第163話 妖精王の降臨

 『アルヴィス城』が崩壊していく中、クリスティーナ達は無事に<アクアヴェイル>のもとへ到着していた。


「お母様はコックピットの中へ入ってください。お兄様、申し訳ありませんが<アクアヴェイル>の手で我慢してくださいね」


「それで構わない。すまないな、クリス」


「クリス、それでは<ニーズヘッグ>までお願いしますよ」


「――分かりましたわ」


 先程の平手打ちの件以降、母娘の間には微妙な空気が漂っていた。それでもクリスティーナは頭を左右に振り、今自分が出来ることをしなければという思いを胸に機体を起動させる。

 そんな彼女が目の当たりにしたのは更なる衝撃的な現実であった。

 

 『クロスオーバー』のセラフィムシリーズの一機<シヴァ>。その機体を相手にしていた四機の装機兵が満身創痍の状態になっていたのである。

 <ウインディア>は剣を破壊され機体各部は損傷し立っているのもやっとの状態だった。

 <ガガラーン>は左腕を引きちぎられ、残った右腕のみで専用チェーンハンマーを操りハルトたちを援護している。

 <サイフィード>と<シルフィード>は両機ともドラグーンモードを発動しつつ、ドラゴニックウェポンを装備して<シヴァ>と壮絶な空中戦を繰り広げていた。

 しかし、竜機兵二機の装甲は所々欠損し内部フレームが露わになっていて、この攻防戦においてどちらが優勢なのかは火を見るより明らかであった。


「ハルト、挟み撃ちにするぞ。おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「任せろ。はあああああああああああああああああああっ!!」


 敵の左右から猛スピードで白と緑の竜機兵が接近する。その手には黄金の光を纏った剣と暴風を纏った剣を携えている。


「くらえええええええええええええ、ディバイディングストーム!!」


「これで決めるっ! 術式解凍、コールブランドォォォォォォォォォ!!」


 二機が同時に放った必殺の一撃を<シヴァ>は赤金色の光を纏わせた剣で受け止めた。


『大したパワーだな。ならば、この<シヴァ>最大の術式兵装で返してやろう。……ルドラソード最大出力。エーテルハイロゥ臨界突破――サシパンジャラ!!』


 超高密度の風と炎のエーテルを纏った<シヴァ>の剣は巨大な赤金色の刃を形成し、二機を術式兵装ごと切り払った。

 

「うあああああああああああっ!!」


「くうううううううううううっ!!」


 渾身の一撃を簡単に無力化されたハルトとシオンは敵の圧倒的な強さに驚愕しながら眼下の建物に墜落した。

 敵の攻撃と落下のダメージで二機の竜機兵のドラグーンモードは強制解除され、機体はズタズタの状態になっていた。

 

「くそっ、まだだ! まだ、俺は――戦える!!」


 ボロボロになっていた<サイフィード>の全身が光り輝くと、完全に破損していた部位以外が修復され戦闘前の状態へと戻る。


「……はあっ、はあっ、はあっ……ぐっ、くぅ……」


 白い竜機兵が再生した様子を見ていた<シヴァ>の操者〝ミカエル〟は冷静沈着な姿勢を全く崩してはいなかった。


『機体を再生させたようだが、それを使ったのは何回目だ? マナを大量に消費するスキルを連発するとは――死ぬぞ?』


「気に掛けてくれるなんて随分優しいじゃないか。新人類を抹殺しようとしているヤツの言葉とは思えないな!」


『憎まれ口を叩くだけの元気は残っているか、とんだ化物だな。――以前、『オシリス』でお前たちが戦った<ナーガ>だが、あれは破壊される寸前に我々にあるデータを転送していた。それによると<サイフィード>の操者は〝第四特異点〟であるということだった。こうして実際に目の当たりにしてみて、それが本当だったと認識させられているよ』


「第四特異点? そう言えば、アザゼルがそんなことを言っていたな。その特異点がどうしたってんだ!?」


『重要な話だ。特異点はこの世界のことわりに干渉して、それまでには起こりえなかった事象を引き起こすトリガーになる。第一特異点であるカーメル三世は繰り返される世界において記憶を保持出来る能力を持っていた。第二特異点であるティリアリア・グランバッハはそれらの世界での記憶を断片的に覚えており、その影響か莫大なマナを保有するイレギュラーな存在となっていた。それにより彼女は聖女と言われるようになっていたな』


「なん……だって? ティアが第二特異点……これまでの世界線の出来事を覚えてた? それじゃ……まさか……<オーベロン>の事も……」


『完全ではないにしろ認知していたはずだ。自分がこれまでに竜機兵を葬って来たケースも、逆に自分が葬られるケースもな』


「そんな……そんなの嘘だ。今まであいつからそんな話をされたことなんて無かったぞ!!」


(でも……待てよ。俺が転生者だと打ち明けて<オーベロン>の話をした後、ティアは機体の特性を知っていた。俺もゲームで散々苦戦させられて知っていたから違和感なく受け入れていたけど……俺は<オーベロン>の性能について話をしたことは無かったぞ……)


 ハルトの表情が変わっていくのを見てミカエルは哀れむような顔を彼に向けていた。


『今頃気が付いたか、哀れだな。第四特異点のお前はこれまでの特異点よりも強大な影響力を持っている。その力を上手く使えていれば彼女を助けることも出来たかもしれないが――それももう遅い』


「それはどういう意味だ! いや、それよりもティアは今何処に――」


 ハルトの顔が真っ青になりティリアリアの所在を確認しようとした時、突然地響きが発生した。

 『アルヴィス城』付近にある小さな沼から水気が引くと表出した沼底が左右に割れて、その奥から巨大な物体が姿を現す。

 それは赤を基調とした装甲を身に纏う大型の装機兵であった。その巨躯を完全に地上に出すと背部の巨大な翼を展開する。

 さらに頭頂部の上に天使の輪のようなものを発生させると、機体はふわりと宙に浮き始めた。

 それを目の当たりにしたハルトは身体を震わせ、青ざめた表情でその名を呟くのであった。


「見間違いなんかじゃない。妖精王……<オーベロン>……そんな……何でこいつが王都の地下から出て来るんだよ!?」


 ハルト以外の者たちも信じられないという表情で地下から姿を現した怪物を見上げていた。


「な……あれは何なんですの? いえ、わたくしは知ってる……あの血のように赤い装甲、巨大な翼に天使の輪……あ、ああ……」


 クリスティーナは本能的な恐怖を感じていた。初めて見たはずなのに身体が覚えている。抗えない死の感覚が彼女の身体を蝕んでいく。

 それに近い感覚をシオンも感じていた。恐怖を伴った既視感によって身体の震えが止まらない。


「あれがハルトの言っていた<オーベロン>なのか。僕は……あいつと戦ったことが……ある。初めて見たはずなのにそう断言できる。……何なんだこの気持ちの悪い感覚は?」


 突如姿を現した妖精王を前にハルトたちが動けないでいると、強制的に繋げられたエーテル通信によって男性の笑い声が響き渡って来た。


『ふふふふふははははははははははははっ! 見たか愚民共、この神の降臨をっ。くくくくくく、あはははははははははははははははっ!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る