第144話 装機兵乗りに必要な心
「さっきの術式兵装とは違う。今度は何をする気だ?」
「<シルフィード>がアジ・ダハーカを使用する前の溜めと似ている。もしかしてあの異常なエーテルを纏って突っ込んで来る気かもしれない」
「それならばスキルで回避力を上げて躱せば問題はなさそうだな」
「いや、ダメだ!」
ハルトとジンが攻撃回避に意識を集中しようとする最中、カーメル三世は異を唱えた。後方に目を向けると、そこには避難が完了していない民と敵量産機と戦う味方機がいる。
「ヤツを避ければ、僕たちの後ろにいる仲間や民が犠牲になる。それを計算に入れてアザゼルは最後の一手に出ようとしているんだ」
「くっ……卑劣な。武士の風上にも置けんヤツめ」
「あいつは正々堂々とかより結果を重視するタイプみたいだしな。こういう手を普通に使うんだろ。――それならこっちも最大の攻撃をぶち当てるだけだ」
ハルトは武器をストレージに戻し、エーテルカリバーンを装備する。するとエーテルカリバーンとエーテルソラスが呼応するように刀身の輝きを強めていく。
「これは?」
「<クラウ・ラー>は広義で言えば竜機兵の一機みたいなもの。エーテルソラスもドラゴニックウェポンの一種だ。それ故に共鳴しているのかもしれないね。――それに加えて斬竜刀ハバキリもある。この三つの刃なら<ナーガ>にも対抗できるはずだ!」
「三本の矢ならぬ三振りの刃……か。これならば折れる気がしないな!」
「よしっ、ありったけのエーテルを込めてあいつに叩き込むぞ! 全術式解凍、ドラグーンモード起動!!」
三機の装機兵が並び立ち、各々の剣にエーテルを集中する。ハルトは<サイフィード>のドラグーンモードを発動し、更にエーテルを高めていく。
彼等と対峙する位置にいる<ナーガ>は、全身にエーテルの鎧を纏い突撃の準備を終えた。
『こんな砂漠の辺境で醜態を晒すなんて屈辱だよ。けど、それも貴様等を全員倒せばチャラになる。――このボーガバティーで跡形もなく消えてなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
巨大なエーテルの弾丸と化した<ナーガ>が三機に向けて突っ込んで来る。ハルトたちはそこから逃げずに各々最大の一撃を敵に放った。
「<クラウ・ラー>最大の斬撃をくらえ! ゴールドレクイエムッッッ!!」
「斬竜刀は森羅万象を断つ刃なり! 弐ノ太刀
「これで倒して見せる! 術式解凍、
四機の術式兵装がゼロ距離で激しくぶつかり合う。
<ナーガ>の規格外のバリアーに対し<クラウ・ラー>の黄金の斬撃、<モノノフ>の最大の縦一文字斬り、そして<サイフィード>の八ツ首竜の斬撃がくらい付く。
莫大なエーテルの衝突で地面は抉れ周囲は破壊されていく。その余波はハルトたちにも牙を剥き、三機にダメージを与えていった。
「くそっ、何てパワーだ。三機の力を合わせてもダメだと言うのか!?」
「諦めんな、カーメル。確かにあの機体は強いがヤツは装機兵乗りにとって大切な要素が欠けている。そんなヤツに俺たちは絶対に負けない!!」
「それはマドック錬金技師長のあの名台詞のことか!」
「それなら僕も知ってるよ!」
『何をわけの分からない事を言っている。このまま三人仲良くぶっ潰してやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
勢いを増す<ナーガ>の攻撃によって、三機は更に傷ついていく。しかし、その乗り手である三人の闘志は熱量を上げていった。
「「「装機兵乗りに取って大事なのは、たゆまない『努力』、粘り強い『根性』、強敵相手にも怯まない『熱血』、相棒への『愛』――そして、どんなに絶望的な状況でも最後まで諦めない『不屈の闘志』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
三人の戦意が最大に達し術式兵装の威力が底上げされる。その勢いは<ナーガ>のボーガバティーを砕いた。
三機の斬撃が入り敵を後ろに吹き飛ばす。その衝撃で<ナーガ>は麻痺したように動きが鈍る。
「行けぇぇぇぇぇ、ハルトォォォォォォォ!!」
「ヤツを倒せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「うおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああ!!」
ダメージで怯んだ<ナーガ>に<サイフィード>が肉薄し、その術式兵装が真価を発揮する。
八岐大蛇の斬撃が次々と繰り出され、大蛇の身体を切り裂いていった。
『がはああああああああああっ、こんなもので落ちてたまるか!』
「――これで
最初はびくともしなかった頑丈な装甲が砕かれ、そのダメージは下半身の蛇胴体にも伝わり連鎖的に身体が崩壊していった。
機体内部でエーテルを伝達する循環液が血液のように飛び散り『オシリス』の街に降りかかる。
それによりエーテルの循環効率が低下した<ナーガ>の動きは鈍くなり、逃げ切ることも不可能な状態になっていた。
『こ、こんなはずじゃなかった。最初は俺が圧倒的優位に立っていたはずだ。それが何処で狂ったんだ!?』
アザゼルが現状を受け入れられず自問自答しているとその答えが眼前に現れる。純白の竜機兵が深紅の瞳で自分を見下ろしていた。
『そうだ……お前だ。お前が現れてから全てが狂っていったんだ。お前さえ……お前さえいなければ!!』
「やかましい。そんな〝もしも〟の話なんてしたところで何の意味もないだろうが。もうお前には戦う力は残っていないはずだ。さっきのように機体を再生させたとしても、俺の仲間たちがお前を包囲している。――投降しろ、アザゼル」
周囲を見回すとアザゼルが連れて来た量産機は全滅していた。セルスレイブで支配下に置いた<アヌビス>隊も既に破壊され、残る戦力は自分だけになっていたのである。
それに対して竜機兵チームとエインフェリアは全機健在であり十分な余力を残している有様だ。
『ふ……ふふ……投降……だと? こんな……上の制止を無視して<ナーガ>と<サーヴァント>を持ち出して……その挙句に戦いに敗れて……投降? そんな無様が許されるものか。そんな生き恥を晒すくらいなら……!』
<ナーガ>は鈍くはなったものの素早い動きで街の中心部に向かって行く。避難区域からは離れるものの、その奇妙な動きに全員が嫌な予感を覚えていた。
そして、それは<ニーズヘッグ>からの通信によって現実のものになる。オペレーターのアメリが顔面蒼白でそれを伝えた。
「大変です。<ナーガ>の動力部のエーテルが急速に増大しています。このまま上昇を続ければ臨界に達して爆発する可能性が高いです!」
「やられたっ! あの野郎『オシリス』の中心部で自爆する気だ」
「だったら自爆される前に破壊すればいいんじゃないのか!? <ヴァンフレア>ならまだ余力はある。私が――」
「ダメですわ。今の状態でも機体が破壊されれば街の半分は消し飛ぶ計算です。その範囲内には避難区域も含まれています!」
「それなら私が<グランディーネ>でヤツを街の外に押し出すよ。エーテルアイギスの防御力とパワーならやれるっしょ」
「そうされる前に敵は自爆するだろう。そうなればパメラもろとも街の大半が消滅するだけだ。――他に何か手はないのか!?」
竜機兵チームの面々が打開策を考えるが最悪のシナリオを回避する案は浮かび上がらない。カーメル三世たちも同様に策は無く絶望的な状況に誰もが俯く。
――ただ一人を除いては。
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