第124話 三機の竜と二機の猿②

 <シルフィード>が装備したドラゴニックウェポン――エーテルブリンガーを見てヤマダとヒシマは警戒を強めていた。


『あんな武器は見たことがないなぁ。『鑑定』で確認してみるか。――エーテルブリンガー……ドラゴニックウェポン? 何だそりゃあ、そんなのゲームには無かったぞ』


 正体不明の武器の登場に基本ビビリのヤマダは及び腰になるが、相棒のヒシマは喜びで表情が緩む。


『それはつまり、この転生世界オリジナルの武器ってわけだろ。面白いじゃないか、テンション上がってキタァーーーー!!』


 テンアゲのヒシマは真っすぐにシオンに向かって行き、慎重派のヤマダはサポートに回った。


「二機が離れた!? 一機は僕に向かって来ている。――フレイ、後方の<ハヌマーン>の足止めを頼む。僕とクリスで接近してくるヤツを叩く!」


『任せろ。足止めとは言わずに総火力でぶっ潰してやる!』


『分かりましたわ。支援に回ります』


 <ハヌマーン>二機のフォーメーションが崩れたのを確認したシオンたちは咄嗟に各個撃破へと切り替えた。

 <ドラタンク>は出遅れたヤマダ機にエーテルガトリング砲を集中させながら、背部のエレメンタルキャノン二門とタンクの左右に一門ずつ装備しているレールガンの発射準備を整える。

 火器の攻撃可能範囲まで接近すると、フレイはタンクの足を止めてヤマダ機に照準を合わせる。


『――照準セット。これでもくらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 雄叫びと共に<ドラタンク>からエレメンタルキャノンとレールガンに加えエーテルガトリング砲の一斉射がヤマダ機に放たれた。

 エーテルの弾幕でダメージと足止めをしたところに雷のエーテルをまとった実弾が衝突し、続けて雷撃砲の着弾によって大爆発が発生した。


『この爆発は……ヤマダァァァァァッ!』


 ヤマダ機が爆発に呑まれたことに気が付いたヒシマが相方の安否を確認していると正面からシオンが迫る。


「お前の相手は僕だ。よそ見をしている余裕があるのかっ!」


 <シルフィード>がエーテルブリンガーで斬りつけるとヒシマ機は装備している伸縮自在の武器――フリーダムロッドでそれを受ける。

 刀身に風の刃を纏ったドラゴニックウェポンの予想以上の威力にヒシマは驚きと歓喜が同時に湧き上がってくるのを感じていた。


『くぅぅぅぅっ、このパワーそして気迫。――勇者スピリット指数八十ってとこか!』


「訳の分からない採点をしているようだが、味方がやられたというのに随分と余裕のようだな。お前も倒してとっとと仲間たちの所へ行かせてもらう!」

 

 シオンはエーテルブリンガーで袈裟懸け、横薙ぎ、上段から斬り下ろす連続攻撃を敢行する。

 だが、ヒシマはその全てをフリーダムロッドで受けきっていた。


「ちぃぃぃぃ、やるっ!」


『甘い、甘いぞ。その程度の打ち込みじゃ俺は倒せんぞ。勇者スピリット指数五十! ――それと、俺の相方はあの程度の攻撃じゃくたばらないぜ。見てみろ』


 ヒシマに促されヤマダ機が砲撃を受けた場所に目をやると、そこにはエーテルバンデージを解きながら爆炎の中から現れる<ハヌマーン>の姿があった。


「エーテルバンデージを機体に巻き付けて凌いでいたのか!?」


『その通り。包帯みたいな武装だから、ああいう使い方が出来るのさ。ミイラ男みたいで、ちぃっとばかしおっかない外見になるけどな』


 特に鼻にかけるでもなく笑いながら話すヒシマの姿を見て、シオンは敵の姿が一瞬ハルトに重なって見えた。


(……同じだ。こいつらは自分たちの機体性能を十分に把握して創意工夫をしながら戦っている。ハルトと同じ戦闘スタイルをしているんだ。――レベル差がどうとかじゃない。戦いにおける知識と自由な発想力が最大の武器なんだ。こいつはまずい。あのバカを二人同時に相手しているようなものじゃないか!)


 敵の底知れぬ実力を前にシオンが焦りを見せると、緩んだ攻撃の合間を狙ってヒシマが反撃を仕掛けて来る。

 フリーダムロッドを伸ばして横薙ぎに振うと、シオンは刀身でそれを防御した。


「なんてパワーだ。受け止め……きれない!」


『その程度の膂力りょりょくじゃ、俺の攻撃を止めることは出来ないぜ。――どっせぇぇぇぇぇい!!』


 ヒシマは気合いの掛け声を上げると思い切り得物を振り切り、<シルフィード>は防御したまま砂漠に思い切り叩きつけられた。

 

「がはぁっ!」


 ヒシマの<ハヌマーン>はロッドを元の長さに戻し、今度は先端をシオンに向け追撃に移ろうとしていた。

 その時ヒシマ機のコックピットに警告音が響き、その元凶に目を向けると青い装甲の竜機兵<アクアヴェイル>が掌を向けている姿が目に入る。

 掌の前方に淡い光を帯びた魔法陣が展開されており、術式が完成しつつあることを示していた。


『おいおいおいおい、あれってまさか!?』


『捉えましたわ。シオンから離れなさい。術式兵装――リヴァイアサン!!』


 魔法陣から膨大な水のエーテルを圧縮した奔流が放出され、ターゲットであるヒシマ機はフリーダムロッドを回転させ攻撃を散らしていく。


『ぐうぉぉぉぉぉぉ、この絶妙なタイミングでの必殺技……勇者スピリット指数二百!!』


 水のレーザー砲の如きリヴァイアサンは、防御の上から徐々に<ハヌマーン>の装甲を削り取っていった。

 ヒシマは機体を射線上からずらし直撃を避けて一旦後方に下がろうとする。

 その時三つの飛行物体が現れ、ヒシマ機を取り囲むように周囲を回り始めるのであった。


『な、なんだこりゃあ。空飛ぶ円盤!?』


 その三つの飛行物体は円盤状の形をしており外縁部からはチェーンソーのように高速回転する水の刃が出力されていた。


『それは、この<アクアヴェイル>のドラゴニックウェポン〝エーテルフラガラッハ〟ですわ。――その威力、身を持って味わいなさい!』


 クリスティーナの命令を受けて三基のエーテルフラガラッハが<ハヌマーン>に襲い掛かる。

 ヒシマは様々な方向から縦横無尽に斬りかかって来る水刃の飛行物体を叩き落とそうとするが、巧みに軌道を変え高速飛行する物体を落とすのは難しくロッドは空を切る。


『ふふふ……落とそうとしても無駄ですわ。さあ、エーテルフラガラッハ。その獲物をぶっ殺して差し上げなさい!』


 段々と物騒な物言いになるクリスティーナを目の当たりにして、並大抵のことでは動じない熱血男ヒシマの顔が青ざめる。


『ええっ!? 今、『ぶっ殺す』って言った? あの貞淑なクリスティーナ姫がこんな物騒な言葉を遣うなんて……嘘だ! 俺の知っている姫は何かこう……おちょぼ口で紅茶を飲んだ後に片手を頬に当ててニコッと笑う感じなんだよ。こんな……こんな……悪役令嬢でも言わないようなデンジャラスな言語は遣わないはずだ!』


 ショックを受け隙だらけになったヒシマの<ハヌマーン>を、エーテルフラガラッハは容赦なく斬りつけていく。

 我に返ったヒシマは自機の耐久値がごっそり削られていることに気が付き、バトルスキル『再生』で機体を修復した。

 しかしデンジャラスなクリスティーナの猛攻はそれでも止まらない。


『機体を回復させたようですわね。それはつまり、まだまだわたくしになぶられ足りないという意思表示でしょうか。――そうであれば期待に応えなくてはなりませんわね』


『ち、ちが……俺はそんなつもりじゃ。ってか、何なのこのデンジャラスプリンセス。ヤベーんだけど、笑いながら目がイッてるんだけど!』


 ヒシマが逃げ惑っていると、視界にもう一機の装機兵が接近して来るのが見える。それは先程地面に叩き付けられた<シルフィード>であった。

 ヒシマ機との間合いを一気に詰めると、エーテルブリンガーの連続突きでダメージを与えるのであった。

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