第127話 三機の竜と二機の猿⑤ 決着

『こいつはヤバいぞ、ヒシマ! このままじゃ』


『とにかく防御系と回復系のスキルを使いまくって耐えるしかない! これほどの攻撃はそう長くは続かないはず。ここが正念場だぞ、ヤマダ』


 度重なるダメージをスキルの使用によってやりすごす転生者の二人であったが、これまでの戦いでマナを大量に消耗していたため既に余裕が無い。

 天を仰ぐと彼らの上空において、一機の竜機兵が純白の翼を羽ばたかせ待機しているのが目に入った。

 天使を彷彿とさせるその姿は、今の二人にとって悪魔のような存在として瞳に映っていた。天使のような悪魔は自分の周囲に風の障壁を発生させ、突撃準備に入っている。

 

『間もなくメイルシュトロームは消失します。シオン、止めはあなたに任せますわ!』


『いけぇぇぇぇぇ、シオン!』


 クリスティーナとフレイの激励を受け、その悪魔――<シルフィード>の操者であるシオンは、愛機の術式兵装を発動させる。


「突っ込むぞ、<シルフィード>! 風の障壁で圧死しろ、アジ・ダハーカァァァァァァァ!!」


 <シルフィード>は風の鎧をまといながら、渦の直上から侵入し地面にいる二機の<ハヌマーン>に突撃した。

 

『うわぁぁぁぁ! いだだだだだだだ!!』


『見事な連携だ。……けどな、雑魚散らし技のアジ・ダハーカじゃ俺たちは倒せないぜ!』


 風の障壁で敵を砂漠の大地に押し込んでいくが、ヒシマが指摘したように<ハヌマーン>を破壊するには、やや威力が心許ない。

 敵から離れシオンがエーテルブリンガーを構えると、霧散した斉天大聖やアジ・ダハーカにより発生した風のエーテルが刀身に集まり始める。


「お前たちに指摘されるまでもなく、<シルフィード>の弱点が攻撃力不足だと言うことは分かっているさ。――だからこそ用意されたドラゴニックウェポンだ」


 エーテルブリンガーは荒れ狂う砂塵の風を吸収し、嵐を纏う剣へと変貌していった。その剣先にはダメージを負った二機の<ハヌマーン>がいる。


「風を統べろ、<シルフィード>! これで決めて見せる、ディバイディングストォォォォォォォォム!!」


 エーテルブリンガーから暴風の斬撃が放たれ正面にいる敵に向かって行く。


『なっ、あんなのが直撃したら!?』


『ちぃぃっっっ!!』


 既に半壊しているヤマダ機の前にヒシマ機が壁のように仁王立ちになる。両腕を交差させて防御の構えを取った。

 相棒の突然の行動にヤマダが驚いた直後、ディバイディングストームがヒシマ機に直撃し防御の上から装甲を斬り刻んでいく。


『ヒシマァァァァァァァァァァ!!』


 自分を守るために盾になったヒシマの名を叫ぶが、周囲に発生した嵐によってモニターは視界が効かずエーテル通信も不通になり安否が分からない。

 暴風が過ぎ去り徐々に視界がクリアになっていくと、ヤマダの目の前には半壊したヒシマ機が仁王立ちのままそこにいた。


『ヒシマ……ヒシマ……、生きてるか? 生きてるよな!?』


『…………』


 エーテル通信はまだ完全に回復せず、ヒシマ機のコックピット内の様子が分からない。応答がない現状にヤマダがうな垂れていると、雑音と共に聞きなれた声が聞こえて来る。


『ザ……ザザ……おおき……な……え……すな。びっく……する……おれ……ぶじだ』


 互いに無事であったことにヤマダたちは安堵する。だがヒシマ機の向こうにいる三体の装機兵は損傷こそ見られるものの、戦闘継続が可能な状態であった。

 ヤマダが相手の出方を窺っていると、シオンがエーテル通信を繋げ戦闘終了を提案してきた。


「これで満足したか? そうであったなら戦いは終わりだ」


『俺たちに止めを刺すには絶好のチャンスなのに、それを見逃すのか?』


「それを言ったら、お前たちこそ僕たちを倒せるチャンスは何度でもあっただろ。――お前たちの目的は何だ? なぜ、わざわざ僕たちの成長を促すような戦い方をした。僕たちにはそれを訊く権利があるはずだ」


『――それは世界を守るためだ!!』


 シオンとヤマダの会話にヒシマが大きな声で割り込み、真面目な話をしようとしていた二人は頭を抱えてしまう。

 そんな周囲の空気を気にせずヒシマは話し続けるのであった。


『俺たち転生者はこの世界を救うために呼ばれて来た、言わば勇者だ。そして、この世界を救うために他の勇者を捜している。その勇者候補がお前たち竜機兵チームなんだよ。だから、こうして俺たちが直接戦ってレベルアップをさせ土壇場での実力を試した。以上だ!』


「世界を救う……だと? それはつまり、お前たちの国である『ワシュウ』や『シャムシール王国』に協力し『ドルゼーバ帝国』を叩くということか?」

 

 ヒシマの要領を得ない説明では話が見えないシオンは、会話が通じるヤマダに説明を求める。だが、彼の返答はシオンの予想を超えるものであった。


『確かに『ドルゼーバ帝国』に関しては何とかしないといけないが、それだけじゃない。そもそも俺たちが求めている仲間は、国がどうのこうのというものではないんだよ。――さっきヒシマが言っていたのは説明不足過ぎて分かり辛かったが、世界を救うためという目的に嘘偽りはない。俺たちはこの世界、テラガイアの終焉を止めるために戦っている。お前等には、その目的の為に力を貸して欲しいと思っているんだ』


「テラガイアの終焉だと!? どういうことだ、説明しろ!」


 その時、轟音と共に巨大な砂柱が立て続けに発生する様子が彼らの目に入って来た。二つの部隊の面々はそれをやっているのが互いの隊長機だと瞬時に理解した。

 ヤマダは砂柱を見ながらシオンたちに話の続きをした。


『今の話の詳しい説明は後でちゃんとするよ。この問題は俺たちがこの世界に送り込まれた問題とも密接に関係してるしな。おたくらのボスの……ハルト……だっけ? おたくらの部隊に何人の転生者がいるか分からないが、そいつらも知りたいだろ。自分たちがどうして、この世界にやって来たのかって』


『あなた方は、ハルトさんたちがこの世界に来た理由を知っているということですね』


『その通りだ。ある人物にその真実を教えてもらったんだよ。とにかくこの話は長くなるから、ちゃんとした場を用意して順番立てて説明しないと分かり辛い。既に他の連中の戦いも終わったようだし、あそこでとんでもない戦いをしているボスたちの所へ行こうとしようや。話は戦闘が終わってからじゃないと』


『分かりましたわ。ではこれでわたくしたちの戦いは終わりということにしましょう』


 こうして、竜機兵チーム三機と転生者部隊二機によるパーティバトルは幕を閉じた。そして、戦いの場は砂漠で激闘を繰り広げるハルトとジンの話に移る。

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