第157話 王都炎上

「――多分奴等はオービタルリングを使って宇宙から下りて来たんだ。大気圏を突破して直接ここに攻撃を仕掛けて来た。それなら突然連中が現れたのも頷ける。……くそっ! 俺は王都に行って侵入した敵を殲滅する。他の皆は今何処にいる!?」


『<グランディーネ>、<ヴァンフレア>、<ドラタンク>の三機は既に出撃して『第一ドグマ』に降下した敵と戦闘を開始しています。<アクアヴェイル>はエレベーターにて地上に向かっている途中です』


「っ! 俺が最後か……情けない。それなら俺とシオンで王都救援に向かう。他の皆は『第一ドグマ』の敵を迎撃。戦力に余裕ができたら王都に援軍に来てくれ。――行くぞ、シオン!!」


『了解した。このまま空を飛んで一気に王都に向かう!』


 <サイフィード>と<シルフィード>は起動すると、それぞれ飛行可能な形態に変形しエレベーター用の通路を飛んで外へ出る。

 一気に空高く舞い上がった俺たちの目に入ってきたのは炎上する王都の街と眼下で行われる激しい戦闘だった。


「皆、通信は聞いていたよな。俺とシオンは王都に向かう。ここは頼んだぞ!」


『任せろ、ここは私たちが食い止める。二人は早く王都に向かってくれ。ハルト、ティリアリア様たちを頼む! ここの敵を片付けたらすぐに私たちも王都に向かう』


 敵をエーテルソードで十字に斬り刻みながらフレイアが沈痛な面持ちで俺に言った。モニターに映るパメラ、フレイ、クリスティーナが同意するように頷いている。

 一瞬クリスティーナが何かを言いかけたが、彼女はそれ以上口を開こうとはしなかった。


「分かった。ノルド国王たちも必ず助ける。――だから安心してくれ」


 クリスティーナは涙ぐみながら頷いていた。そして涙を拭うとエーテルアローで敵機を撃ち貫く姿が見えた。

 俺とシオンはここの防衛を皆に任せて王都に向かって全速で飛んでいった。

 



 王都上空に到着すると、俺は<サイフィード>を飛竜形態から人型へと変形させて地上に下り立った。


「あ……ああ……こんな……!」


 さっきまで平和そのものだった街並みが地獄絵図と化していた。

 白シーツによるカーテンは建物と一緒に燃え盛り、先日ガガン卿に奢ってもらったステーキ屋も訓練生時代に仲間と行った数々の店も炎上しているのが見える。

 建物と一緒に自分の思い出までもが燃えていくような感覚にショックを受けていたが、それは凄まじいスピードで憎しみの感情へと変化していった。

 この惨劇を引き起こした連中が目の前にいる。俺たちの街を我が物顔で闊歩し破壊し燃やしていく。

 シオンも今まで見たことの無い怒りの表情を見せていた。


「お前等……一機残らずぶっ壊してやるっ!!」


 俺は二刀流ですぐ近くにいた<サーヴァント>に向かった。こちらの接近に気が付き、剣を構えて向かってくるがそんなの知ったことか!


「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 エーテルブレードで敵の剣を砕きながら袈裟懸けに斬り裂く。そいつが機能停止し炎上するとすぐさま他の敵機が群がって来る。

 こっちから行く手間が省けたので都合がいい。


「そうだ、俺の方に向かって来い雑魚共!!」


 視界に入って来る<サーヴァント>を次から次へと斬り倒していく。距離を取ろうものならワイヤーブレードの刀身を伸ばして容赦なく乱れ斬る。

 接近してくるヤツはエーテルブレードで身体を真っ二つにしていった。

 

 離れた場所では<シルフィード>が飛行しながら敵を斬り倒していくのが見える。

 『アルヴィス城』の付近ではガガン卿の専用機である<ガガラーン>が獅子奮迅の活躍をしているのが見えた。

 近づく敵を大型のチェーンハンマーで次々となぎ倒していく。

 それとは別に<ウインディア>が数機の<セスタス>を率いて防衛線を張っていた。あの見事な統率力と防御特化の陣形には見覚えがある。


「ガガン卿、それに教官、無事だったんですね。良かった」


『お前たちも無事で何よりだ。しかし、こうも簡単に敵の侵入を許すとは……。『第一ドグマ』の方は大丈夫なのか?』


 俺は敵を倒しながら城の方に向かう。挟撃される形になった<サーヴァント>は動きが鈍り、教官はその隙をついてエーテルブレードで横一文字に斬り倒した。


「はい。向こうは他の皆に任せました。パメラも頑張っていますよ」


『そうか。まあ、パメラのことなら俺は心配していない。――強い娘だからな』


「確かに」


 敵の群れを破壊して俺は教官たちと合流した。<サイフィード>と<ウインディア>を背中合わせにして剣を構える。


「王都の住人はどうなったんですか?」


『安心しろ。特別通路で『第一ドグマ』への避難が早々に開始されている。街の大部分の人々は無事だ』


 そう言ったランド教官の表情には悔しさが見て取れる。これだけ広大な街の住人全員の避難が間に合ったはずはない。

 教官はそういった人たちの姿を目の当たりにしたのだろう。


『ランド隊長、『アルヴィス城』にいる国王やティリアリアたちは無事なんですか?』


 モニター越しにシオンが教官に訊ねるが、その表情は渋いものだった。


『城にも『第一ドグマ』への避難通路が設けられている。こうして敵の直接攻撃から守っているから無事だとは思うが楽観は出来ない。とにかく敵を全滅させないことには――』


「分かりました。教官たちとガガン卿は城の守りをお願いします。俺とシオンで王都に侵入した残りの敵を殲滅します」


 俺が作戦を提案するとガガン卿とシオンが合意してくれた。その一方でランド教官が笑みを見せているのに気が付く。


「どうしたんですか教官。こんな時に笑ったりして」


『ああ、いやすまん。ほんの数ヶ月前まではひよっこだったお前が俺に作戦提案をしてきたんでな。こんな非常時に不謹慎だとは思うが、自分の教え子が成長する様を見るのが嬉しくてつい……な』


「うっ……あの頃はランド教官に叱られてばかりでしたからね。一応俺だって成長はするんですよ。――行くぞ、シオン!」


『了解だ、とっとと全滅させるぞ!』


 城の守りを任せて俺とシオンは王都内に残った敵機の全滅に乗り出した。

 王都と『第一ドグマ』を奇襲したのは<サーヴァント>のみだ。そこに違和感を覚える。敵を倒しながら嫌な予感がどんどん強くなっていくのを感じた。


『こいつで最後だ!』


 シオンが最後の一気に止めを刺した。王都のあちこちには破壊された<サーヴァント>や<セスタス>の残骸が散らばっていた。

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