第137話 繰り返されし世界
「ちなみに、あのピラミッドみたいな台形の建造物は何年前に造られたんですか?」
「今からだいたい三千年前だと聞いているよ」
「三千年!? 旧人類の人たちは惑星再生を始めて何世代目だったんだろうな。本当に気が遠くなる話だよ」
この話題に入った時、カーメル三世の表情が曇るのが分かった。ふとジンたちを見ると彼等エインフェリアのメンバーも同じように表情が固くなっていることに気が付く。
そこに一抹の不安が押し寄せる。
「ハルト……実はその旧人類こそ、これからの話の重要な部分となるんだ。心して聞いてほしい」
「……分かりました」
何だろう。ますます嫌な予感がする。喉が渇き用意されていた飲み物を流し込んだ。
「結論から言うと、システム
「――は?」
「さっきも話に出て来たナノマシンだけどね。技術者たちは自らの体内にそれを注入し、不老不死とも言える肉体を手に入れた。そうして惑星再生の為に悠久の時を生きてきたんだ。彼らはそんな自分たちを、始まりの種〝オリジン〟と名乗っている。そんなオリジンとシステムTGから成る組織が『クロスオーバー』だ」
「クロス……オーバー……」
旧人類の技術者たちは世代なんて重ねちゃいなかった。自分たちの身体を改造して気の遠くなるような長い年月を生きて来たんだ。
そんな不老不死になった彼等は現在何を目的として生きているのだろうか。
俺の中に芽生えた素朴な疑問はこの後に語られる話によって最悪の回答として告げられることになる。
「世界再生の話に戻すよ。新人類の文明は『クロスオーバー』の助力もあり、急速に進歩していき現在の形になった。ノーザンノクス大陸の『ドルゼーバ帝国』、ウェスタリア大陸の『アルヴィス王国』、イシス大陸の『ワシュウ』、サウザーン大陸の『シャムシール王国』。この四つの大国が誕生し、互いに影響し合い世界のパワーバランスを保っている状態になった。しかし、このせめぎ合いの中で『クロスオーバー』も予想だにしなかった物が誕生してしまった。――それは戦争の道具として生み出された〝装機兵〟だった。かつて惑星を壊滅寸前にまで追いつめた大規模戦争。それで使われていた機動兵器の再来が現れたんだ。そうして装機兵は戦争の主役となり、瞬く間に性能が向上していった。この頃には『クロスオーバー』は新人類への技術提供は既に行ってはおらず、あくまで観察役として世界情勢を見守っていた。――そして、戦いは激化の一途を辿り世界は再び壊滅状態となってしまった」
「ちょ……ちょっと待って! 世界は滅んだって言ってますけど、全然滅んでないですよ。いったい何を言って――」
「八百四十三巡目」
シリウスが慌てて反論すると、ぽつりとカーメル三世が意味不明な数字を呟く。彼の言う八百四十三とは何なのか俺たちは彼に問う。
「その数字はいったい何なんですか?」
俺が質問するとカーメル王は深呼吸をして何かを決意したかのような表情で言うのだった。
「この世界は既に八百四十二回滅んでいる。そして現在はその次である八百四十三巡目の世界なんだ」
「滅んだ? 八百回以上も? ――そ、それが本当だったとして、どうやって現在の形にやり直したって言うんですか」
「時間を巻き戻したんだよ。『テラガイア』が終焉を迎えた日から四年前に。その四年という年月を既に八百四十二回繰り返し、最終的にこの世界は滅亡してきたんだ」
「…………」
あまりにも突拍子もない事を言われて俺たちは押し黙る。テラガイアの滅亡とか時間を巻き戻すとか現実味が帯びないことばかりで頭の整理が追いつかない。
そんな混乱状態の俺たちを見て、カーメル王は想定内とばかりにこちらの疑問点への説明を始めた。
「君たちが混乱するのも当然だ。僕は今まで何度も君たち竜機兵チームに同じ説明をしてきたから、そういう反応をするのは分かっていたよ。以前の君たちがそうだったように、ここにいる君たちもどのような方法で時間を巻き戻したのか疑問に思っていることだと思う。――僕も専門家ではないので詳しい理論は分からないが、『クロスオーバー』は世界再生中の研究で大気中のエーテルが数年だけではあるが記憶を保持していることを発見したんだ。そして、そのエーテルに特殊な干渉波を与えることでエーテル内にある物質や事象をその記憶の分だけ戻すことに成功した。それと同じことを『テラガイア』全土で実行することで、この惑星内の時間を最長で四年戻せるようになった」
「惑星内全てに干渉波を送るって、そんなのどうやって……あっ!」
あった。この惑星をぐるっと一周するあれが健在なら、世界中に干渉波を広めることも可能かもしれない。
「カーメル王……まだオービタルリングは空の向こうにあるんですね」
俺の問いに彼は頷き肯定の意を示した。
「君の考えた通りだ。この星を一周するオービタルリングから惑星全土を包むように干渉波が放射され、この世界は四年という歳月を何度もやり直してきたんだ。そんな大規模な事象故に干渉波のチャージには同じ年月分エネルギーを溜める必要がある。それで四年以上前には時間が巻き戻せなかったらしい」
「でも、『テラガイア』の周囲を一周する建造物なんて空には見えませんよ」
「それは大気中のエーテルの濃度を操作して地上からは見えないようにしているらしい。それと同様に地上に残っている軌道エレベータにも新人類が近づけないように細工をしているしね」
やっぱり軌道エレベータも残っていたのか。ここまで説明を聞けばそれが何処にあるのか察しがつく。
この『テラガイア』という世界において新人類の接近を阻む場所が堂々と世界の中心に鎮座しているのだから。
「――雲海に閉ざされた失われた大地にそれがあるんですね。それと同時にそこが『クロスオーバー』の本拠地だと」
「理解が早くて助かるよ。君の予想通りだ。失われた大地には軌道エレベータが現存している」
ここまでで大体の話の流れは分かった。この世界は滅亡の結末を回避する為に八百回以上も四年という月日を繰り返してきた。
純粋な年月で言えば三千年以上もの間、同じ時間をループしてきたんだ。そしてそれを実行してきたのが、この世界を再生させた『クロスオーバー』という組織だ。
けれど、これだけの回数をやり直しても世界は滅亡の結末から抜け出せなかった。そこが最大の問題だ。
「カーメル王、『テラガイア』は……何が原因で滅亡したんですか?」
「その問いに対する回答は難しいね。というのも、毎回同じ要因で滅ぶわけではないんだよ。世界を終焉に導く原因は様々なパターンがある。ただ共通しているのは人為的に引き起こされるということだけだ。装機兵を始めとして、戦争で開発された大規模破壊兵器の暴走などで人や都市、国が滅ぶ。――そういう結末を僕は何度も見てきた」
「そう言えばカーメル王はシステムTGと繋がっていたと言っていましたね。それで繰り返してきた世界での記憶が残っているんですか?」
「その通りだよ。どうして僕がそんな役になったのかは分からない。けれど『クロスオーバー』の者たちは僕を〝第一特異点〟と呼んでいたね」
カーメル三世は一瞬だけ虚ろな表情をしていた。
そこに宿っていたのは長い年月をかけて何度も世界の滅亡を見て来たことによる絶望、恐怖、悲しみ、他にも当事者にしか分かり得ない感情だったのかもしれない。
そうだ。この話が本当であればこの王様は三千年以上も繰り返し世界が滅ぶ様を、何度も何度も目の当たりにしてきたんだ。
普通そんな状況にあったなら精神を病んでいたっておかしくはない。でも、この人はその度に立ち上がって世界が滅ぶのを防ぐために尽力してきたのだろう。
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