第128話 サイフィードVSモノノフ


 転生者部隊との本格的な戦闘が周囲で繰り広げられる中、俺と敵部隊長のジンはにらめっこを続けていた。

 ヤツは斬竜刀ハバキリを地面に突き刺したまま動こうとする気配が無い。いったい何を考えているのか分からない。

 そんな俺の困惑に気付いたのか、無言を貫いていたジンが口を開いた。


『そろそろマナは全回復したか?』


「なっ……まさか俺のマナが回復するのを待っていたのか?」


『当然だ。先程のロキとの戦いで機体はEP、操者はマナを消耗したからな。アバター育成において必須である『マナ回復』のスキル取得は済ませているはずだから、時間を置けば回復していく。それに機体にEP回復のアビリティがあれば、今の待機時間でかなり回復出来たはずだ』


「――こっちのコンディションが整うまで待ってくれるとは随分と余裕じゃないか」


 モニターに映る黒髪短髪の厳つい男は無表情を崩すことなく淡々と話し続ける。


『余裕というのとは違うな。さっきの戦いでお前はロキを圧倒してみせた。その時点で我々としては今回の目的の一つを達成している。――しかし、お前はまだ本気で戦ってはいないだろう? だから見てみたいと思ったのだ、お前の本当の実力をな。これは俺の我儘みたいなものだ』


「……そうかい。そんなあんたのおかげで俺も<サイフィード>もベストコンディションに戻ったよ。それじゃ、そろそろやろうか」


『ふっ、互いに死力を尽くそう』


 さっきまで無表情だったジンが一瞬だけ笑うと地面に突き刺していた巨大な剣を引き抜き剣先を俺に向けてきた。

 そこから殺意や戦意が一つとなった重圧が俺にのしかかって来る。実際に身体が重くなったような錯覚さえ感じるプレッシャー。

 これほどの相手と相見えたのは初めてだ。戦う前からでも十分に分かる。――こいつは強い!

 すぐに片付けて皆の援護に回りたいと思っていたが、それが許されるような甘い相手じゃない。

 

『――行くぞ!!』

 

「――来る!」


 ジンが搭乗する<モノノフ>が俺に向かって突進してくる。

 『ワシュウ』製の機体特有のエーテルフラッグが背部ではためき、機体の機動性能を高める働きを担っている。

 俺は<サイフィード>の左右に剣を装備し二刀流で対応する。

 <モノノフ>が上段の構えから剣を振り下ろすと、俺は二刀を交差させハサミのようにして受け止めた。

 

『受け止めただとっ!?』


 さっきまでクール一辺倒だったジンが驚いた表情を見せる。それを見て内心「ざまあみろ」と思ったが、口に出す余裕はない。

 ヤツの一撃を受け止めた瞬間に機体にあり得ない重圧がかかり、足が砂漠に埋もれてしまう。

 一瞬でも気を緩めればこのまま真っ二つにされかねない。


「くっ……だらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 エーテルを一瞬だけ爆発的に高めて二刀で斬竜刀をはじき返し、バックステップでその場から距離を取った。

 

『斬竜刀をまともに受け止めたのはお前が初めてだ。早速俺を楽しませてくれたな』


「あんたの初体験の感想なんて興味ないね。楽しむ余裕なんて無いようにボコボコにしてやるよ」


 横目でモニターに表示されている機体状況をチェックしたが、各関節部に異常はない。これならいけるはずだ。


「今度はこっちの番だ」


 <サイフィード>をサイドステップさせながら不規則な動きで接近していく。間合いに入るとワイヤーブレードを伸ばして敵の巨大剣に絡ませた。


『むっ、味な真似を……!』


 圧倒的な攻撃力を誇る斬竜刀と言えど、刀身を振りきることが出来なければ、その持ち味を生かすことは不可能。

 こうして蛇腹剣で剣の動きを封じてしまえば攻撃力を殺すことが出来るはずだ。

 ――そう思っていた時期が俺にもありました。


『むんっ、おおおおおおおおおおおおおおお!!』


「なにっ、引っ張られて――!」


 引き伸ばされた剣で綱引きを始める俺とジン。こっちよりも一回り巨大な敵装機兵のパワーは強く、徐々に俺の方が敵に引っ張られていく。

 必死に足を踏ん張るが、柔らかい砂地ではあまり意味を成さない。

 小中学校の運動会にいたよ。綱引きで圧倒的な存在感を出す巨漢の生徒が。今の俺には目の前の<モノノフ>とその時の男子生徒の姿がダブって見える。

 必死に抵抗していると巨大な男子生徒が、これまた巨大な剣を振り上げるのが見えた。刀身に高密度のエーテルが集中している。


「やばっ!」


『この一撃を受けて見ろ。弐ノ太刀――屠竜とりゅう!!』


 刀身に巻き付いたワイヤーブレードごと<モノノフ>は斬竜刀ハバキリを振り下ろし、規格外の斬撃波を俺に放つ。

 その際にワイヤーブレードが粉々に破壊される様が見え、俺は咄嗟に横に跳んで直撃を避けた。

 斬撃波は砂漠の大地を斬り裂き砂塵を巻き起こす。さっき俺たち竜機兵チームを襲ったものと同じ攻撃だ。

 巻き上げられた大量の砂が吹き飛ぶと地面に深々とクレバスが出来ていることに気が付く。

 その範囲は先のものよりも狭い範囲ではあるが、直撃すればただでは済まない。

 <サイフィード>の左手に残ったワイヤーブレードの柄をストレージに戻し眼前にいる敵を睨み付けた。


「やってくれたな……!」


 頭に血が上ると同時に、他の場所で戦っている仲間の安否が心配になって来る。こいつがこれだけ強いとなると他の転生者の実力も侮れない。

 弱体化したとはいえ、あのロキとか言う転生者もかなり強い。機体の属性による相性でパメラをぶつけたが、その選択は正しかったのか?

 それに強力な機体とされる<ドゥルガー>にはフレイア一人を当ててしまった。他にも誰かをつけるべきだったんじゃないか?

 そして二機の<ハヌマーン>の操者に関しては嫌な予感しかしない。シオンやクリスティーナ、フレイは無事なんだろうか?

 くそっ! 早くこいつを倒して皆の所へ行きたいのに。


『――雑念だらけだな』


「何だと。どういう意味だ!」


『言葉通りだ。貴様の攻撃には焦りや後悔といった雑念だらけで殺気が伴っていない。そのような中途半端な意思だから、あっさりパワー負けして武器を破壊されたのだ。――違うか?』


「……っ!?」


 ヤツの言っている通りだ。こんな焦った状態では、ドラグーンモードで挑んでもあっさり返り討ちになるのは目に見えている。

 この状況をどう打開すればいいんだ?

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