拡大を何とか抑えている状況だ。


「前方に<ガズ>十機――それならこれで! エーテルフラガラッハ射出、攻撃開始!!」


 <アクアヴェイル>の周囲に発生した魔法陣から三基のエーテルフラガラッハが出現し水のチェーンソーを発しながら敵集団に向かって行く。

 さらにクリスティーナはエーテルアローで敵装機兵を撃ち抜いていく。

 <ガズ>部隊は水の弓矢の攻撃を避けようと散開するものの、回り込んで来た三基の水の刃で機体を真っ二つに裂かれて次々と爆発していった。


「全機撃破! ――ですが、まだまだ来るみたいですわね」


 敵部隊を全滅させたのも束の間、次の敵部隊の接近を知らせる警報がコックピットに鳴り響く。

 それからモニターに映ったのは今まで見たことの無い機体だった。

 緑色を基調としており<ガズ>よりも幾らか高いエーテル反応がある。それが十機以上確認できることから量産機であることは間違いない。

 問題はその後方にいる通常の装機兵よりも一回り巨大な茶色い機体だ。

 この機体は全身が太いパーツで構成されており、重装甲で見るからに防御とパワーを重視している。


「やはり新型が出てきましたか。帝国が休戦に応じたのはこれらの機体を配備するための時間稼ぎだったようですわね。――でも、その間にこちらも相応のパワーアップを果たしたのです。負けはしませんわ!」


 緑色の量産機<ドール>はゲームでは物語中盤以降『ドルゼーバ帝国』の主力量産機となる機体だった。

 性能は<ガズ>を全体的に一回り強くした程度である。あくまで複数機での運用を前提とした機体だ。

 茶色い機体は量産型重装機兵<アリエテ>だ。重装機兵<エイブラム>のサイズと性能を落として量産化に至った機体である。

 耐久性とパワーだけなら帝国の高性能機である<シュラ>をも超える危険な機体だ。


 ゲーム後半のストーリーで『ドルゼーバ帝国』を支える二種類の装機兵がフォーメーションを組んで<アクアヴェイル>一機に向かって来る。


「ここで食い止めて見せます。わたくしはもっと強くならなければならないのですっ!!」


 エーテルフラガラッハ三基が円を描くように高速飛行し巨大な魔法陣を形成する。クリスティーナは機体の両手にエーテルを集中させ、そこにも魔法陣を作り上げた。


「これならばっ! シャーマニックフォーメーション、エーテル集中――リヴァイアサン!!」


 <アクアヴェイル>の両手の魔法陣から圧縮された水の砲撃が発射される。

 それがエーテルフラガラッハの魔法陣に直撃すると、リヴァイアサンは拡散し幾重もの水の砲撃となって敵部隊にくらいついていく。

 <ドール>は木っ端こっぱ微塵みじんに吹き飛ばされ、装甲の厚い<アリエテ>もそのほとんどは撃破されていった。

 生き残った機体は各部を損傷しながらも青い竜機兵目がけて全速で特攻を仕掛けて来る。

 その直後、それらの機体はエーテルアローで急所を射抜かれその場で機能停止していった。


「――ふぅっ、とりあえずこのエリアの敵は殲滅しましたわね。移動しますわよ、<アクアヴェイル>」


 父の死を乗り越えたクリスティーナは精神的な成長を遂げ、激戦止まぬ『第七ドグマ』を駆けて行った。




 一方、『第七ドグマ』の別の場所では<アリエテ>数機相手に<グランディーネ>が奮闘していた。


「こんのぉぉぉぉぉ、ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇ!」


 エーテルスラスターで加速し左腕のエーテルシールドでぶつかると、一回りサイズが大きい敵機がよろめく。

 その隙にエーテルを込めた右腕のパンチを敵腹部に叩き付けた。


「インパクトォォォォォ、ナッコォォォォォ!!」


 右腕の打撃と同時に放たれた衝撃波が<アリエテ>の腹部に大穴を開け吹き飛ばし、間もなく機体は爆発した。

 爆炎から姿を現した大地の竜機兵はチェーンハンマーを装備し敵集団に思い切りぶつけていく。


「今の私を止めるにはあんた等じゃ役不足よ。止めたきゃもっと強いヤツを出してこいっつーの!」


 パメラが気合いの進撃を続けていると前方に大きなエーテル反応がある。そこに向けてモニターを最大望遠にすると、巨大な装機兵――重装機兵<エイブラム>の姿があった。

 かつて『第二ドグマ』で戦った際には散々苦戦させられた強敵。その危険さを知っているパメラは敵の砲撃が放たれる前に沈めようとエーテルスラスターを最大にして真正面から突っ込んで行く。

 前方では<エイブラム>が魔法陣を展開し高火力を誇るエレメンタルバスターの発射準備に入っていた。


「やばっ、やっぱりあいつ一気に周囲を吹き飛ばす気だ。この位置じゃ発射は阻止できない――それならっ!」


 パメラは逃げることなく<グランディーネ>をそのまま<エイブラム>に突貫させる。

 それに気が付いた重装機兵は狙いを近づいてくる山吹色の竜機兵に定めて大出力のエーテル砲を発射した。

 パメラは両腕部のシールドでそれを受け止め機体を閃光が覆う。

 直撃しながらも勢いを落とすことなく<グランディーネ>は敵に向かって突き進んでいく。

 間もなくエレメンタルバスターの放射が終わり、閃光の中から姿を現した<グランディーネ>の両腕部では白金の盾が光り輝いていた。


「そんなんじゃエーテルアイギスを壊すことは出来ないよ。――ここからは私のターン。行くよっ、<グランディーネ>!!」

 

 エーテルアイギスにエーテルが集中すると強力な防御障壁が展開される。パメラは更に機体を加速させて、エーテルハルバードを構える<エイブラム>に突撃した。


「でえりゃあああああああああっ、ファフニールで沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 高速移動と絶対防御の障壁が合わさったパワーによって<エイブラム>の大型武器は一瞬で砕け、本体も後ろに吹き飛ばされる。

 それでも追撃の手を緩めないファフニールによって堅固な装甲は歪み砕けていく。


「まだ倒しきれないか。――それならこれでどうよっ!」


 ファフニールでダメージを与えながら、<グランディーネ>の拳が深々と敵の腹部に突き刺さる。

 その腕部から衝撃波が連続で敵に叩き込まれ、内部からその巨躯を食い破っていく。そして、<エイブラム>は完全に破壊され爆発した。

 ゼロ距離で爆発に巻き込まれた<グランディーネ>だったが、爆炎から現れたその姿は煤まみれであったものの損傷はほとんどない状態であった。


「――勝った!」


 かつて歯が立たなかった相手を圧倒したパメラは自分と愛機の成長に確かな手応えを感じていた。

 エーテルレーダーにはまだ敵の反応が多数見られる。パメラは次の敵部隊に向けて移動を開始した。

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