第139話 オシリス急襲

「直ちに住民を避難区画に誘導。装機兵部隊は敵を『オシリス』に侵入させないよう配備をさせろ。私とエインフェリアもすぐに出撃する!」


「はっ!」


 命令を受けた兵士は急いで部屋から出て行き、さっきまで静かだった空気が慌ただしいものになる。

 

「ジンたちはすぐに出撃してくれ。接近している部隊は間違いなく『クロスオーバー』だ。僕も追って<クラウ・ラー>で出る」


「了解しました。――ハルト、また会おう」


 ジンたち転生者部隊が部屋から出て行くと、カーメル王は俺たちに向けて指示を出す。だが、その内容は意外なものだった。


「『聖竜部隊』の方々はすぐに飛空艇に戻り、この街から退避してください」


「待ってください。ここに敵が向かっているのなら我々も協力致します。そのための同盟ではないのですか?」


 ティリアリアがその指示は受けられないと突っぱねるが、カーメル王は首を横に振るう。


「まだ正式に同盟を結んだわけではないからね。あなた方は『アルヴィス王国』の大切な戦力。それを僕の一存で動かすわけにはいかない。――だから、今は撤退して次に備えて欲しいんだ」


「――くっ!」


 カーメル王の言っていることは確かに筋が通っている。『アルヴィス王国』側にしてみれば、他国の王の命令で勝手に自国の戦力を動かされるのは後々問題になりかねない。

 ティリアリアもそれが分かるからこれ以上何も言えないのだろう。


「すぐに敵が来る。早く飛空艇へ戻ってください。――それと、マドック錬金技師長」


「何でしょうか、カーメル王」


 マドック爺さんを呼び止めたカーメル三世はエメラルドグリーンの色をした手のひらサイズのプレートを渡した。

 突然のことに爺さんも不思議がっている。


「これは?」


「それには<クラウ・ラー>の設計データと、機体に記録されていた画像データが入っています」


「そんな大事な物をどうしてわしに?」


「<クラウ・ラー>は、ずっと昔の世界線であなた方が僕のために造ってくれた機体です。それからは例え世界がリセットされても、この機体は僕と共にいてくれました。大切な戦友です。だからこそ、このデータをあなたに返したいと思っていました。何かに役立ててください」


「カーメル王、あなたは――」


「勘違いしないでください。僕は死ぬつもりなんてありませんよ。――ただ、これまでの世界線では『聖竜部隊』という部隊は一度も結成されませんでした。聖女ティリアリアと竜機兵チームが一緒になって部隊を作るなんていうことは今までなかったんです。それに加えて過去に一度も起動したことのない<サイフィード>も動き、それには転生者の一人が乗っている。あなた方は間違いなく、この世界を救う大きな力となる。だからこそ、このデータを今後の為に活かして欲しいのです」


 爺さんの勘繰りにカーメル三世は両手を振って慌てて訂正する。そして俺たち一人一人の顔を見ると「また会おう」と言って部屋を出て行った。

 それから俺たちは急いで建物を出て、発着場で待機している<ニーズヘッグ>を目指して走り始めた。


 外に出ると遠くの方で爆発と火柱が発生するのが見える。その中から出てきたのは見たこともない巨大な装機兵だった。

 上半身だけで並の装機兵の全高を超えるサイズであり、その下半身はまるで蛇の胴体のようでうねりながら『オシリス』の街を破壊していく。


「既に敵は街の中に入って来たというの!? 防衛部隊はいったいどうなって――」


 街の防衛に就いているはずの装機兵を探すとティリアリアを始めとした俺たちの目に信じられない光景が飛び込んで来た。

 街の至る所で火災が発生する中、その炎を背景にして『シャムシール王国』の量産機<アヌビス>が同士討ちをしていたのだ。


「どうして味方同士で戦っているんだ!?」


 フレイアが呟くと、その答えが早々に示される。

 蛇型の装機兵から先端が尖った触手のようなものが複数射出され、片方の<アヌビス>のコックピット部に打ち込まれた。

 あれでは操者は即死だったはず。走りながら苦々しい思いで見ていると、倒された<アヌビス>が痙攣を起こす。

 そしてそれが治まり触手が取り除かれると、<アヌビス>は全身が脱力した後に再起動し街を破壊し始めたのだ。


「まさか……機体を乗っ取ったの!?」


「操者を殺害して機体に何かを注入したんだ! それで自分たちのコントロール下に置いた!」


「でも、そんなのどうやってやるのさ!」


 ティリアリア、パメラとあの異常な状況を考える。カーメル三世の話では、『クロスオーバー』は荒廃した惑星を復活させるほど非常に高い技術力を持っていた。


「……ナノマシンだ! それなら多分機体の制御を奪うことも可能なはずだ!」


「「マジで!?」」


 万能なナノマシンの性能に驚きつつ、必死に走っていた俺たちの前方に<ニーズヘッグ>が見えて来た。

 だが安堵したのも束の間、二機の<アヌビス>が俺たちに向かって来るのが見える。

 その二機は装甲が何か所も剥がれ落ちており、そこから内部フレームが剥き出しになっている。

 人間に例えるならゾンビのような状況だ。そのゾンビたちが手に持った槍を構えながら俺たちに迫る。


 その時、俺たちの頭上を一機の装機兵が飛び越えて行った。背部にエーテルフラッグをはためかせ巨大な剣を手にした黒色の機体。


「<モノノフ>――ジンか!」


『やらせはせんぞっ!』


 気合いと共に放たれた斬竜刀ハバキリの横薙ぎで、二体の<アヌビス>は両断され機能を停止し燃え出す。


『立ち止まるな。早く飛空艇に戻ってここから逃げろ! その間、俺たちが敵を食い止める』


 炎から俺たちを庇うように機体を壁にして、ジンが早く飛空艇に戻るように促す。

 その向こう側ではゾンビ化した<アヌビス>と戦うエインフェリアの装機兵たちが見える。

 街に炎が広がる中、敵のボスであろう蛇型装機兵に向かって行く黄金の装機兵の姿が俺の視界に入った。


「まさかカーメル王は、あの怪物と直接やり合う気なのか!? ジンッ!」


『分かっている。カーメル王一人でヤツとは戦わせん。俺も行く。――逃げ切ってくれよ』


 まるで最後の別れのようなセリフを言って、<モノノフ>は<クラウ・ラー>の後を追って行った。

 彼らの援護のお陰で俺たち『聖竜部隊』の人間は誰一人欠けることなく<ニーズヘッグ>へとたどり着いた。

 

 ――そして俺たちは。


「マドック爺さん、シェリー、すぐに<サイフィード>を出すよっ! <ニーズヘッグ>浮上後、竜機兵チームは住民の避難経路を確保しつつ敵を各個撃破! 先に出ているエインフェリアと協力してくれ!」


「「「「「了解!!」」」」」


「俺は一足先に出て、カーメル王たちと合流してあのデカブツを叩く!」


 カーメル三世たちは俺たちに逃げろと言っていたが、その命令を聞く者は『聖竜部隊』には一人もおらず早々に戦闘準備に入るのであった。

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