第159話 シヴァの力
武器を一瞬で破壊され呆気に取られていると教官の大声が聞こえて来る。
『逃げろ、ハルト!!』
「え?」
敵の攻撃は終わってはおらず、むしろここからが始まりだった。蛇腹剣を破壊した風の刃が三日月のような形状となって俺に向かって飛んで来る。
咄嗟にエーテルブレードで防御するが風の刃によってそのまま後方に吹き飛ばされ、燃える建物にいくつもぶつかりながら最後は城付近の丘に叩きつけられた。
「がはっ!!」
衝突時の衝撃で意識が朦朧とする。コックピット周囲にはエーテルによる衝撃緩和処置が施されているが、それでもこれほどの衝撃だ。まともにくらっていたらと思うとゾッとする。
視界が定まらないながらも<サイフィード>を立たせようとすると<アクアヴェイル>が傍まで来てヒールをかけ始めた。
『ハルトさん、まだ動いては駄目ですわ! ダメージの修復をしますから少し待ってください』
クリスティーナに言われて機体の状態をチェックすると風の斬撃を受けた装甲に亀裂が入っていた。たった一撃でこれほどのダメージをくらうなんて。
前方では<シヴァ>一機を相手にこちらの全機が包囲網を敷く様子が見える。囲んで全周囲から攻撃を加えるつもりだ。
全機が一斉にエレメンタルキャノンを放ち<シヴァ>の動きを止める。間髪入れず敵の正面にいる<ガガラーン>が巨大な鉄球をぶん回して投げつけた。
『これでもくらえぇぇぇぇぇぇ、ミョルニルハンマー!!』
鉄球は<シヴァ>に直撃すると高速回転を始める。鈍い衝撃音が聞こえ激しく火花が散るがどうにもおかしい。
<シヴァ>はその場から一歩も動かない。攻撃を受けて倒れるどころかよろめく素振りすら見せない。
『ぬっ、ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
ガガン卿が全力を込める声が聞こえ、鉄球の回転速度が上昇するが状況は変わらない。すると、敵操者の抑揚のない声が聞こえた。
『――悪くない攻撃だ。しかし、相手が悪かった』
徐々にミョルニルハンマーの回転が遅くなっていき、ついに止まってしまった。そこには片手で鉄球の回転を抑え込んでいる敵機の姿があった。
それを見たガガン卿たちは驚きを隠せなかった。それに絶えずエレメンタルキャノンをくらっているはずなのに全くダメージがない。
<シヴァ>の周囲にエーテル障壁が展開されており、それが全ての攻撃を弾き返していた。
『な……なんと……!!』
ガガン卿が驚きの声を漏らすと<シヴァ>が片手で鉄球を把持したまま腰を回す動作を取った。
『面白い攻撃だった。――これは返すぞ』
<シヴァ>が<ガガラーン>に向けて鉄球を投げ返し、ガガン卿はそれを両手で受け止めた。
『ぐ……ぬおおおおおおおおおお!!』
そのパワーにより<ガガラーン>は足を踏ん張りながらも後方に何十メートルも後退させられようやく止まった。
鉄球を投げ返した<シヴァ>の頭上に浮いているエーテルハイロゥの光が増していく。何か仕掛けて来るつもりか?
「シオン、ランド教官、ヤツは何かする気だ。いったん離れて!!」
俺が叫ぶと二人は急いで後退して距離を取っる。その直後、<シヴァ>を中心とした巨大な魔法陣が展開され周囲に赤い光が広がっていくのが見えた。
『これで一掃する。――ティヴァシマティ!!』
広がっていく閃光の中に逃げ遅れた<セスタス>たちが飲み込まれていくのが見えた。
やがて光が治まると範囲内にあったもの全てがドロドロに溶け落ち、<セスタス>は原型を留めない程に破壊されていた。
『そんな……一瞬で跡形もなく消し去るなんて……』
クリスティーナの声は震えあがっていた。無理もない。俺も声を出せば同じような感じになっていただろう。
周囲を溶鉱炉にした怪物は機体各部から排熱をしており、ここまで熱風が押し寄せて来る。
大気が熱で歪む中、<シルフィード>、<ウインディア>、<ガガラーン>の三機の無事な姿が見えた。
それはつまり、それ以外の味方は全滅したということに他ならない。
「クリス、ありがとう。お陰でダメージは完全に回復した。――全術式解凍、ドラグーンモード起動。ストレージアクセス……エーテルカリバーン!」
俺は<サイフィード>が最大性能を引き出せる形態に変化させた。出し惜しみをしていたら一瞬でやられる。
ヤツの高火力の攻撃を躱しつつ、あの堅固な障壁を打ち破る攻撃力が必要とされる。エーテルカリバーン装備のドラグーンモードで勝負するしかない。
敵に向かおうとした時、後ろの方から爆発音がした。何事かと思い振り返ると『アルヴィス城』の至る所で爆発が起こり、城が崩れ燃える様子が目に入って来る。
『え……そんな、どうして……?』
クリスが信じられないという表情で崩壊していく城を見ている。俺の脳裏に城にいるはずのティリアリアやシリウス達の姿が浮かび鼓動が早くなる。
そんな俺たちの動揺を見透かしてか<シヴァ>から信じられない言葉が聞こえて来た。
『予定通りと言ったところか』
「どういう……意味だ?」
『あの城には俺たちの協力者がいた。この奇襲攻撃の際に城内にある『第一ドグマ』への避難経路を破壊し、その後に城自体も爆破する予定になっていた。我先にその経路から逃げようとした者は今頃瓦礫に潰されているだろうな』
「ふざ……けるな……! この野郎、人の命を弄んで何が面白い!?」
俺が憤るとモニターに色白で切れ長の目をした青年が映った。感情を表さずにその男は淡々と述べる。
『別に何の面白みも無い。城の爆破は協力者が自分で発案し実行しただけだ。個人的には、余りいい感情を持てない男だが自分の欲望に真っすぐなヤツだ。その行動力だけは大したものだと思うよ。――それよりいいのか? すぐに助けに向かえばお前たちの知り合いの誰かは救えるかもしれないぞ』
「クリス、城に行ってくれ。まだ城は完全に倒壊していない。ティアや国王たちの性格を考えれば自分たちの避難は後回しにしていたはずだ。まだ生きている可能性が高い。――だから手遅れになる前に救助に行ってくれ」
『でも、あれだけの強敵相手にわたくしが抜けるわけには――』
「いいから早く行けっ!! あいつは俺が何とかする。頼んだぞ!!」
クリスティーナを半ば強制的に城に送り出すと、彼女は力強く頷いて城へと向かって行った。
その後ろ姿を見届けて俺は<シヴァ>に全ての意識を集中させる。
「ここまでやられて黙っていられるか。その御大層に浮いている輪っかごとぶった斬ってやる!」
<サイフィード>の全エーテルスラスターを全開にして、俺は<シヴァ>へと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます