第140話 蛇神の装機兵
◇
オアシスの都市『オシリス』は炎上していた。
家屋には次々と炎が燃え移り広がっていく。そんな地獄と化した街の中を、住民たちは兵士の指示で避難区画へ退避している途中だ。
その近辺では装機兵同士の戦いが行われていた。
「まだ近くに住民がいるってのに、こいつら見境が無いわねっ!」
「既に操者は死亡しています。……つまりこの<アヌビス>は無人機みたいなもの。人命など気にするはずはないでしょう? 全力でここを死守するのみです」
ノイシュの<ドゥルガー>とロキの<フェンリル>がゾンビ化した<アヌビス>を斬り飛ばす。
その後方にはこれまでに見たことのない機体が複数見られる。
「見たことの無い機体がいる。もしかしてこいつら――」
「今『鑑定』で確認しました。機体名<サーヴァント>、原作にはいなかった機体です。つまり――」
「『クロスオーバー』の量産機ってことね! ロキ、注意して行くわよっ!!」
「ええ!」
<ドゥルガー>は背部の隠し腕を展開、各腕に武器を装備し灰色の敵量産機に突っ込んで行く。
「シックスアームズ起動。この状況で出し惜しみなんてしている余裕はない。一気にぶっ飛ばす!」
その傍らにはエーテルグングニルを装備した<フェンリル>の姿があった。
「ノイシュ、住民の避難が最優先なのを忘れてはなりませんよ。本格的に暴れるのはそれが完了してからです」
「そんなの言われなくても分かってるっちゅーの!!」
『オシリス』内の別の場所では<ハヌマーン>ヤマダ機とヒシマ機が、敵に制圧された<アヌビス>を倒しつつ後方にいる住民を守っていた。
「さっきまで味方だった連中とやり合うのは気が進まない……なっ!」
「パイロットはもう死んでいる。俺たちに出来るのは、彼らの家族が生き延びられるようにここを死守することだ。やるぞ、ヤマダッ!」
「合点承知!」
オアシスの都市を巨大な蛇型の装機兵が横断しながら燃やしていく。その蛮行を止めさせるべく二機の装機兵が進路上に立ち塞がった。
太陽機兵<クラウ・ラー>と<モノノフ>は武器を構え、接近する敵を迎え撃つ準備をしていた。
そんな二機の目の前まで来ると蛇型の装機兵は進行を止めて、蛇の胴体を垂直に伸ばし人型の上半身を空高く持ち上げる。
妖しく光る紫色のデュアルアイで二機を見下ろすと外部音声により若い男性の声が発せられた。
『久しぶりだねぇ、カーメル三世。こうして直接会うのは時間にして三百年ぶりくらいかな?』
「その声は〝アザゼル〟か。確かに相対するのは久しぶりだね。あの頃と違って互いに見ている景色が変わってしまったのは残念だ」
<クラウ・ラー>のコックピットモニターに中性的な少年の姿が映る。その整った外見はまるで芸術品のような印象を他者に与えるが、その顔が妖しい笑みで歪んだ。
『そうかい。でも俺はあの頃には新人類は排除した方が良いと思っていたから、大して変わった気はしないんだよね。何はともあれこれでようやくこんなバカげた茶番劇も終わりに出来るということさ。――八百四十二回も世界が滅亡するなんて言う愚かな結末に幕が下りる時が来たんだよ』
「……その為に我が勇気ある民を殺め、その乗機を奪い街を襲わせたのか!」
『資源の有効活用だよ。どのみち、あと一年以内には新人類は全滅する。その命をほんの少し使ってやっただけだ。大したことではないだろう?』
「――そんなわけがあるかっ! これ以上やると言うのなら僕が相手をしよう」
『俺は最初からそのつもりで来たんだよ。第一特異点〝カーメル三世〟。転生者たちを集めて我々に対抗しようとしているのは分かっている。――もうお前は邪魔者以外の何者でもない。ここで消えてもらうよ。この<ナーガ>の力の前にひれ伏すがいい!』
大蛇の如き装機兵<ナーガ>は槍の武器エーテルサリッサを手に携え<クラウ・ラー>に突っ込んで来る。
対するカーメル三世は湾曲した刃の剣エーテルショーテルを構えて攻撃に備える。
『落ちなよ、<クラウ・ラー>。その金色のボディを赤く染め上げてやるよ!』
互いの得物をぶつけ合うと、その余波で周囲の建物が崩壊していく。
機体のサイズ差によるパワー勝負では不利な<クラウ・ラー>であったが、<ナーガ>の攻撃を何とか抑え込んでいた。
「<クラウ・ラー>のパワーを舐めるなっ!」
『ちぃっ! さすがは竜機兵の後継機というところか』
黄金と蛇型の装機兵が鍔迫り合いをする中、敵の側面に回り込んでいた<モノノフ>が斬撃を浴びせる。
「隙ありっ!!」
巨大な剣で斬り飛ばされた<ナーガ>は激しく建物にぶつかるがすぐに体勢を立て直し、蛇の胴体で二機を薙ぎ払った。
今度は<クラウ・ラー>と<モノノフ>が建物に叩き付けられコックピットに衝撃が走る。
「うあああああああっ!!」
「うおおおおおおおっ!」
<ナーガ>は蛇の胴体を上空へ伸ばし再び二機を見下ろしていた。
『ふん、転生者が味な真似をしてくれるじゃないか。しかし、その大剣は少々厄介だね。――ならば、これでどうかな?』
<ナーガ>の背部から六基のサブアームが展開されると、それらは射出され眼下の二機に向けて高速で飛んで来た。
空飛ぶ腕部パーツを躱すも、それらは執拗に彼等を追い回す。武器で叩き落とそうと意識が逸れた瞬間を見計らって、本体が<モノノフ>に狙いを絞って来た。
エーテルサリッサにより繰り出される刺突攻撃を捌き、カウンターでハバキリを振り下ろす。
しかし、本体に舞い戻っていた六基のサブアームの鋭い爪で大剣の斬撃を受け止めた。そのパワーのぶつかり合いで地面に亀裂が走る。
「なんとっ!」
『パワーならこっちも負けてはいないよ。それにこういう武装だってあるんだ。負けるわけがない』
<ナーガ>の周囲に紫色の小型の魔法陣が無数に展開され、その一つ一つにエーテルが充填されていく。
それにより機体周囲に紫色の光が広がっていった。
「まずいっ!」
いち早く敵の異常な攻撃に気が付いたカーメル三世は<クラウ・ラー>のエーテルマントを六本のエーテルバンデージへと分割し、自機と<モノノフ>の正面に盾のように積層した。
『これで消えなよ。――ナーガローカ!』
アザゼルの音声と共に発動した紫色のエネルギー波は周囲に広がっていき、範囲内にあった全ての物を吹き飛ばしていった。
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