第138話 僕たちが転生した理由

「僕は今まで様々な方法を試してきた。それこそ、今ここにいる竜機兵チームの皆と何度も協力してきた。――世界がリセットされる度に『クロスオーバー』と僕以外の人々の記憶はリセットされてしまうから君たちは覚えていないだろうけどね」


「もしかして一週間前にカーメル王とお会いした時に懐かしい感覚を覚えたのはそれが原因だったのでしょうか?」


 クリスティーナは小首を傾げて当時の感覚を思い出していた。あの時、俺以外の竜機兵チームの皆は確かにカーメル王に対して親近感を覚えていたのだ。

 その他にもティリアリアやシェリンドンたちも同じように感じていたというし、辻褄が合う。


「クリスティーナ姫の言うように、世界はリセットされてもこれまでの記憶の断片は残っていたのかもしれないね。けれど、それはあまり気にしなくていい。絆は再び築けばいいだけの話だからね」


「カーメル王の言いたいことは大体分かりました。つまり『テラガイア』の終焉を防ぐために、俺たち『聖竜部隊』の力を借りたいということですね。それなら――」


 俺が言いかけるとカーメル王は首を横に振りながら手で俺を制する。


「話はまだあるんだ。とても大事な話がね。――これまで『テラガイア』は八百四十二回も滅んだ。これだけの回数に渡って世界を滅亡させてきた新人類に対し『クロスオーバー』はとうとう見切りをつけたんだ。そして、この八百四十三巡目の世界において彼らは新人類抹殺の為に動き出し、世界の裏で暗躍している。特に他国に侵略行為を強行してきた『ドルゼーバ帝国』に注目し強化兵の育成や技術提供を行っている。新人類たちで同士討ちをさせる為にね」


「そう……か。だから帝国は、あんなに早い段階で<フレスベルグ>や<エイブラム>を実戦投入出来たのか!」


 これまで疑問に思っていたことが次々と明らかになって来る。

 てっきり転生者の存在が何らかの影響を及ぼして兵器類の開発スピードが上がっていたのだと思っていた。

 けれど、とんでもない連中が裏にいたんだ。

 ここで転生者のことに触れて思ったのだが、そう言えばまだ俺たちがこの世界にやって来た方法や目的が明らかになっていない。

 俺はカーメル三世に視線を向けると彼と目が合う。王様は微笑みながら俺に対し頷いて見せた。


「『クロスオーバー』のオリジンたちは新人類の抹殺に動き出したが、その時に異を唱えた者がいた。それはシステムTGテラガイアだった。システムTGは世界の終焉や『クロスオーバー』による新人類抹殺を食い止めるために、以前から考えていたプランを実行したんだ。それは『テラガイア』の上位世界から救世主を呼び寄せるというものだった。それにより、この世界に送り込まれたのが君たち転生者だったというわけさ」


「それじゃ、俺たちはヒシマさんの言うように世界を救う勇者のような役割を果たす為に『テラガイア』に来たのか」


「その通りだ。しかし、この計画は『クロスオーバー』にとって最終手段とも呼べるものだった。何故なら、転生者を呼び寄せるためにはオービタルリングの機能の多くを犠牲にしなければならなかったから。それによって時間を巻き戻す機能も失われた。つまり、世界滅亡を止められなければ今度こそ全てが終わるということになる」


「――っ!?」


 頼みの綱であった過去に戻るシステムが既にオシャカになっていたことで皆に動揺が走るのが分かった。

 八百四十二回も滅亡した世界のロード機能が無ければそうなるだろう。これがゲームの話であったなら大問題だ。

 けれどこれはこの世界に生きる俺にとって大した問題ではない。普通に生きていれば人生に巻き戻し機能なんてないのだから。


「これが僕の伝えたかったこの世界の真実だ。状況は切迫している。この四年という歳月も既に三年以上が経過している状況だ。つまり残り一年以内で世界を救う手立てを考え実行しなければならない。けれど、この世界では何が終焉の原因になるのか判明していない。それどころか、『クロスオーバー』とも戦う状況になる可能性が高い。これらの脅威を乗り切らなければ、『テラガイア』もそこに生きとし生けるもの全てが滅ぶ。――だから、ここにいる全員の力が必要不可欠なんだ。今まで世界終焉を食い止めようとしてきた僕や竜機兵チーム、ドグマの技術力。そして、転生者たちの力が」


 カーメル三世は俺たちに深々と頭を下げた。ジンたちもまた彼と同様に頭を下げている。そんな彼等の覚悟を見せられ言葉が出ない。そんな中、最初に動いたのは王族の一人であるクレイン王太子だった。

 カーメル王の前まで歩いて行くと彼の両肩に手を掛けて身体を起こさせる。


「頭を上げてくださいカーメル王。むしろ頭を下げるのは何も知らずに、繰り返される世界を生きてきた私たちでしょう。あなたは長い時の中で孤独を抱えながら懸命に戦って来たはずです。ならば我々『アルヴィス王国』はあなた方に協力を惜しみません。共に戦い世界を終焉の輪から解放しましょう。私に何が出来るのか今は分かりませんが、この件はすぐに国に持ち帰り、『シャムシール王国』と『ワシュウ』との同盟に動き出すよう父に働きかけます」


「ありがとう、クレイン王太子殿下。――感謝します」


 どうやら話は良い方向でまとまりそうだ。『クロスオーバー』が肩入れする『ドルゼーバ帝国』への包囲網が完成すれば少なくとも一つの脅威を潰すことが出来る。

 ――それにしても四年は猶予があると思ったのに残り一年をきっていたのは痛いなぁ。時間に余裕が無さすぎる。

 

「はぁ~」


「ため息なんて吐いてどうしたんだ?」


 ジンが隣の席に腰を下ろしながら訊いてきたので丁度いいと思い色々と話をする。


「残り時間が少なすぎると思ってさ。当面は『ドルゼーバ帝国』を抑えるために動くとしても、そこから先は何をどう止めればいいのか分からない。せめてもっと時間があれば――」


「確かに難しいところだ。けれどカーメル王はこれまでの経験を最大限に活かして慎重に動いている。世界の真実を伝えるタイミングを間違えれば、それこそ混乱を招き自滅しかねないからな。このタイミングでお前たちに接触したのも竜機兵全機の配備が終わったからだ。これまでの世界線ではドグマに接触するタイミングが早すぎて竜機兵開発が頓挫してしまったこともあるらしい」


「マジか。それは確かに考えさせられるな」


 その時、部屋の扉が荒々しく開けられる音が聞こえた。その方向に皆の視線が集中すると、そこには『シャムシール王国』の兵士が息を切らしながら立っていた。


「カーメル王、大事なお話の途中申し訳ありません!」


「構わないよ。いったい何があった?」


 兵士は余裕の無い表情で深呼吸をするとカーメル三世のところまで走り、ひざまずいて呼吸が整いきらないまま報告を始めた。


「て、敵襲です! ここ『オシリス』に向けて接近する装機兵が複数確認されています。その数は約二十。その内の一機は通常の装機兵とは段違いに巨大で、偵察部隊からはまるで蛇のような機体だったということです!」


「それで偵察部隊はどうなった?」


「その報告を最後にエーテル通信は途絶。恐らく全滅したものかと――」


「――そうか」


 部隊の全滅の報を聞いたカーメル王の声は冷静だった。しかしその手は指が掌に食い込むほどに強く握りしめられていた。


「遂に来たか、――『クロスオーバー』!」

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