第136話 テラガイアが生まれた日
楽しくも恐ろしい経験をした宴が終わり、ついにカーメル三世との会談が始まる。俺は前世からの親友であるシリウスと緊張の真っただ中にあった。
さっきの宴の席でシリウスの中身が転生者であることは他の転生者に伝えていた。
ここには七人の転生者がおり、エインフェリア側は既に王様から〝世界の真実〟とやらを聞いている。
その話がこれからされるわけだ。話が長くなるということで全員席に着くとカーメル三世が口を開いた。
「それでは順を追って説明をして行こうと思う。その方が内容が分かり易いと思うからね。そもそも僕がなぜこれから話す内容を知っているのか。それは僕がこの世界の神とも言えるTGと一時期繋がっていたからなんだ」
「っ!?」
最初から凄い一撃が来た。今までいるかいないか良く分からなかった神様が初っ端から降臨した。
「まずはこの世界の成り立ちから話していくよ。――遥か昔、この世界には高度に発達した科学文明が存在していた。しかし、この惑星の自然環境は悪化の一途をたどり人が住める土地が縮小していった。そして起こったのが居住地を奪い合う戦争だった。戦争は長い間続き更に環境は悪化していき、気が付いた時には取返しのつかない状況に陥っていた。そこで打ち出されたのが惑星外に脱出する計画だった。星の海に人工の大地を造り、そこを新たな住みかとするものだったそうだ。その大地の建造に必要な人や物資の運搬のために、星の海にまで達する巨大な塔である軌道エレベータを建造した。更に惑星の周囲を一周する巨大な輪――オービタルリングを建造し軌道エレベータと連結することで住居や実験施設など多目的環境の場として利用されていたんだ」
あまりにも突拍子もない内容に仲間たちは目を白黒させている。その中で技術職のマドック爺さんとシェリンドンは真剣な眼差しでカーメル王の話に聞き入っていた。
俺とシリウスは顔を見合わせたものの言葉は交わさなかった。お互いにこういった話はSF作品で履修済みだったからである。
けれど、そんなSFが現在のファンタジーな世界観にどう繋がるのか予想がつかない。カーメル三世は水を飲むと話の続きを開始した。
「軌道エレベータとオービタルリングの開発により星の海に人工の大地を造る計画は実行され、何年か後には多くの大地の建造が完了し人々が移り住んでいった。そして時は流れ、ある計画が提案された。――それは壊滅寸前までになった母星の再生計画だった。その計画の要として開発されたのが高度な人工知能であるシステム
「そんな壮大な計画が遥か昔に行われていたのか。一人の技術屋として胸が高鳴る話じゃな」
「エーテルがそのようにして作られたなんて知りませんでした。私たちが豊かな生活を送ることが出来るのは、世界を再生させたシステムと計画に尽力した人々のおかげだったんですね」
マドック爺さんとシェリンドンは、過去の世界再生の話に深く感銘を受けていた。
優秀な錬金技師である二人が感嘆するのだから、当時の技術力は相当凄かったのだろう。
「エーテルは自然から生まれたエネルギーだから使用しても自然環境に悪影響を及ぼさないクリーンなエネルギーだ。大昔に世界を壊滅させた時とは同じ
「そうだね。惑星再生計画が実施された時にはエーテルと特定の術式を組み合わせることで、様々な自然現象を起こせるという理論が既に組み上がっていたらしい」
「発達した科学は魔法と変わらないっていう話を聞いたことがあるけど、これはまさにそれだな。現在の錬金術は優れた科学文明が基礎になっているってことか」
エーテルについて自分なりの感想を話すとカーメル三世が補足を入れてくれた。全てはシステムTGと当時の技術者たちの努力の賜物だ。
そして『テラガイア』という世界の再生計画は次に移る。
「世界に自然が甦り新たなエネルギーであるエーテルが生まれ、惑星再生計画は第二段階に移った。それは新たな生物の誕生と進化だった。かつて惑星が壊滅状態になった時に生物のほとんどが死滅していたため、保存されていた生物データを基にオービタルリングの研究施設で誕生、生育したものを軌道エレベータでテラガイアに降ろし再生された自然環境に解き放った。それらの生物は遺伝子操作されていて凄まじい速度で進化していき、遂にシステムTGたちが待ち望んだ種が誕生した」
「彼らが待ち望んだ種?」
「新たな人類だよ。その新人類もまた急速に進化し、新しい文明を『テラガイア』の各地に誕生させた。その裏ではシステムTG、そして一緒に世界を再生させた旧人類の技術者たちが進化を促すように関わっていた。君たちがここに来るまでに砂漠の各地に巨大な台形の建造物があっただろう? あれは、その旧人類の者たちが造った物なんだよ。大気中のエーテルに作用して砂漠にオアシスを形成する機能を持っているんだ。あれがなければ『シャムシール王国』は誕生していなかっただろうね」
その話を聞いているうちに、ふと不思議に思った。惑星再生計画というのは少なくとも百年や千年単位では実現できないはずだ。
途方もなく長い年月を旧人類の者たちは世代を重ねて、惑星を再生させるという一つの目的のためだけに生きてきたというのだろうか。
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