第147話 新たなる希望
◇
カーメル三世から<クラウ・ラー>の設計図が記録されたプレートを受け取ったマドックは、その後『第七ドグマ』内の設計室にて憑りつかれたように作業に没頭していた。
それを手伝っているのは彼の一番弟子であるシェリンドンだ。
『クロスオーバー』との初戦闘から既に一ケ月近くが経とうとしている中、二人はほとんどの時間をここで過ごしていた。
髪はぼさぼさで既に風呂にも三日ほど入っていない状況である。その中において二人の目だけは
この作業ももう少しで終わろうとしていた。マドックが設計用コンソールに最後の入力を済ませると二人は「ふぅ~」と溜息を漏らした。
「やっと終わりましたね、技師長」
「ああ、終わったなシェリー。――いや、違うぞ。ここからじゃ。設計図は完成したが、装機兵開発はここからが大変じゃからな。製造に必要な物資も急いで取り寄せねばならんし、機体組み上げには時間が掛かる。その間敵の攻撃が無ければいいんじゃが、そうもいかんだろう。『ドルゼーバ帝国』との休戦期間もそろそろ終わろうとしているし、その裏にいる『クロスオーバー』も本格的に動き出す可能性がある。シェリー、わしはこのまま『第七ドグマ』に残り、新型製造の指揮を執る。<ニーズヘッグ>の方は頼んだぞ」
「技師長――分かりました。それで、もう一機の方はどうするんですか?」
二人は設計室の大型モニターに映る装機兵の設計図を見上げた。鎧武者をベースに中世騎士の要素が盛り込まれたマッシブな外見をしている機体だ。
背部には二本のエーテルフラッグが設けられており、別の図ではまるで翼のように展開されている姿が見られる。
他にも装機兵の全高を超える巨大な剣を装備している姿も映っていた。
「これからドグマでは各竜機兵のバージョンアップと新型の開発で手一杯になるからのう。<スサノオ>はカーメル王の所に組み立てを依頼しようと思っている。操者も彼のもとにいるしその方がいいじゃろ」
「そうですね。先の戦闘後に全竜機兵の最終強化が完了したことで戦闘力が大幅に向上しました。それに加えて、カーメル王から頂いた<クラウ・ラー>の設計データを参考に竜機兵の更なる性能向上が可能になりましたからね。後は『第一ドグマ』で調整をするだけです。――それにしても、ドラグーンモードを全竜機兵に搭載出来るようになったのは大きいですね。<サイフィード>のものと同程度の効果を保ちながらも操者への負担はかなり軽減される仕様になりましたし」
「うむ。それにドグマの技術レベルも最大になって武器の開発計画も着々と進んでおる。様々なことが同時進行でいっておるから大変じゃろうが、うちの連中はそういうのを好きでやっている者ばかりだから大丈夫じゃろ。――お陰でわしは<ゼファー>の開発に集中できる」
今度は別の装機兵の設計図がモニターに映し出された。
<ゼファー>というコードネームであるこの機体は、先程の<サスノオ>に比べると外見は華奢な印象を受ける。
だが、次々と表示される設計図には数種類の武器と術式兵装が載っていた。それに加えて飛竜のような機体の図もある。
それら<ゼファー>関連の設計図が消えると、最後の設計図が表示された。そこには<カイザー>というコードネームが表記されている。
巨大な翼と強固な装甲を有する<カイザー>は、騎士というより竜という凶暴な存在を人の形で体現したような雄雄しい姿をしていた。
「この機体こそが我々の切り札になる。一刻も早く完成させなければならんな」
「――はい。<サイフィード>はドラグエナジスタルとドラゴニックエーテル永久機関を初めて搭載した実験機です。それに追加装備を施して強引に戦闘用にしましたから。ハルト君が機体性能を限界以上に引き出しているお陰でこれまで強敵相手にも互角以上に戦って来れましたけど、それももう限界です。ハルト君の操縦に機体が付いていけなくなりつつあります」
「この機体とハルトの力が合わされば『クロスオーバー』の機体にも引けを取らんはずじゃ」
「そうですね。彼と……この<聖竜機兵サイフィードゼファー>なら、きっと……」
マドックとシェリンドンは改めてモニターに映る装機兵に希望の眼差しを向けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます