第161話 王都脱出開始

 <ドラタンク>の全弾発射時による爆発の煙が風に流され少しずつ消えていく。持ち得る限りの最大攻撃を連発した三人は敵が倒されている状況を願っていた。


『やれやれ、今の連携攻撃にはさすがの俺もひやっとしたぜ』


 その願いは無情にも敵操者の無事を告げる音声によって砕かれ、煙の中からダメージは負ったものの未だに健在な熾天機兵してんきへい<ブラフマー>が姿を現した。


「そんな……術式兵装を連続でくらって無事だと……。こんなヤツをいったいどうしたら倒せるというんだ?」


「まだ……まだやれるよ。ダメージは与えてるんだ。連続でたたみ掛ければ……」


『――止めときな。これ以上戦ってもお前等に勝ち目はねぇよ。さっきの攻撃は俺がお前らを甘く見ていたから綺麗に決められた。けどなぁ、俺はもうお前等を雑魚とは見なさないぜ。そう簡単には当たってやるつもりはねぇよ。それとその戦車モドキはエネルギーと弾切れでもう使い物にならんだろ』


「くそっ!」


 ラファエルにはもうフレイアたちを軽んじる様子は無かった。十分な余力を残す敵に対し彼らは戦意喪失していた。

 <ブラフマー>には本来の位置にある物以外に両肩と背部に頭部パーツを有している。

 その合計四つの顔のフェイス部分が開放されると露わになった〝口〟から周囲に衝撃波が放たれた。


「うああああああああああっ!」


「きゃあああああああああ!」


「ぐああああああああああっ!」


 その範囲内にいた三機は衝撃波によって装甲に亀裂が入り、吹き飛ばされると建物に衝突した。

 一瞬で戦闘不能に追い込まれた三機の竜を黒い死神の双眸が冷たく見下ろしていた。


『これがこいつの術式兵装ハウリングボイスの威力だ。――それと戦意喪失している奴等にこんな事を言うのは酷かも知れねぇが一応言っとくぜ。セラフィムシリーズにはな、この<ブラフマー>と同等以上の性能を持つ機体があと二体いる。その内の一機が今王都でお前等のお仲間と戦っているわけだ。更に予定ではもう一機、セラフィムシリーズに匹敵する機体が乱入する手筈になっている。……これで分かったろ? この戦いでお前等が俺たちに勝てる見込みは無いってことに』


 ラファエルが告げた内容はフレイアたちや会話を聞いていた『第一ドグマ』の者たちを絶望させるのに十分な破壊力を持っていた。

 <ニーズヘッグ>で待機していたシェリンドンたちは敵の機体性能を分析した結果、自分たちの勝率が限りなく0に近いという現実を導き出していた。

 誰もが自分たちの全滅を覚悟しつつあった時、その音声が流れて来た。その声の主は『アルヴィス王国』ノルド国王、その人であった。


『私は『アルヴィス王国』国王、ノルド・フォン・アルヴィスだ。この声明は国内全てのエーテル通信に載せて送っている。現在、我が国は国境で『ドルゼーバ帝国』、王都では『クロスオーバー』なる組織の攻撃を受けている。多くの兵士が使命を全うしようと戦っていることだろう。しかし、この戦闘に我々が勝てる見込みはほとんどない。このままでは全滅を待つのみだ。故に私は現在戦闘を行っている騎士団並びに『聖竜部隊』の現地からの即時撤退を命令する。それに伴い『第一ドグマ』は外部からの侵入を防ぐために今から十分後に全ての隔壁を強制閉鎖する。その間に『聖竜部隊』は王都からの即時撤退をしてほしい。――我が国の勇敢なる兵士諸君。……頼む。今は何としても生き延びてくれ。そして、反撃のチャンスを――』


 そこからノイズが入りエーテル通信は途絶えてしまう。その声明を聞いたシェリンドンは、直ちに<ニーズヘッグ>の発進命令を下していた。

 地上ではラファエルが神妙な面持ちで先程のノルドの言葉を思い出していた。


『ノルド・フォン・アルヴィス――やはり中々に優秀な男だったな。これで兵士たちは無謀な戦いを止めて、その場から逃げ出す大義名分が出来たってわけだ。……命拾いしたなお前等、ここは国王に免じて見逃してやるぜ』


 そう言うとラファエルは機体を浮上させ王都に向かって飛んで行ってしまった。

 残されたフレイアたちは訳が分からないといった感じで困惑していたが、命が助かったことに安堵する。

 それから間もなくして、<ニーズヘッグ>は『第一ドグマ』脱出の為に専用エレベーターにて地上にその姿を現すのであった。

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