第149話 カーメルさん家の幸せ家族計画
そして『聖竜部隊』が『シャムシール王国』から引き上げる時がやって来た。
<ニーズヘッグ>が待機している発着場にカーメル三世やエインフェリアの皆を始めとした大勢の人々が見送りに来てくれていた。
「ハルト、しばらく別行動になるけどまた一緒に戦おう。それまでお互い頑張ろう」
「ああ、必ず。また会えるのを楽しみにしてるよ」
カーメル三世が俺に握手を求めて来た。俺もそれに応じて再会を約束する。
――とまあ、社交辞令的なことはこれぐらいにして本題に移る。二人でひそひそ話を始めた。
「カーメル、カーメル。それであっちの方はどうなのさ。順調にいってるの?」
「それなんだけど、先日君からもらったグランバッハ家秘伝の元気が出るドリンク。あれが凄い効果でね、うちの妻たちが滅茶苦茶喜んでいたよ。自分で自分が怖くなるくらい元気になってしまって……お陰さまで現在とても順調にいってます。マジ感謝」
「連続して飲みすぎると危険だから、そこんとこ気を付けて。今度会う時にティアに頼んで新しいの作ってもらうから」
「いやー、ホントありがとう。凄く嬉しいよ」
現在カーメル三世は子作りに精を出していた。
テラガイアが四年の月日を繰り返すようになる前、一巡目の世界においてカーメル三世には生まれたばかりの子供がいたらしい。
彼はその子にありったけの愛情を注ぎ育てていたが、世界が崩壊し四年前に時間が巻き戻された時、その子供の存在は世界から抹消されていた。
記憶を引き継ぐ彼だけは子を失った苦しみを受け、その怒りや悲しみを糧にして世界の終焉を防ぐべく戦った。
けれど、そこから何度も世界が繰り返される度に彼の記憶も摩耗し、世界を救わなければならないという気持ちが強くなる一方で、少しずつ子供のことを忘れていったらしい。
時間にして三千年以上という時の流れが、幸か不幸か彼からその悲劇の記憶を薄めていったのだろう。
アザゼルに止めを刺されそうになった瞬間に子供のことを思い出したカーメル三世は戦いの後、涙ながらにその事実を打ち明けてくれた。
一度子供を失ってからは、再び同じことが繰り返されるのが怖くて子作りをする気になれなかったとも言っていた。
かける言葉が見つからなかった。子を持ったことの無い俺には彼の苦悩を癒すことは出来ないと思ったのだ。
「――また、会えるわよ」
そのティリアリアの第一声を皮切りに彼の背中を押したのは俺の奥さんたちだった。
「きっとその子は待っているはずですわ。カーメル王、あなたと再び会える時を」
「そうですよ。それに奥様方もあなたを待っています。今度こそ私たちはこの世界を未来へ繋げます。だから、カーメル王も勇気を出して前に進んでみてください」
「私も子を持つ親としてカーメル王の気持ちが分かります。口で言い表せるような、そんな苦しみでは無かったと思います。――だからこそ、その子のためにも歩みを進める時が来たのではないでしょうか」
カーメル三世はこうして背中を押され、再び自分の妻たちと向き合う努力をしている。
その手伝いと言っては何だが、グランバッハ家に代々伝わる精力剤をプレゼントした。その反響は非常によく製法を教えてほしいと言われたぐらいだ。
それに関してはグランバッハ家の人間以外に製法は秘密ということで、ティリアリア曰くストックが無くなりそうならまた作るとのことらしい。
俺自身あの効果を知っているので彼が経験した驚きがよく分かる。
――あれは非常にヤバい。
なんとかサソリの尻尾やら、なんちゃらキノコの粉末とか名前だけでも危険な雰囲気のするものが沢山入っている。
それにも関わらず完成するのは無味無臭無色透明の謎の液体だ。俺は以前、夕食の際にそれを水に一服盛られて理性を失った。
冷静な判断力が戻ったのは翌朝だった。その時俺の周りでベッドに横たわっていたのはあられもない姿の妻たちであった。
今も時々使うけど耐性が付いてきたのか理性を失うことは無くなった。但しその効果だけは衰えずに抜群に発揮されている。
その後ジンたちとも挨拶を交わし俺たち『聖竜部隊』は『オシリス』を出立した。そして、久しぶりに故郷である『アルヴィス王国』に戻って行ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます