第141話 そして白いあいつがやって来る
光が止むと<ナーガ>の攻撃範囲内にあった所は一面焼け野原となっており、建物の残骸すらも残ってはいなかった。
ただ、その中にあって二機の装機兵だけは健在であった。多少のダメージはあれど戦闘継続可能な敵を見てアザゼルは舌打ちをする。
『ちっ、良い判断だったね。咄嗟にエーテルバンデージを盾にして身を守るとは……伊達に三千年以上戦い続けて来たわけじゃないってことか。けれど六本の帯で防御すればノーダメージでいけたのに、味方に半分割り振って機体を損傷させるなんて本当にどこまでも甘ちゃんだよ。その甘さが世界を救えなかった原因だというのにね』
「大きなお世話だ! 同志を見捨てて自分だけおめおめと生き残るぐらいなら死んだほうがマシだ!!」
「カーメル王……」
吐き捨てるように言うアザゼルをカーメル三世は睨み付けながら言い放つ。そんな王の威厳ある姿にジンは感銘を受けていた。
『そうかい。それなら、その同志ごと――死ねよ!』
六基のサブアームが再び発射され、それら全ては<クラウ・ラー>目指して飛んでいく。
まだダメージから復帰していない太陽機兵はその場から動けず防御の姿勢を取った。
そのような中、サブアームが衝突する直前に<モノノフ>が正面に滑り込み、ハバキリを風車のように回転させて全てのサブアームを切り払う。
ダメージを負った六基の腕は本体へと戻り、傷ついた箇所が修復していく。それを見たジンは改めて『クロスオーバー』の技術力の高さを痛感していた。
「それだけの力があるのなら、これまでに世界を救うことも可能だったはずだ。それなのに、どうしてそうしなかったのだ!?」
『――質問に答えてあげるよ。我々『クロスオーバー』は新人類の文明がある程度発達を見せた頃から直接彼らには関わらず、あくまで見守るスタンスを取ってきた。それは終焉のループを繰り返す中でも続けられた。まあ、多少の手心は加えたけどね。けれど、それでも新人類たちは、テラガイアを何度も壊滅させる道を辿ったんだよ。八百四十二回もだっ! そもそも装機兵なんて言う機動兵器を造りだした時から危険だと思っていたんだ。こいつらは旧人類と何も変わっていないとね。だから、抹殺することにしたんだよ。そして、今度こそ争いを起こさないような闘争本能のない新たな人類を作るんだ。そして、そんな彼らを我々『クロスオーバー』が導く。これならば未来永劫平和な世界が維持できるはずだ』
「なん……だと? それが……そんなものがお前たちの理想だと言うのか?」
「アザゼル……そんなものは、もはや人類でも何でもない。ただのお前たちの操り人形じゃないか!」
『それはつまり人形の方がマシだったということさ。自ら世界を破壊する愚か者は早々に滅んだ方がいいんだよ』
アザゼルは嘲笑し軽蔑するような目をカーメル三世たちに向けると、蛇の胴体で<モノノフ>を締め付け地面に叩き付けた。
「ぐはっ!」
「ジンを離せぇぇぇぇぇぇ!!」
カーメル三世はエーテルショーテルで何度も斬りかかるがアザゼルはそれを左腕で防御し、右手に装備しているエーテルサリッサで薙ぎ払う。
地面に落下した<クラウ・ラー>に間髪入れずに六基のサブアームが直撃し、その動きを完全に封じた。
「ぐあああああああっ! 機体が……動かない」
四肢と頭部、胴体を地面に貼り付けにされた<クラウ・ラー>の真上に<ナーガ>の上半身が迫り、紫色のデュアルアイが不気味に覗き込む。
『もう終わりにしよう。――君は今までよくやったよ。俺は人間が嫌いだけど、ずっと頑張って来た君に関しては好ましく思っていた。だからこそ、これから始まる新人類の粛清を君に見せたくはないと思ったんだ。これから我々は君の国の民や家族を殺していくだろう。そんな残酷な光景を君に見せたくはない。その為にこうして俺がここに出向いたんだ。カーメル……もういい加減に休みなよ。君は十分すぎるほどに戦ってきた。抵抗しなければ一瞬で終わる。ただ、その機体だけは持ち帰らせてもらうよ。中々に優秀な機体だからね』
「アザゼル……どうしてその優しさをもっと他の人々に向けられないんだ。昔の君はそんなんじゃなかったはずだ!」
『どんなに俺たちが手を差し伸べようとしても、それを振り払って裏切って来た。それが今の人類の姿だ。――いや、違うな。昔の人類も同じだった。私利私欲のために星を破壊して、自分たちが生き延びるために宇宙に出ても結局根っこの部分は変わらない。人間という生き物はそんな勝手な生物なんだよ。それが良く分かったんだ。だから、闘争本能の無い優しい心を持った者でなければ星を守ることは出来ないんだ。君なら分かってくれるよね、カーメル』
「…………」
<ナーガ>のサブアームを振り払おうとしていた<クラウ・ラー>から抵抗の意思が消えていく。
今はただ静かに終わりの時を待っているかのようであった。
「カーメル王、諦めないでください! 今俺が助けに行きます!!」
ジンは<モノノフ>の出力を最大にするが、それでも<ナーガ>の締め付けから脱出することは叶わない。
そうしている間に<ナーガ>の胴体から何本もの触手が放たれ黄金の装機兵に向かって行く。
『それでいい。〝セルスレイブ〟を打ち込まれた機体は制御系が我々のコントロール下に入る。さっきも言ったように痛みを感じることもなく君は終わる。――安らかに眠ってくれ、カーメル』
先端が尖った触手が<クラウ・ラー>のコックピットを目指して伸びて行く。それをカーメル三世はぼんやりと眺めていた。
(そうか……僕はここで終わるのか。結局何も成し遂げられなかったな。世界も救えず、妻たちにも子供を作ってあげられなかった。……あれ? 子供? そう言えば、ずっと昔僕には子供が……)
長く繰り返されて来た戦いの中で摩耗した記憶を思い出そうとする中、コックピットのすぐ近くにまで敵の魔の手が近づいていた。
最悪のシナリオが描かれようとした瞬間、それは起こった。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
何かが空から戦場のど真ん中に落下してきた。その衝撃でおびただしい土煙が周囲に舞い上がり、カーメル三世の安否が分からない状況に陥る。
ジンがモニター越しに必死に状況を探っていると、土煙の中に途切れ途切れに一機の装機兵の姿が見える。
「あっ、あれは……!」
一方で、死を覚悟していたカーメル三世もまたモニター越しに見えるその装機兵から目を離せないでいた。
その純白の装機兵は降下と同時に<クラウ・ラー>に迫っていた触手をまとめて一刀両断したのである。
夜の
それに先んじて出撃していたその機体――竜機兵<サイフィード>は、燃え盛る炎の光を白い装甲に反射させ、深紅のデュアルアイで眼前にそびえる大蛇の装機兵を睨んでいた。
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