第129話 漢たちの戦い

 俺が唇を噛んでいるとジンが思いもよらないことを話し出した。


『こんな本気になれない状態で戦っても意味がないな。――ならばいいことを教えてやる。俺たち転生者部隊〝エインフェリア〟の目的はお前たちを殲滅することではない。故に他のメンバーも竜機兵チームの人間を殺さないように戦っている』


「……どうしてそんなことを」


『俺たちがこの世界に転生した目的を成し遂げるためだ。そして、それは同じ転生者であるお前にとっても他人事ではない』


「なっ!? お前等は知っているのか。俺たちがこの世界に来た理由を!?」


『だからそうだと言っている。このいきさつを知りたいのなら、全力で戦って俺を倒してみせろ。仲間の無事も約束されているこの状況で断る理由はあるまい?』


 このジンという男が嘘をついているようには見えない。信じてもいいのだろうか。

 考えあぐねていると<ニーズヘッグ>から通信が入り、ティリアリアがモニターに映った。


『ハルト、各地で行われていた戦いが終わったわ。竜機兵チームの皆は無事よ。それに転生者部隊の方も全員無事みたい。すぐには援護には行けない状態だけど、皆が来るまで頑張って』


「それは本当か? 皆無事なんだな」


『ええ、大丈夫よ。だから安心して』


 実力差があったにも関わらず、全員無事に済んだのは奇跡に近い。

 だが、もしもこの奇跡が予め用意されていたものだとすれば――敵側に手心があったと考えれば納得できる。


「ありがとうな、ティア。おかげで全力で戦えそうだ。――通信終了する」


『頑張ってね、ハルト』


 <ニーズヘッグ>とのエーテル通信が終了し、途端にコックピット内が静かになる。俺は深呼吸をすると視線を<モノノフ>に向けた。


「どうやらお前が言っていたことは本当だったみたいだな。全員無事に戦いを終えたらしい」


『そのようだな』


「さっき言った約束――守れよ」


『無論、そのつもりだ』


 この男を相手に出し惜しみをする理由は無い。エーテルブレードをストレージに戻すと、その代わりの武器を取り出す。


「斬竜刀と打ち合うにはこれしかない。――ストレージアクセス」


 <サイフィード>の両肩部に搭載しているアークエナジスタルが輝くと、術式情報を内包したエーテルの光玉が二つ出現する。

 それらを両手に取りぶつけ合う。反発し合う二つの光玉を力づくで押し込み一つにすると、互いの術式が結びつき一振りの剣へと姿を変えた。


「マテリアライズ完了。ドラゴニックウェポン――エーテルカリバーン!」


 <サイフィード>専用のドラゴニックウェポン、黄金のオーラを放つ最強剣エーテルカリバーン。

 これならば<モノノフ>の斬竜刀ハバキリにも対抗できる。

 俺がエーテルカリバーンを構えると、それを見ていたジンが目を細めて呟くのが聞こえた。


『素晴らしい剣だ。それに先程までとは明らかに覇気が違う。――見せてもらうぞ、お前の本当の実力を!』


「言われなくても見せてやるよ。だからお前も気兼ねせず本気で打ち込んで来い!」


 この会話を皮切りに同時に動き出した<サイフィード>と<モノノフ>は、剣を構えて真っすぐ相手に向かって行く。

 近づいてくる巨大武者ロボットが大剣を振り、それと同時に俺も黄金の剣を振り下ろす。防御や回避という選択肢は考えず、攻撃することのみに集中していた。

 

 ガキィィィィィィィィィン!!


 二刀の剣がぶつかると激しい金属音が周囲に響き、エーテルの干渉による火花が散る。

 剣のサイズ差はかなりあるが、エーテルカリバーンは斬竜刀ハバキリと互角に斬り結んでいる。


『ハバキリと互角の斬撃とは。――面白い、面白いぞぉぉぉぉ!!』


「これならやれる! うおおおおおおおおおあああああああ!!」


 そこからは全力の剣戟が始まった。魂を込めた斬撃を連続で繰り出し、何度も刃がぶつかり合う。

 その度にエーテルの余波で周囲の大気が歪み、攻撃が躱され地面に当たれば砂柱を発生させ周囲の地形を変えていく。


「――やるっ! あんな巨大な剣をここまで自在に使いこなすなんて、本当にぶっ飛んだヤツだよ、ジン!!」


『<モノノフ>とここまで斬り合うとは予想以上だ。もっと俺を昂らせてみろ、ハルトォォォォォォ!!』


 ハバキリによる突きが<サイフィード>の左肩をかすめると装甲が歪み、カウンターで斬りかかると体当たりで吹き飛ばされる。


「ちぃぃぃぃぃぃっっっ!」


『隙ありっ! 壱ノ太刀――草薙くさなぎ!!』


 バランスを崩したところに間髪入れず<モノノフ>の横一文字斬りが迫る。

 俺は咄嗟に<サイフィード>をスライディングさせながら、剣を斜めに構えて横一文字を受け流した。


『パリイしただとっ!』


「剣が巨大だから斬撃パターンがある程度限定されるんだよ。これだけ斬り合えば対応策の一つや二つぐらい思いつくさ!」


 <サイフィード>を立ち上がらせジャンプすると、下方に俺を見上げる<モノノフ>が見える。

 各部エーテルスラスターを噴射、空中で方向転換し敵を正面に見据えると俺の出方を警戒するジンが剣を盾のように構える。

 攻めに出ていたあいつが初めて防御の姿勢を見せた。ここが勝負どころだ。


「術式解凍、コールブランドォォォォォォォォ!」


 エーテルカリバーンの刀身が高密度のエーテルを纏い光り輝く。落下速度とエーテルスラスターの加速を合わせた光の斬撃を<モノノフ>に放った。

 <モノノフ>はコールブランドをハバキリで受け、足が砂漠の大地に押し込まれていく。


『ぬっ、くぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 ジンは雄叫びを上げながら全力の防御で俺の攻撃を凌いだ。

 <サイフィード>は後方に吹き飛ばされるが、すぐに地面に足を接触させてブレーキを掛けると再び鎧武者への追撃に入る。

 既に左腕ではアークエナジスタルが露出し、術式兵装発動に必要なエーテルが充填されている。

 さっきの防御に全力を注いだジンは反応が遅れている。これで決める!


『速いっ、これはまさか――!』


「こっちが本命だ! 術式解凍――バハムートォォォォォォォォォォォォ!!」


 間髪入れずに放った術式兵装の連続攻撃。その二発目が<モノノフ>の胸部に直撃した。

 <サイフィード>の左手に集中させたエーテルの塊が敵の装甲を削っていく。しかし、想定していたよりもダメージが通らずに攻撃が終了してしまう。

 

「装甲を抜けなかった。攻撃が当たる前に防御系のスキルを発動したのか!」


『この機体の装甲は<グランディーネ>にも匹敵する。『竜鱗』を使ってしまえば一分近くは無敵だ! さあ、この攻撃をどう食い止める!?』


 ジンは斬竜刀の切っ先を俺に向けて機体の出力を上げていく。明らかに突貫攻撃を仕掛けようとしている。

 今の<モノノフ>は只でさえ防御力が高いうえにスキルでダメージが軽減される状態だ。

 そんなヤツが全力で突っ込んで来て正面衝突すればバラバラに弾き飛ばされるだろう。

 これまでのジンとの戦いで感じたのは純粋に俺に勝ちたいという思いだった。あいつは最初から真っすぐに俺に立ち向かってくる。

 その思いに俺は応えたい。そして完膚なきまでにぶっ潰す!


「やるぞ<サイフィード>。全術式解凍、ドラグーンモード起動!」


 <サイフィード>は機体各部に増加装甲を纏い、背部では二基のエーテルフェザーが展開された。

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