第125話 三機の竜と二機の猿③

 シオンは敵に攻撃をしながらクリスティーナの補足説明をしていた。


「一応訂正しておくが、クリスはデンジャラスプリンセスではなくサディスティックプリンセスだ。ティータイムよりドS行為が好きな変態だ」


『誰もそんな二つ名の正式名称訊いてねーよ!』


「ついでに言うと、あんな変態姫でも既に婚約済みなわけだが」


『マジか!? 相手はもしかして……どこぞの変態貴族とか?』


「いいや、白い竜機兵に乗る変態ゲーマーだ」


『ああっ、あの野郎か!』


「クリスだけじゃない。聖女のティリアリア、その侍女であるフレイア、そして僕の母親のシェリンドンに至るまであいつは自分の妻に迎えている。毎晩のように酒池肉林パーティーをやるような男だ。――お前たちにそんな男が倒せると思うのか?」


『か、勝てる気がしねぇ。どんだけ肉食なんだよ。やってることが魔王みたいじゃ……いや待てよ。『毎日ゆうべはお楽しみでしたね』って、ある意味勇者の所業じゃないか。勇者スピリット指数――千に認定!』


「本当に採点基準が意味不明だな。まあいいさ、一気に勝負をつける。――クリス、決めるぞ!」


『分かりましたわ。ですが人のプライベート情報を他人に言いふらすのはいただけませんわね。後でシェリンドンさんにお説教してもらいますから、そのつもりで』


「なっ!?」


 後に待ち受ける怒ったシェリンドンを想像し、シオンは身体を震わせながらエーテルブリンガーによる風の斬撃波を敵に放ちまくる。

 

『斬撃を飛ばしてくるとは味な真似を。だが、こっちも遠距離に対応出来るんだよ!』


 ヒシマはフリーダムロッドを伸ばす全距離対応攻撃で風の斬撃を受けるが、先程までとは違って反撃する余裕がないことに気が付くのであった。


(明らかにさっきよりも攻撃のスピードや精度が上がっている。レベルだけじゃなく戦闘ポテンシャルが戦いの中で成長しているのか。予想以上の成長速度だな。王様が言っていたように、こいつらならもしかして――)


『背後がお留守ですわ!』


 シオンによる前方からの攻撃に気を取られていたヒシマは、背後から忍び寄るサディスティックプリンセスの攻撃を受け追い詰められていった。



 一方、フレイとヤマダの戦いは接近戦へもつれこんでいた。

 最初の<ドラタンク>の一斉射をエーテルバンデージによる防御でやり過ごしたヤマダは弾幕をかいくぐって接近し、フリーダムロッドでエーテルガトリング砲の銃身を破壊した。

 そこから間髪入れず左側のエレメンタルキャノンをへし折ると、右側の砲門に一撃を入れる。


「くそっ、このままじゃやられる!」


『これだけ武器を破壊されちゃあ、さすがにどうしようもないだろ。早く降参した方が身のためだぞ』


 ヤマダの<ハヌマーン>は<ドラタンク>の戦車部分に乗り至近距離で攻撃を行っていた。

 そのため遠距離支援機である<ドラタンク>は豊富な武装を使用出来ない状況にある。

 機体の性能面からヤマダはこうなるだろうと予測しており、自身の勝利を確信した。それが油断へ繋がるとも気付かずに。


「確かヤマダとか言ったよな、お前。不用意に俺に近づきすぎたな」


 フレイは破損した左右のエーテルガトリング砲でヤマダ機を殴打する。ヤマダはただでさえ威力のない打撃をフリーダムロッドで受け止め無力化した。

 

『効かないなぁ、そんな攻撃』


「そう来るだろうと思っていた!」


 エーテルガトリング砲を腕部からパージすると、その勢いでヤマダ機はフリーダムロッドを落としてしまう。

 慌てて拾おうとすると、自由になった<ドラタンク>の両手でヤマダ機の両腕を掴む。

 それと同時にタンク部分の一部装甲が開き、隠されていた多連装の砲門が姿を現した。


『なん……だよそれは!?』


「さっきも言っただろ。お前みたいに不用意に近づいたバカを吹っ飛ばすための武装だよ。――アヴァランチ炸裂弾のシャワーを食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 出現した砲門から無数のエーテル弾が発射され始める。

 逃げようとするヤマダ機であったが、<ドラタンク>に腕を掴まれていたため離れることも出来ずに零距離で攻撃を受けることとなった。

 炸裂式のエーテル弾は一発こそ威力が低く爆発も小規模だが、その数が何十発ともなれば威力も爆発範囲も桁違いになる。


『正気か!? こんな至近距離じゃ、お前だって爆発に巻き込まれるんだぞっ!』


「そんなことは百も承知だ。この<ドラタンク>は装甲の厚さが取り柄でね。お前の軽量型の機体とどっちが先にぶっ壊れるか……耐久値のチキンレースと行こうじゃないか!」


 二機はアヴァランチ炸裂弾の爆発に呑み込まれ装甲が損傷していく。

 その中で<グランディーネ>並みの装甲を誇る<ドラタンク>はダメージが軽微であるのに対し、防御力が若干低い<ハヌマーン>はダメージが顕著であった。


『ぐぁぁぁ、このままじゃ持たないっ!』


 ヤマダは機体の肩部からエーテルバンデージを射出し、自機の両前腕部を斬り落とすと<ドラタンク>から離れる。

 二機の距離が開いていく中、フレイは即座に追撃に入った。


「ストレージ解放。エーテルバズーカ……セット完了。レールガン起動。ここまでやって逃がしてたまるかよっ。全弾持ってけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 フレイは両手に装備したエーテルバズーカと二門のレールガンを連射、逃げようとするヤマダ機をエーテルバンデージごと撃ちまくる。

 

『こいつまだやるのか!?』


「やるに決まってんだろ。……一発だけならいけるか。エレメンタルキャノン、いけぇぇぇぇぇ!!」


 破損していた一門のエレメンタルキャノンを発射すると大砲の基部が吹き飛び大破する。それと引き換えに放たれた雷撃砲はヤマダ機に直撃し爆発した。


「やったか!?」


 爆炎の中から空中に飛び出したヤマダの<ハヌマーン>は両腕と片脚を失っていた。満身創痍の姿でヒシマのもとへ逃げるのをフレイが追って行く。

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