第131話 竜と勇者の戯れ
『シャムシール王国』陸上艇<ガネーシュ>。その甲板に佇む黄金の機体<クラウ・ラー>は、『竜機大戦』漫画版の主人公機だ。
原作では『アルヴィス王国』と『シャムシール王国』が同盟を結んだ際に、主人公のカーメル三世の依頼でマドック爺さんたちが造り上げた傑作機である。
竜機兵開発のノウハウに加え、二国の装機兵技術の粋を結集したこの機体は竜機兵の後継機と言っても過言ではない立ち位置にいる。
そのド派手な見た目と圧倒的な強さから、かなり人気の高い機体だった。
そんな太陽機兵の別名を持つ<クラウ・ラー>だが、このタイミングで存在しているわけがない。
今までも帝国の<フレスベルグ>や<エイブラム>といった装機兵が早い段階で実戦投入された例もあるが、それは自国の技術のみで開発できる話なのでそれとはわけが違う。
時期的にも技術的にも造ることは不可能だ。そんな謎の存在がこっちに向かってくる。到着するまでにはもう少しかかりそうだ。
その間考え込んでいる俺を見てジンが口を開いた。
『あれは正真正銘、本物の<クラウ・ラー>だ。搭乗者も原作通りに『シャムシール王国』の若き王、カーメル三世が乗っている。彼が俺たちにこの世界の真実と転生者の使命を教えてくれたのだ』
「どうして、カーメル三世がそんなことを知っているんだよ」
『それは本人が語ってくれるだろう。この戦いの結果を見て、お前たちが真実を知るに足る者たちだということが分かったからな。――仲間たちが合流したようだ』
振り返ると皆が誰一人欠ける事無くこっちに向かってくるのが見える。エインフェリア側もそれは同じだった。
というか、さっきまで死闘を繰り広げていた間柄なのに敵味方で距離がかなり近い。
それに皆の会話が聞こえてくるんだけど何か全員でだべってるっぽい。
「なんか、あの人たち仲良くなってない?」
『コミュ力高いなあいつら。俺には無理だ……コミュ障だからな』
そんなことを言うジンは相変わらず厳つい顔をしていたが、心なしか少し寂しそうであった。
「さっきから思ってたんだけど、お前のその武士っぽい喋り方ってゲームキャラのオマージュだろ。『竜機大戦』を作った会社の前作で同じ話し方をするキャラいたよな。――もしかしてコミュ障を紛らわすために自分で設定したキャラに成り切っている感じ?」
『……言うな! 素に戻ると他人と話す時に緊張して上手く喋れないんだ』
なんだこいつ、面白いヤツだなー。まあ、俺も会社勤めしていたとはいえコミュ力がそんなに高い方ではなかったから気持ちがよく分かる。
それにゲームで作ったアバターにどんな思い入れを抱くかは人それぞれだし、自分ではない誰かに成り切るのも醍醐味の一つであるわけだし。
「別にいいんじゃないの? そのジンってアバターは自分で作ったんだろ。だったらそのジンって人間を一番理解しているのはお前なんだから、そいつのように振る舞ってみるのも一つの生き方だと俺は思うよ」
『む……そうか。――そうだな』
こうして砂漠地帯で戦った二つの部隊の面々が一堂に会し、それぞれの無事を喜んだ。
死闘を繰り広げた彼等は、どうやら戦いの中で各々友情が芽生えたらしい。
転生者連中からすれば、竜機兵チームはゲームで自キャラとしていた者たちなので元々悪感情を抱いていたわけではない。
むしろ、あの難易度の高いゲームをクリアーする為に共に戦った戦友のような間柄なので打ち解けるのが割と早いようだ。
俺の近くに黄色を基調とした機体<ドゥルガー>がやって来た。その操者であるノイシュが神妙な面持ちでこっちを見ている。
「何か言いたいことでもあるのか?」
『フレイアから聞いたんだけどさ。……あんたって、聖女のティリアリア、錬金技師のシェリンドン、姫のクリスティーナ、そんでフレイアと婚約したんだって? そんで毎日のように五人でお楽しみをしているそうじゃない。――エロゲーのハーレムルートかよ。つーか薄い本でも中々そんなシチュエーションやらないわよ。超ウケるんだけど』
「なっ!! ちょっ、まっ、フレイア! お前、知り合ったばかりの人にプライベート情報を話し過ぎ。お前バカなの? 死ぬの!?」
「あふんっ」
くそっ。少々強めに罵ったせいか、ドMが喜んでいる。もう収拾がつく気がしない。
頭に血が上っていると、今度は二機の<ハヌマーン>が絡んで来た。ヤマダとヒシマがニヤニヤしているのが見える。
『いやー、師匠パネェっす。美女を何人も
『エンドレスで『ゆうべはお楽しみでしたね』生活とは、お前こそ勇者の中の勇者だ。――ハーレムスピリット指数一万を贈呈する。受け取ってくれ』
「それって三国志の有名な悪者じゃないか! それに何だよその単位は? いらないよ、そんな称号」
なんなのこの人たち。めっちゃぐいぐい来るんだけど。怖いんだけど!
転生者たちのコミュ力に怯えていると<フェンリル>がやって来た。ロキは俺が直接戦った相手でもあるので、変な話だが今の人たちよりも親しみがある。
『妻が四人とは凄い性よ……リビドーですね。まだ余裕があるなら五人目に私など如何でしょうか? さっきあなたに散々
「今の言い直す必要あった? いや、その……変態はもう十分間に合っていますのでお断りします」
『即却下! キクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
頬を赤らめながら両手で身体を抱いて身体をくねらせる変態がモニターいっぱいに映る。
それに同調するようにフレイアとクリスティーナが興奮しているのも見える。特にフレイアは羨ましそうな顔をしていた。もう勘弁して。
頭を抱えているとジンが小声で俺に言って来た。
『一応言っておくが、ロキは元々男だ。アバターをいつも女性設定にしていたから、この世界では女性になってはいるがな』
「ネカマかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ホントなんなのお前たちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
エインフェリアの転生者たちとわちゃわちゃしているうちに、ついに陸上艇<ガネーシュ>が到着した。
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