第132話 黄金の太陽機兵

 陸上艇<ガネーシュ>から黄金の装機兵<クラウ・ラー>が降りて来た。漫画とは違ってフルカラーなのでえる映える。

 大型の肩アーマーや王冠をイメージした頭部パーツの意匠が如何にも王様専用機という感じで神々しい。

 俺たちの方に近づいてくると転生者たちが<クラウ・ラー>の周囲に集まっていき、彼らの会話が聞こえて来る。


『皆お疲れ様。非常に危険な任務だったけれど、やり抜いてくれてありがとう。感謝するよ』


『滅相もありません。それにしてもカーメル王自らのご出陣とは驚きました。オアシスで待機しているはずだったのでは?』


『ごめんよジン。君たち以外の転生者や竜機兵に関わる彼等と会えるのが楽しみでね。いてもたってもいられなくて、つい来てしまったよ』


 ジンと会話をしている男性が『シャムシール王国』の現国王であり<クラウ・ラー>操者のカーメル三世とみて間違いない。

 原作では褐色の肌に銀色の髪をたなびかせる温和な性格の青年だったが、こうして聞こえて来る声も爽やかな感じだ。

 彼らの会話を聞いていると、シオンたちの様子がおかしいことに気が付く。


「どうした、皆。何だか落ち着かないようだけど」


『それが自分でも何て言ったらいいのか分からないんだが、カーメル三世の声を聞いていると以前にもどこかであの声を聞いたような気になるんだ。だが、僕は今まで『シャムシール王国』に来たことは無いし、当然彼とも面識はない』


『実はわたくしとパメラ、フレイアにフレイさんもシオンと同じような感じがしたんです。初対面のはずなのに、何処かで会ったことがあるような……』


 俺以外の竜機兵チームの皆が同じ感覚に陥っているなんて、そんな偶然があるのか? 

 考え込んでいると、黄金の装機兵が俺たちの方に悠然と歩いてくる姿がモニターに映る。

 翡翠ひすいのように輝くデュアルアイが俺を見ている。そこからは殺気は全く感じない。逆に親しみや好奇心といった友好的な雰囲気を感じる。


『君とは初対面だね。ジンたちと同じように地球からテラガイアへ来た転生者君。僕は『シャムシール王国』の現国王カーメル・ネロ・シャムシール三世だ。以後お見知りおきを』


「自分は『アルヴィス王国』『聖竜部隊』所属、ハルト・シュガーバインです。カーメル王にお目にかかれて嬉しく思います。失礼ですが一国の王自らがこの戦いに姿を現したのは何故ですか?」


『何故ってそれは当然じゃないかな。この世界を終焉の輪廻から解放する勇者たちが一堂に会する記念すべき瞬間だからね。焚きつけた張本人が姿を現さないのは失礼だろ?』


 モニターに映る爽やか褐色青年は微笑みながら俺の質問に答えてくれた。なんというフレッシュな国王様よ。


「ジンが言っていたようにあなたは知っているんですね。俺たち転生者がこの世界に呼ばれた理由を」


『その通りだ。そして、これから君たちにもその話をしたいと思っている。――そして真実を知った上で考えて欲しい。この戦乱の中で自分たちが何とどのように戦っていくのかをね』


 物凄く思わせぶりと言うか気になるワードを連発してくる。それだけでも単純に『ドルゼーバ帝国』と戦うだけでは全ては解決しないということだけは分かる。

 ゲームでは帝国以外にも敵対勢力はあったけど、それらの事を示唆しているのだろうか?

 いや……違うな。そんな単純な問題じゃない。俺が考えるよりも重大な何かがあるんだ。


「それを今ここで話してくれるんですか?」


『この話は長くなるからね。この先にあるオアシスの都市『オシリス』に場を設けてあるからそこで話をしたいと思っている。これから君たちをそこに招待したいのだが、どうだろうか?』

 

 どうしてカーメル三世が転生者やこの世界の真実とやらを知っているのか、それが本当のことなのか、それらを含めた事実がこれから分かるんだ。

 自分が転生者だと自覚したあの日からずっと気になっていた疑問が明かされるんだ。


『――申し訳ありませんが、そのお話については少々時間をいただいてもよろしいでしょうか』


 カーメル三世の申し出に異を唱える者がいた。それはティリアリアだった。凛とした表情でモニターを通してカーメル三世と対峙する彼女には臆する様子は見られない。

 そんなティリアリアを見る王は懐かしい者を見るような目で見つめていた。


『聖女ティリアリア、その真意を伺ってもいいかな。どうして今すぐでは駄目なのか』


『理由はいくつかありますが、一つ目としてその『オシリス』に罠がある可能性があるからです。もし伏兵がいれば戦力が疲弊した我々に勝ち目はありません。この状況で敵国内に進むのは自殺行為だということです。それ故、話し合いをするのでしたら我々の装機兵の修理が完了してからにして欲しいと思っています』


『成程……確かに君の言う通りだ。それで二つ目は?』


 一国の王と聖女の問答が続く。俺たち戦闘員は政治が絡む二人のやり取りを、息を呑んで見守っていた。


『今回の戦闘で敵味方共に操者たちは疲弊しています。疲れ切った状態のままで重要な話をするのは彼等にとって少々酷かと思います。それも含めて時間を頂きたいのです。――そして、今回の戦いでそちらの装機兵部隊には死傷者が多数見受けられます。まずは彼らを弔うのが先ではないでしょうか。今回の戦いがあなた方の言うように、我々に対する試練であったのなら、その過程で犠牲になった命に礼節を持って向き合うべきかと思います』


「っ!?」


 ティリアリアの言う通りだ。この戦いは俺たちの実力向上を兼ねた試練であり、最初から生存が約束されていたものだった。

 けれど、戦いの序盤では<アヌビス>部隊に被害が出ている。やったのは言うまでもない、俺たち『聖竜部隊』だ。

 転生者のいざこざに巻き込まれて死んだ彼等の命に真摯に向き合うべきだったのに、俺は目先にぶら下がった餌ばかりに意識が捕らわれていた。


『ティリアリア・グランバッハ、君に感謝するよ。君が今言ったことは本来、この国の王である僕が言うべきだったことだ。配慮が足りなかったようだね。――ではこうしよう。一週間後の正午に改めて『オシリス』で話し合いの場を設けようと思う。これならば、互いに操者も機体も万全の状態に戻るはずだ。それでどうかな?』


 俺たちはそれで構わないと頷く。それを見たティリアリアが部隊を代表してカーメル三世の申し出を受け入れた。

 話し合いは一週間後に『オシリス』にて行われることとなった。そこで俺たちがこの世界に来た謎が明らかになるんだ。

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