第167話 白竜が朽ちる時②
◇
シオンたちの目の前では<オーベロン>の五本の光針に刺し貫かれた<サイフィード>が力なくうな垂れていた。
その内の一本はコックピット付近を貫通しており危険な状態だ。
シオンが助けに行こうとするが、ハルトは遠のく意識を振り絞って近づかないように言う。
一方で動きが慎重になった<シルフィード>を見て、思惑が外れたジュダスは残酷な儀式を実行しようとしていた。
『レディースア~ンドジェントルメェン、これより本日のメインイベント。白竜の解体ショーを始めようと思いまぁぁぁぁぁっっっす! さあああああああ、御覧あれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
ジュダスは<サイフィード>を刺したまま機体の腕部を振り上げて白い竜機兵を空高く放り投げる。
その様子は王都上空に入っていた<ニーズヘッグ>からも見えており、ブリッジにいるシェリンドンは両手を口に当てて涙を流していた。
「いや……やめて……やめて……お願い……やめてぇぇぇぇぇ」
ブリッジクルーたちも、母船から発進したばかりのフレイア達もその儀式を遠くから見ていることしか出来ない。
同様に王都上空から戦いを見物していたラファエルは軽蔑するような目を<オーベロン>に向けていた。
王都に集った敵味方が見守る中、その儀式はついに開始された。
『これで吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇ、シャイニングレイッッッ!!!』
<オーベロン>の頭上に浮かぶエーテルハイロゥが輝くと巨大な魔法陣が展開される。そこから光の湾曲ビームが大量に発射される。
空中で脱力している<サイフィード>の身体を無数の閃光が貫通していき、純白の装甲が砕かれ弾け飛んでいく。
破壊されたアークエナジスタルが爆散し大量のエーテル粒子となって大気に還っていった。
機体内部でエーテルを運搬する循環液が血液のように噴き出し王都の大地に雨となって降り注ぐ。
――そして白い竜機兵は原型を留めない状態となって地面に音を立てて落下した。
「ああああああああ、ハルトさん!! いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ハルトォォォォォォォォ、くそぉぉぉっ!! クリスは<ニーズヘッグ>に行け。僕は<サイフィード>を回収して撤退する」
涙ぐむクリスティーナは母親と兄を見てシオンに頷く。
「――分かりましたわ、シオン。ハルトさんをお願いします」
「そのつもりだ!!」
シオンは<シルフィード>を猛スピードで飛行させて、見る影もなくなった<サイフィード>のもとへ滑らせる。
四肢を破壊され頭部が半壊した白竜を見てシオンの中で最悪の状態が脳裏をよぎる。しかし、そこである事に気が付いた。
(胸部装甲が抜かれていない。……コックピットは無事の可能性が高い。――生きている!)
「ガガン卿、撤退します。そっちは――」
<ガガラーン>は<シヴァ>と戦っていたが、『聖竜部隊』が撤退を始めるとミカエルは<シヴァ>を下がらせた。
敵の謎の行動を不審に思いながらもガガンは<ニーズヘッグ>へ向けて撤退を始める。
「こちらも撤退を開始した。シオン、ハルトは無事なのか!?」
「分かりません。コックピットは無事だと思いますが、ハルトが通信に応答しません!」
焦りながらも二人が<ニーズヘッグ>へ向けて逃げ出すと、その進行方向に<オーベロン>が先回りする。
『逃がすわけないだろ。お前等まとめてここでぶっ潰してやる』
<オーベロン>が両手からフォトンソードを発生させて斬りかかろうとするが、途中で動きが鈍くなり光の剣も消えてしまった。
『なっ、なんだ急に動かなく……。どうなっているんだ、このポンコツが。――待てよ、まさか……お前の仕業か、クソ聖女?』
ジュダスはモニターに映るティリアリアを訝しむように見るが彼女は眠ったままで反応は無かった。
<オーベロン>が動きを止めている隙に<シルフィード>と<ガガラーン>は全速で<ニーズヘッグ>へ帰還した。
再出撃していたフレイアとパメラは機体を船の甲板に待機させながら、王都上空で沈黙を守る<ブラフマー>に注意を向けていた。
「全員戻ったわね。――<ニーズヘッグ>機関最大、全速でこの空域を離脱します!」
味方機全機が戻った<ニーズヘッグ>は崩壊した王都を後にし、南方にいる『第七ドグマ』を目指して飛び去って行った。
多くの被害を出しながら高度を上げて撤退していく巨大竜。そこから舞い散るエーテルフェザーの光はまるで涙のようであった。
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