第158話 戦慄の熾天機兵
<サーヴァント>を全滅させてひとまず戦いは終わった。『第一ドグマ』の方もそんなに苦戦せずに敵を全滅させられたはずだ。
そう思っていると<アクアヴェイル>がこっちに向かってくるのが見える。
「クリス、向こうは大丈夫なのか」
『はい。もう敵は全て倒したはずですわ。『第一ドグマ』の方は戦力的に問題ないとのことで、わたくしは一足先にこちらに援軍に参りました。――でも、その必要はなかったみたいですわね』
クリスティーナは『アルヴィス城』の無事と敵が全滅しているのを見て安堵の表情を見せていた。
他の皆も一応ホッとした表情を見せるが、それでも何かが引っかかるといった感じだ。
「教官、おかしくないですか。これだけの奇襲をやっておきながら『クロスオーバー』のオリジンたちは一人も姿を見せていないです。連中が新人類を甘く見ていると言っても中途半端すぎませんか?」
『俺も同じことを考えていた。どうにも嫌な予感がする。――ガガン卿、国境付近にいるロム卿たちに連絡はとれましたか?』
『うむ。王都が奇襲を受けたことはエーテル通信で報告した。だが、向こうも現在帝国と戦闘になっていて、こちらに戦力を回す余裕が無いらしい。今回の『ドルゼーバ帝国』と『クロスオーバー』による二ヶ所への同時攻撃……どうもきな臭い。周辺の警戒を怠るな。まだ、何か起こるかもしれ――』
その時、コックピットのアラートが鳴り響く。同時にエーテルレーダーが異常なエーテルエネルギーを感知した。
その反応は俺たちの遥か頭上から発せられている。
視線を空へ向ける。王都中の建物から出た大量の火煙の切れ間に二つの人影が見えた。
だがそれが人間でないことは明らかだ。コックピットから見えるその大きさと、ここからの距離から敵の全高が計算される。
それは両方とも約二十メートルの巨人だった。しかも頭の上に天使の輪のような物が光っている。
あれには見覚えがある。カーメルが提供してくれた記録映像に映っていた『クロスオーバー』の
そいつらに搭載されている特殊兵装エーテルハイロゥの光だ。
「やっぱり雑魚だけで済ますつもりなんて無かったってことか。いよいよ本命のお出ましかよ!」
空にいる敵の襲撃に身構えていると一機は『第一ドグマ』の方に下りて行くのが見える。そしてもう一機は真っすぐにこっちへ下りて来る。
離れていても分かる。あの二機はこれまで戦ってきたどんな敵とも違う。――強い。まだ戦ってもいないのに鳥肌が立っている。
王都に降下している敵が一気に加速して地上を目指す。
『あんなスピードでは地面にぶつかってしまいますわ』
皆がクリスティーナと同じことを考えていた。しかし地上すれすれで敵機は突然止まり、ゆっくりと足を地面に下ろした。
なんだ今の急制動は。装機兵にあんな動きが可能なのか?
機動性の高いドラグーンモードの<サイフィード>や<シルフィード>以上のスピードだった。
それにも関わらず目の前に下り立った熾天機兵は見た感じでは重装甲の機体だ。紫色を基調とした装甲に街の炎光が反射して輝いている。
今の一瞬の動作で俺は分かってしまった。あの機体はあらゆる面で竜機兵の性能を凌駕していることに。
敵の頭上では天使の輪を模したエーテルハイロゥが美しい光を放っている。その神々しさを伴った風格とプレッシャーを前にして冷や汗が流れ落ちる。
動けないのは俺だけではなかった。まるで神の降臨でも目の当たりにしたかのように皆も目を見開き震えている。
俺たちが動けないでいると突然男性の声が聞こえてきた。感情を失ったような抑揚のない声色だ。
『やはり、<サーヴァント>ではこの程度が関の山か。……まあいい。露払いを済ませただけでも上出来とするか。――さて』
熾天機兵がオレンジ色のデュアルアイで俺たちを睨む。俺たちは武器を構えるが敵はすぐに動こうとはしなかった。
『中々興味深い
「――まるで<サイフィード>が悪者のような言い方だな。元はと言えば、あんたら『クロスオーバー』が最初から本気になって世界の終焉とやらに向き合っていればいくらでも食い止めることが出来たんじゃないのか!?」
『<サイフィード>の操者か。確かにお前の言う通りだ。我々ならば世界の終焉を止められた可能性は十分にあっただろう』
「それならどうして――!?」
『カーメル三世から聞いたはずだ。これは新人類に対する試練のようなものだと。これを自分たちの力で乗り越えてこそ、テラガイアという世界は真の意味で新人類のものとなるはずだった。――だが、お前たちはその試練に失敗し続けた。八百四十二回もな。これだけチャンスを与えたにも関わらず世界を崩壊から救えないお前たちは所詮失敗作だったということだ。だから、俺たち『クロスオーバー』が再びこの世界を構築し直すと判断した。そのためにお前たち新人類は邪魔なだけ――だから抹殺するという結論に達した』
敵の声色には全く意思がぶれるようなそぶりは無い。その決意が固いことが十分に分かる。しかしだからと言って黙っている俺たちではない。
<シルフィード>が一歩前へ踏み出しながらシオンが敵に言い放った。
『そう言われて、はいそうですかと言うほど僕たちは聞き訳がよくないぞ。第一、お前たちは新人類を滅ぼすと言っておきながら『ドルゼーバ帝国』と手を結んでいる。言っている事とやっている事が無茶苦茶だ』
『あの国は他国への侵略行為に躊躇いが無い。だから少しばかりの技術と戦力の提供という形で同盟を組んだだけだ。そしてドルゼーバが世界を統一した後、この世界の利権を賭けて我々と戦うというシナリオになっている。これが一番効率が良いやり方だった。――ただそれだけのことだ』
「あんた等の言い分はよく分かったよ。何が何でも今の人類をぶっ殺さなきゃ気が済まないってことだよな。――ならさ、俺たちがやるべきことはシンプルだ。『ドルゼーバ帝国』を倒し、テラガイアの終焉を食い止める。それを邪魔するって言うんなら、あんた等『クロスオーバー』もついでにぶっ潰す。ただそれだけのこと……だよな!」
ヤツの話し方を真似て言ってやった。さあ、挑発に乗って来い。その隙を突けば多少のダメージはいけるはず。
『――ふん、つまらん挑発だな。その程度で俺が憤るとでも思ったのか? <サイフィード>の操者……確か、ハルト・シュガーバインと言ったな。お前が言ったことは至極当然のことだ。誰だって死にたくはない。それが嫌ならば全身全霊で抗うしかない。俺たちがやっているのは種の存続を賭けた戦争だ。根絶やしにされたくなければ――死に物狂いで戦うことだ』
言い終わると同時に頭上の輪っかから一本の剣が出て来た。ヤツはそれを手に取ると機体を浮遊させ俺たちに突っ込んで来た。
『全機散開しろ!』
ガガン卿が大声で命令する。皆が回避行動に移る中、俺は二刀流で敵の斬撃を受け止めた。
想像以上の攻撃力とパワーにより<サイフィード>の足が地面にめり込む。俺の両手にも攻撃の重みが伝わって来る。
一見するとやや大振りな剣のようだが、この威力は斬竜刀の一撃にも匹敵するパワーだ。
『やるな。この<シヴァ>はセラフィムシリーズの中でも上位の戦闘力を誇る。その一撃を受けきるとは。――その機体、単なる竜機兵のプロトタイプという評価で済ませる訳にはいかんな』
「くっ!」
二刀流で斬り返し一旦距離を取る。それと同時にワイヤーブレードを伸ばして敵の剣に絡ませた。
「これなら自由に剣を動かせないだろ。その隙に――」
『甘いな――クレセントエア!』
一瞬の出来事だった。<シヴァ>の剣の刀身から風の刃が発生したと思った瞬間、ワイヤーブレードが粉々に砕け散った。
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