第148話 ゲーマー達の集い
◇
この日、『オシリス』の酒場でささやかなパーティーが催されていた。
それというのも二日後に<ニーズヘッグ>が『オシリス』を発ち、王都『アルヴィス』に戻ることが決定したからである。
別れる前にもっと親睦を深めようという名目で行われた本パーティーではあったが、実際には単なる飲み会と化していた。
周りがどんちゃん騒ぎをする中、俺はヤマダさん、ヒシマさんとゲームの話で盛り上がっていた。
この一ケ月彼らと過ごす中で、この二人は地球では四十代の男性であり、俺が好きだったロボットゲームをプレイしていたという共通点が発覚した。
そうなると会話が弾むもので俺たちは定期的にゲームの座談会を開く間柄になっていた。
今回は『竜機大戦ヴァンフレア』を制作した会社の名作シリーズ『インフィニティロボット戦線』の初代作品について討論していた。
初代は俺が生まれる前に作られたシミュレーションRPG作品で、俺がその存在を知った時には絶版で手に入れることは不可能だったのだが、このお二人はリアルタイムでそれをプレイしていた。
今日はその時の体験談を聞いている。
「――確か初代は隊長機が落とされると即ゲームオーバーだったんですよね。そこらへんは『竜機大戦』と同じなんですね」
「そうなんだよ。それに敵に倒された味方は死亡扱いで次のステージからは出られないという。――あー、懐かしいなぁ」
ヤマダさんとヒシマさんは遠い目をしていた。現在彼らの頭の中では当時の記憶が呼び起こされているのだろう。
「ネットで知った話だと、機体強化は資金投入じゃなくてステージで手に入れたアイテムを使っていたんですよね」
「そそ。強化アイテムは一回使ったら戻ってこないから誰に使うのか慎重に考えないといけない。それにさっき言ったようにやられた味方はそのままフェードアウトするから、もしその機体に強化アイテムをつぎ込んだりしていたら……」
「うわ……そりゃ大変だ。そんな難しいのをどうやってクリアーしたんすか?」
「隊長機に全ての強化アイテムをつぎ込んだ」
「あ……成程。でも、そうなると味方は……」
「ステージが進めば敵は強くなるから、無強化の味方は相手にならずステージが進む毎に一人また一人と減っていき中盤に差し掛かる頃には隊長の一人旅よ」
「寂しっ、世知辛ッ!」
隊長の心情を考えると何とも言えない気持ちになってくる。
仲間の屍を越えて強大な敵組織相手に一人で立ち向かう羽目になるなんて……俺だったら心細いから酒場に行って新しい仲間を探すわ。
すると何故か二人がにやけていることに気が付いた。悦に浸っていると言ってもいい顔をしている。
「確かに味方が一機だけなのは寂しいかもしれない。けど、全ての強化アイテムを投入した隊長機はまさに天下無敵。次から次へと襲い掛かって来る敵をワンパンしてステージボスすらも二、三発で倒すという無双ゲームへと変わるんだよ」
「――そんなんあり?」
「ありありのあり。ってか実際そうだったし。ラスボスすら隊長機にはまともにダメージを与えられずボコボコにしてエンディングよ」
「そーそー。俺とヤマダは同時に初代を買ったんだけど、攻略方法が同じだったらしく隊長機のステータスが全く一緒だったのは笑った覚えがあるな!」
「…………」
どうやら初代は魔王を育成するゲームだったようだ。こうして『初代インフィニティロボット戦線』の座談会は終了した。
ふと近くのテーブルを見ると、シリウス、ジン、ノイシュ、ロキという四人の転生者が集まってなにやら真剣な表情をしていた。
シリウスのメイドのセシルさんもポーカーフェイスで加わっている。
何事かと思い話が終わった俺たち三人は彼等のテーブルに近づいた。
「――だから僕は思うわけだよ。丁寧に作られたストーリーの中で徐々に二人の距離が近づいていく。そして、距離感に応じてスキンシップも過激なものになっていく。この過程がいいんじゃないか!」
やたら熱弁する我が親友。それに対してロキが反論した。
「ですが、結局行きつく先は同じはずです。そうであれば最初から好感度マックス的なプレイ内容も良いのではありませんか?」
「それは違うよ、ロキ。何度も言うけど――」
よく見ると主に会話をしているのはシリウスとロキの二人で、ジンは顔を赤くしながら俯き、ノイシュは呆れた顔をしていてセシルさんは無表情のままだ。
これはどういう状況なんでしょうか。とりあえず冷静なノイシュに訊いてみる。
「あのさ、これ何の話をしてるの?」
ノイシュは気まずそうな顔をすると頬を染めて小さい声で言った。
「その……十八禁のギャルゲーの話よ。エッチなシーンのプレイ内容について二人で熱く語り合ってるのよ。ったく、恥ずかしいったらありゃしない。転生者が変態集団だと思われたら間違いなくこの二人のせいよ」
こいつらはエロゲーのアレなシーンの展開で揉めているようだ。何でもシリウスは最初は初々しく控えめな感じで始まり、段階を経て濃厚な絡みになっていくのがお好みらしい。
それに対してロキは最初からド変態なアブノーマルな内容でいいじゃないかと言っている。
はっきり言ってどうでもいい話だった。そんなのエロゲーに何を求めるかによって人それぞれなのだから。
俺がドン引きしていると、お茶を飲んでいたセシルさんがカップを静かにテーブルに置いた。
その音でこのテーブルにいた皆の注目が彼女に集まる。
「――私はどちらかというと、さっきお二人が話していた〝ネトラレ〟に加えてロキ様が仰っているアブノーマルプレイが組み合わさった内容に非常に興味があります」
「「…………」」
両手を組んでそう言った彼女の顔には清々しい笑みが浮かんでいた。もしかしたら『聖竜部隊』のメンバーで最も頭の中がヤバいのは彼女なのかもしれない。
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