第126話 三機の竜と二機の猿④

 ヒシマは二機の竜機兵の攻撃をいなしつつ、彼等の成長速度に舌を巻いていた。


『これは予想以上の収穫だ。こいつらの勇者スピリット指数は成長を続けていやがる。――よしっ、最後の試験と行かせてもらうぜ。ヤマダァァァァァァ、やるぞっ!』


『あいよっ』


 空から下りて来たヤマダ機は破損した両腕の代わりにエーテルバンデージでフリーダムロッドを把持して頭上で回転させ始める。

 ヒシマ機も同じようにフリーダムロッドを回転させると二機を囲むように竜巻が発生し、周囲にあるものを引き寄せ呑み込み始めた。

 竜巻に呑み込まれたものは一瞬でバラバラにされ空高く舞い上げられていく。


『これが俺たちの術式兵装〝斉天大聖せいてんたいせい〟だ。それも二機同時展開の威力マシマシ。止められるなら止めて見ろ。出来なければ、お前らも吸い込んでスクラップにしちまうぞ!』

 

 斉天大聖の吸引力は強くなっていき、少しずつ二機の竜機兵も引き寄せられていく。


「くそっ、このままじゃ長くは持たないぞ。一か八かやってみるか、同じ風の攻撃ならあるいは――」

 

『それは危険すぎますわ。アジ・ダハーカを使ったとしても、竜巻の回転に呑まれてしまいます。――そこで、わたくしに考えがありますが乗ってみますか?』


 作戦を提示するクリスティーナには自信があるように見える。シオンはそんな彼女から以前とは違う頼もしさを感じていた。


「ふと、お前とパメラの三人で戦っていた頃を思い出したよ。当時の僕たちは実戦不足でいつも不安に駆られていた。でも、今のお前からは頼もしさしか感じない。あいつの影響かな?」


『あら、それを言うのでしたらシオンの方がハルトさんの影響を受けまくっていますわよ。術式兵装を使用する時に大声を出すとか……』


 クリスティーナがクスクス笑うとシオンは顔を真っ赤にして反論する。


「あっ、あれはただのゲン担ぎだ。そうした方が攻撃が上手く決まるんだ!」


『はいはい、そういうことにしておきましょうね。――さて、フレイさんの方は準備はどうですか?』


 砂漠の中で砂煙を上げながら<ドラタンク>が疾走して来る。シオンたちに合流した竜戦車は満身創痍でこれ以上の戦いは無理なようであった。

 そんな愛機とは裏腹に操者であるフレイの目は闘志がみなぎっている。


『かなりダメージを受けたが<ドラタンク>はまだやれる。予備のガトリングは二丁あるし、それにとっておきがまだ残っている。あれなら連中にダメージを与えられるはずだ』


『分かりましたわ。<ドラタンク>のとっておきが使用可能であったのは吉兆です。それでは作戦を説明します』


 竜機兵チームの三名が作戦の段取りをする一方で、ヤマダとヒシマは体力も精神力も限界に達しようとしていた。

 特にヤマダは既に戦意を失いつつある状態だ。


『あのさぁ、もうこれ以上戦うの止めない? 既に目的は達成出来たよね。俺の<ハヌマーン>なんて両腕と片脚もげてんだけど、普通こんな状態になったら撤退一択じゃん。いい加減もう帰りたい』


『何を弱気なことを言ってんだ。脚なんて飾りだ。偉い人にはそれが――』


『飾りなわけあるか。大地に立つ時必要なのは脚、踏ん張る時重要なのは脚、跳んだりする時大切なのは脚! 適当なこと言うなや、このバカ勇者マニア! この戦いが終わったら絶対にお前とのコンビ解消すっからな!』


 食い気味にヒシマにツッコむヤマダはうんざりとした表情で相棒との決別を宣言するも、当の本人はあっけらかんとした顔をしていた。


『それは無理だろ。俺たちはガキの頃からこんな異世界に来てまでもつるんでるんだぞ。初めて会ってから半世紀以上経過しても一緒にいる仲なんだから、例え死んでも一蓮托生だ。諦めろ』


『死後も俺に付きまとう気かよ。どうしてこんなのと腐れ縁になったんだろ。……ああああああ、もうどうにでもなれ。やってやるぅ、やってやるぞぉ!』


 自暴自棄になったヤマダと更に気合いを入れるヒシマは、術式兵装の出力を上げていく。

 <ハヌマーン>の竜巻が勢いを増す中、シオンたちは決着に向けて動き出した。

 最初に動いたのは<アクアヴェイル>だ。エーテルフラガラッハ三基を竜巻を囲むように配置し高速飛行させる。

 円を描くように飛行していると、その軌跡が巨大な魔法陣を作り出した。


『エーテルフラガラッハ、シャーマニックフォーメーション。――術式構築、座標固定!』


 <アクアヴェイル>が手をかざすと、<ハヌマーン>二機の真下で水色の魔法陣が淡く輝き術式が展開されていく。


『まさかこのまま術式兵装を俺たちに撃ち込む気か!?』


『そのまさかですわ。とっておきをお見舞いします。術式兵装――メイルシュトローム!!』


 <ハヌマーン>の術式兵装に重ね合わせるように、<アクアヴェイル>による大渦潮の術式兵装が放たれた。

 その直後、ヤマダたちは自分たちの攻撃が弱体化していくのを実感していた。


『斉天大聖の回転力が弱まっていく。……そうか。<アクアヴェイル>の渦潮はこっちの竜巻とは逆回転なのか!』


『その通りですわ。メイルシュトロームならば、あなた方の術式兵装を抑え込むことが可能です』


『考えたな。しかし、お前の攻撃は俺たちの機体にはダメージを与えていない。勇者スピリ――』


『採点をつけるのはまだ早いですわよ。勝負はここからです。――これはチーム戦なのですから。そうですわよね、フレイさん』


『おうよ! 追撃は任せろ』


 風と水の渦が干渉し合う中、<ドラタンク>がストレージから二基の構造物を射出した。

 それは花のつぼみのような形状をしており、渦の両脇で停止すると花弁のように外装が開いていく。

 花が満開になるとバチバチと音を立てながら電光を放ち始める。


『これが<ドラタンク>の奥の手だ。たっぷり味わいな! ライトニングコレダァァァァァァァァ!!』


 フレイが放射指示を出すと二基のライトニングコレダーから強力な電撃が放たれる。

 電撃は水属性であるメイルシュトロームを伝って、渦の中心部にいる<ハヌマーン>へ届いた。

 ヤマダ機、ヒシマ機の両機は砂漠ごと電撃に晒され、大地から発生した炎に焼かれていった。

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