第166話 白竜が朽ちる時①

 俺とガガン卿は互いの敵に向けて機体を走らせる。後方を捉えるモニターに<シヴァ>と衝突する<ガガラーン>の姿が見えた。

 俺は――今の俺には自分が戦うべき敵の姿がはっきり見える。救うべき人がそこにいる。

 <オーベロン>の攻撃範囲に入ると無数のエレメンタルキャノンが向かってくるのが見えた。

 エーテルの弾幕をかいくぐりながら妖精王目指して俺は突き進んで行く。敵機からは俺を挑発する笑い声が聞こえて来た。


『自分の恩師が死んだってのに仇と戦うんじゃなく、自分の女を助けるためにこっちに向かって来るとはねぇ。随分と酷い教え子だよなぁぁぁぁぁぁ、モブやろおおおおおおおおお!! 草葉の陰でランドが泣いてるじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


「お前が教官を語るな! ランド・ミューズは俺が最も尊敬する人物だ。家族を愛し、仲間を愛し、俺たち教え子を愛し導いてくれた人物だ。誰かを守り助ける為の戦いなら、ランド教官は笑って俺の背中を押してくれるっっっ!!」


 すれ違いざまに<オーベロン>の頭部に一太刀入れ、敵がよろめく。

 向こうは図体がデカい分的が大きい。反応は早いがそれでも<サイフィード>の方が機動性は高い。

 何としてでもティリアリアが囚われている装置を探すんだ。


「ティア! 何処にいるんだ。今助けるから場所を教えてくれ!!」


『無駄だよ。あのモブ聖女は装置に取り込まれて生態ユニットと化している。意識は<オーベロン>の中に溶けて消えているはずだ。――もう、ティリアリア・グランバッハなんて狂犬女はこの世にいないんだよっ!!』


「うるさいっ、てめぇは黙ってろ!! ティアを助けたら次はお前だ。お前はこの世界をゲーム感覚で支配しようとする危険な思想を持っている。同じ転生者として、聖騎士の称号を託された者としてお前は俺が必ず倒す!!」


『ほんっとうに生意気なんだよ、モブ野郎があああああああああああああ!!』


 <オーベロン>のフォトンソードとの鍔迫り合いを経て敵の真上に<サイフィード>を飛ばす。

 エーテルカリバーンの切っ先を敵の頭部に向けて機体を急降下させる。


「もらった!!」


『止めてハルト。私を殺さないでっ!!』


 <オーベロン>の頭部に剣が刺し込まれようとした瞬間、ティリアリアの絶叫が聞こえ反射的に攻撃を中止した。

 その直後コックピットに衝撃が走ると内部に歪みが生じ、計器類やモニターのいくつかに亀裂が入って使用不可になる。

 <サイフィード>が受けたダメージの一部が痛みとして俺にフィードバックされ身体中を激痛が襲った。

 

「がっ、はぁっ……!」


 生き残っているモニターにジュダスが笑い転げている姿が映る。笑いすぎて涙を流しているようだ。

 本当に何処までも腹の立つヤツだ。ジュダスは笑い声を押し殺すようにしながらモニター越しに俺を見ていた。


『くはははははははははははは! バーカ、バーカ、バークァァァァァァァァァァァ。まさかこんな古典的な手に引っかかるとはねぇ』


『お願いハルト。私を助けて。私を殺さないで。攻撃を止めて――』


 ジュダスのセリフがティリアリアの声に変換されて聞こえて来る。それで俺はさっきの彼女の声の真相を知った。


「さっきの……ティアの声はそれだったのか」


『その通りだ。あのモブ聖女はお前の女なんだろ? そりゃあ、攻撃できないよなぁぁぁぁ。愛する女の悲しい叫び声なんて、僕だったら絶対に聞きたくないよ。――でも、この狂犬聖女もお前も大っ嫌いだから、全然心は痛まないけどねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


「――本当に恐れ入ったよ。何をどうすればお前みたいなクズになれるのか想像もつかない」


 気が付くと赤い液体がコックピットの一部を染め上げているのが見える。それに鉄の臭いがする。――もしかして、これ全部俺の血か? 

 薄れゆく意識の中、僅かに動いているモニターで機体の状態をチェックするとどうしようもない状況になっていた。

 <オーベロン>の五本指から出力されている五本の光針に<サイフィード>の四肢とコックピット付近が貫かれて身動きが取れなくなっている。

 <シルフィード>が急いで救援に向かってくる様子が見えるが、ジュダスの性格を考えるとこれは罠だ。

 俺を囮にして仲間を巻き込もうとしている。


「シオン……来るんじゃない。それ以上近づいたら<オーベロン>の攻撃範囲に入っちまう」


『馬鹿を言うなっ。今すぐに助けるから、少しだけ待っていろ!!』


 <シルフィード>のダメージがある程度回復しているのが見えて俺はホッとした。後方には<アクアヴェイル>がいるようだ。

 きっとクリスティーナが修復してくれたのだろう。

 痛みと出血で意識が遠くなっていく。すると急に機体が動き出した。いや……違うな。俺は動かしていないから、これはジュダスがやっているのだろう。


『レディースア~ンドジェントルメェン、これより本日のメインイベント。白竜の解体ショーを始めようと思いまぁぁぁぁぁっっっす! さあああああああ、御覧あれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 コックピットにいきなり荷重がかかる。そこで俺の意識は――途絶えた。

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