第134話 メカを見て欲情する主任さん
メンタル最強の義理兄クレイン王太子に道中振り回される中、<ニーズヘッグ>はついにオアシス都市『オシリス』に到着した。
エジプトやインドをモデルとした国のためか、都市周辺にはピラミッドを模した台形の建造物がいくつも立っている。
中心街から少し離れた場所に飛空艇や陸上艇の発着場があり、そこには巨大な飛空艇の姿が見られる。
前世の俺のオタク友達である黒山もといシリウスは、そんな鳥を模した飛空艇を一目見て感激していた。
「ああーっ! あれってカーメル三世の飛空艇<ホルス>じゃないか! あの曲線を意識した造形美……痺れるなぁ~」
「うむうむ、あの形状も実にいいのう。じゃが、わしは<ガネーシュ>のごてっとした重みのある形状のほうがツボるのう」
「確かに<ガネーシュ>は重厚感があっていいよなぁ。でも<ホルス>の機動性重視のデザインも捨てがたい」
そんな彼と一緒になって窓に密着して眼下にいる大型飛空艇に夢中になる人物が三名いた。
それは俺、シェリンドン、そしていつの間にかブリッジに来ていたマドック爺さんだ。
ロボットオタク四名で下に待機している飛空艇<ホルス>や陸上艇<ガネーシュ>を見つめる。
「そうなのよっ! <ホルス>の船体は空気抵抗を考えた流線形のデザインなの。それ故に建造から数年経った今でも高速艇として名を馳せているのよね。実を言うと<ニーズヘッグ>は<ホルス>の外観を参考にして設計したの。ああ~、あの流れるような曲線美……しゅきっ!」
<ホルス>を眺めているシェリンドンが、鼻息を荒くしながら口早にまくしたてる。飛空艇や装機兵マニアの彼女は顔を赤らめて熱い吐息をこぼしている。
「ハルト、これはいかんぞ。シェリーのスイッチが入ってしまったぞ!」
「確かにこれはヤバいかもしれないな。シェリー、落ち着いて! なんかこう、わけの分からない機械の事でも考えてテンション下げて」
「シェリンドンさん、自分に負けないで。クールダウンしてください」
気に入ったロボットを見ながら三度の飯が食えて、かつ性的に興奮できる。それがシェリンドン・エメラルドのフェチズムである。
ある意味ドSやドMのような嗜好とは一線を画する特殊な性癖だ。
出来の良い機械で欲情する彼女は、逆にヘンテコな機械を見るとテンションが落ちるので、それを利用して彼女を冷静にさせようと試みる。
俺とシリウスが以前に趣味で作った用途不明の機械を動かしていくと、一斉に周囲にいる錬金学士たちが苦しみだした。
無意味に回転するだけの機械、すぐに転ぶブリキロボット等々小さい子供でもスンとしてしまうガラクタの数々だ。
有意義なものを作り出す彼等にとって、こんな存在価値の無い機械を見るのは生理的に受け付けないのだろう。
特に優秀な錬金学士であるシェリンドンはその傾向がもろに出るのである。発情していた彼女はガラクタ機械を見ているうちに冷静になり、いつもの調子に戻った。
「ありがとう二人とも、お陰で落ち着いたわ」
「「…………どういたしまして」」
俺とシリウスはお礼を言うシェリンドンの後ろで無意味に動き回るガラクタたちを見て複雑な思いをしていた。
面白半分とは言え、こんなふうに使うために作ったわけじゃなかったんだけどなぁ。俺とシリウスは心の中で泣きながらお手製の機械を回収するのであった。
そんなこんなで不時着した<ニーズヘッグ>にカーメル三世の使者が訪れ、彼が待つ王族の別荘に俺たちを案内してくれた。
そこに向かったのは竜機兵チームの操者、ティリアリア、クレイン王太子、マドック爺さん、シェリンドン、シリウス、メイドのセシルさんといった面々だ。
別荘の近くまで来ると建物の豪華さと大きさにただただ驚いてしまう。それは別荘と言うよりも宮殿と呼べるような場所だったからである。
大理石のような白い石で構成された建物の中を歩いて行くと、とある一室の前まで案内された。
そして促されるまま部屋に入ると、そこには褐色肌の爽やかキングが笑顔で俺たちを待っていた。
そんな王様カーメル三世の周りを転生者部隊エインフェリアの面々が固めている。モニター越しに顔を合わせてはいるが生身で会うのは初めてなので変な感じだ。
「ようこそ『アルヴィス王国』の方々。約束通りに来てくれたことを嬉しく思う。宴の席を用意しておいたから、まずは食べて飲んでリラックスして欲しい。――本題の話はそれからにしよう」
「で、でも俺たちは――」
この会談を一週間待った自分としては、早く話を聞きたい。はやる気持ちでカーメル三世にその旨を伝えようとすると、クレイン王太子が俺を制して小声で言う。
「ここは素直にカーメル王の歓迎を受けよう。君の気持も分かるが、これほどの準備をしてくたんだ。それを無下にするのは失礼に値するからね」
室内のテーブルの上に次から次へと肉料理や魚料理、それに種々のフルーツやデザートが並べられていく。
その一つ一つが手の込んだものである事が良く分かる。確かにこれを無視することは無礼と言うものだろう。
「そうですね。すみません殿下、少し焦っていたみたいです」
クレイン王太子は俺にウインクをするとカーメル三世のもとへ歩って行った。
男にウインクされるのなんて前世と今世含めて初めての経験だったが、あれほどの美青年がやると全くキザな感じがしない。とても自然な感じだ。
そんなスマートな王太子と若き王が会話を始めた。きっと何年か後にはクレイン王太子は王位を継ぐ。
そう考えると、今の二人の邂逅は両国にとって記念すべき瞬間なのだろう。
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