第130話 八ツ首の竜となって
ロキとの戦いで既にドラグーンモードを知っているジンは冷静だった。
『ロキとの戦いでは約三分間その姿を維持していたな。どうやら強化形態のようだが、戦闘中に元の姿に戻ったところを見ると時間制限があるのだろう? 俺の見立てでは五分から十分といったところか』
「へぇー、いい勘してるじゃないか。このドラグーンモードを連続使用できるのは五分間だけでね。それに再使用には十分かかるんだ。だからここぞという時にしか使わないことにしてる」
ドラグーンモードについて説明してやるとジンの顔が更に厳つくなるのが分かった。
『機体の重要機密を教えるとはどういうつもりだ。俺をたばかっているのか?』
「勝利宣言だよ。あと五分以内でお前を倒すっていうね。――エーテルフェザー散布、障壁構築」
そして、<モノノフ>と同じようにエーテルカリバーンの剣先を敵に向けて機体の出力を高めていく。
ここからはガチンコの激突勝負だ。純粋にパワーの高い方が打ち勝つ。
『俺とパワー比べをしようと言うのか。……面白い。行くぞ、参ノ太刀――
「空を飛べるこの形態ならばあれが使える。いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ! 術式解凍、リンドブルム!!」
俺とジンの咆哮が互いのコックピット内に轟き、それぞれの愛機がエーテルの障壁を纏って全速力で突撃する。
エーテルカリバーンとハバキリが衝突し、剣から発生するエーテルの波動が互いの機体にダメージを与えていく。
<サイフィード>の角飾りの一部が破損し吹き飛び、装甲が傷ついていく。
その一方でモニターに映る<モノノフ>は機体各部から火花を散らせており、明らかにこちらよりダメージを負っている。
『ヤツの方が俺よりも攻撃力が上だというのか!?』
「押し切れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
この激突勝負に勝ったのは<サイフィード>だった。威力はかなり殺されたが、リンドブルムでヤツを弾き飛ばした。
剣で串刺しになるのは避けたが、<モノノフ>は確実にダメージが蓄積している。
そう思っていると破損していた敵の装甲が修復していく様子が目に入って来た。
「今度は回復系のスキルを使ったか。ご自慢の装甲も悲鳴を上げているみたいだな」
『やってくれる! だがこうでなくては世界の終焉を止める戦士にはなり得ん!!』
世界の終焉とかいきなり訳の分からないことを話し始めたぞ。興奮のあまりにゲーム脳でも刺激されているのだろうか。
モニターをチェックするとドラグーンモードを維持できるのは、あと二分四十五秒。この三分以内で決着をつける。
「俺と<サイフィード>の底力を見せてやる。――はあああああああああああああああ!」
体内の大量のマナをエンジンに送り込み<サイフィード>の全エナジスタルが輝き出す。
エーテルフェザーも通常より大型化し飛行速度が上昇する。エーテルカリバーンの刀身からは黄金の光が広がり周囲を照らした。
『まだこんな力を残しているのかっ。間違いない。ヤツのレベルは俺よりも――!』
「これから使う術式兵装は実戦で使うのは初めてで加減が効かない。死にたくなかったら全力で防御しろよ。――行くぞっ!」
燐光輝くエーテルフェザーを羽ばたかせると機体は一気に最高速に達し、俺の身体を加速時の重力が襲う。
その
視界に映る<モノノフ>は斬竜刀で防御を固めていた。
「はあああああああああああああああ! 術式解凍――
光を帯びるエーテルカリバーンで防御に徹する鎧武者に斬りつける。斬撃と共に刀身に集中していたエーテルを敵機体に刻み込む。
その直後、刃に次の斬撃用のエーテルが充填され再び光を取り戻す。それを目の当たりにしたジンが驚愕の表情を見せた。
『なん……だと。一瞬で剣にエーテルが!?』
「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
<モノノフ>の周囲を高速飛行しながら、一太刀目と同じ必殺の斬撃を繰り返していく。
壱斬……弐斬……参斬……肆斬……伍斬……陸斬……漆斬……、七回に及ぶ斬撃を受けた箇所から光が溢れだし敵の動きが鈍くなっていった。
『どういうことだ。<モノノフ>が思い通りに動かん!』
「この閃光の斬撃は機体のエーテルの流れに干渉し動きを封じる。それを七回もくらったんだ。まともに動けるものかよっ!」
八岐大蛇の斬撃は毒の牙となって鎧武者の身体の自由を奪った。あと一撃でこの必殺技は完成する。
俺はジンの正面に回り最後の一撃をぶちかますために突撃する。
「これでラストォォォォォォォォォォォォォ!! ファイナル……ストラァァァァァァァァッッッシュ!!!」
高密度のエーテルによって構成された二つの刃がぶつかり合い、太陽のような輝きが広がっていく。
『なんとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「はああああああああああああああああっ! 斬り裂けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
バキィィィィィィィィィィィィン!!
何かが折れる音が響くと眩い閃光は消え去り、砂漠の大地に巨大な刃が落下し突き刺さった。
モニター越しに見えるのは刀身が途中で折れたハバキリとエーテルカリバーンで斬られた<モノノフ>の姿だった。
八つの斬撃に込めたエーテルが共鳴爆発し、機体内部からヤツを食い破っていく。
『ぐああああああああああああ!!』
鎧武者の両腕は吹き飛び、体幹部はかろうじて原型を留めている状態になった。そんな満身創痍の<モノノフ>は、両膝を折って座り込む形で動きを止めた。
その一部始終をすぐ傍で見ていた俺は、今しがた使用した術式兵装の威力に驚かずにはいられなかった。
これから現れるであろう強敵と渡り合うために追加された二つの術式兵装のうちの一つだったわけだが、予想を遥かに上回る殺傷力であったため我ながら恐ろしく思ってしまう。
なんちゅう必殺技を追加してくれたんだ、マドック爺さんとシェリンドンの師弟コンビは……。
「この必殺技はおいそれとは使えないな……強力過ぎる。八岐大蛇でこの威力なら、もっと強力な〝黄金の園〟はどれほどの攻撃力になるんだよ……」
強化された<サイフィード>の力の使い方を考えあぐねていると、目の前の機体から声が聞こえた。
『う……ぐ……』
「よかった。どうやら無事みたいだな」
頭から血を流しているがジンは無事だ。モニターに映る向こうのコクピットは損傷はしていないようだし、命に別状はないみたいだ。
『――とんだ嘘つきだな。加減は出来ないとか言っていたわりに、致命傷にならないように攻撃をしてきただろ』
「お前には訊きたいことが山ほどあるからな。それにお前等の部隊……エインフェリアだっけ? そいつらが手加減して死人が出ないようにしているのに俺がお前を殺るわけにはいかないだろ。――もっとも、初戦の<アヌビス>の操者たちを考えれば甘い考えだけどな」
『彼らは覚悟の上で犠牲になった。この先に待ち受ける破滅の未来を食い止める。――その為の
ジンの目はこの状況においても力強い意志に満ちている。こいつの覚悟は生半可なものじゃないということがひしひしと伝わって来る。
「その破滅の未来とか失敗できないってこと。洗いざらい全部話してもらうぞ」
『無論だ。そのために俺たちはお前たち聖竜部隊と接触したわけだからな』
その時、コックピットの警告音が鳴り始めた。
アラートが指し示す方向を拡大すると、派手に砂煙を上げながら砂漠の大地を走行する超巨大な戦車のようなものが見える。
「あれは、『シャムシール王国』の陸上艇<ガネーシュ>か。――甲板に何かがいる?」
その〝何か〟を注視すると、それは黄金の装機兵だった。
その機体に見覚えがあった俺は、どうしてそいつが完成しているのか分からず困惑してしまう。
『竜機大戦ヴァンフレア』漫画版の主人公機であるそいつは、まだ存在していないはずなのだ。
なぜならあの機体はマドック爺さんやシェリンドンといった『錬金工房ドグマ』の錬金技師たちによって作られるはずだからである。
「竜機兵の後継機……太陽機兵<クラウ・ラー>」
現状では絶対に存在しない黄金の装機兵が高みから俺を見下ろしていた。
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