第123話 三機の竜と二機の猿①
砂漠の各地で一対一の戦闘が行われる中、この場所では竜機兵チームの三機と転生者部隊の二機がパーティバトルを繰り広げていた。
転生者のスキンヘッドの男〝ヤマダ〟とオレンジ長髪の男〝ヒシマ〟が搭乗する二機の<ハヌマーン>を相手に、シオンの駆る<シルフィード>が接近戦を仕掛ける。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、リアクタースラッシュ!!」
『おわぁっ、危なっ!』
シオンの雄叫びと共に繰り出される斬撃の術式兵装であったが、ヤマダはそれを紙一重で回避する。
「くそっ、また躱され……かはっ!」
<シルフィード>のコックピットを衝撃が襲う。モニターには自機に伸びる一本の棒が映っており、その先端が腹部に命中していた。
その棒の持ち主はシオンたちから離れた場所にいるヒシマの<ハヌマーン>であり、手に持っている棒は百メートル以上の長さに伸ばされている状況だ。
動きが止まった隙を狙って、今度はヤマダ機がヒシマ機と同じ武器でシオンに迫って来る。
「まずいっ」
その時、ヤマダ機に無数のエーテル弾が叩き込まれ、ヒシマ機にはエーテルの弓矢が命中した。
シオンは敵がダメージで怯んでいる間に離脱して後方に下がる。そこには左腕に弓を装備した<アクアヴェイル>が待機していた。
『シオン、こちらへ』
「すまない」
各部にダメージを受けている<シルフィード>が不時着すると、損傷を受けている箇所に掌をかざし<アクアヴェイル>のヒールが開始された。
機体修復のため身動きが取れない二機の壁になるようにフレイの<ドラタンク>が立ち塞がり、両腕に装備しているエーテルガトリング砲で<ハヌマーン>たちを遠ざける。
『<シルフィード>が完全に修復するまで場は持たせる。クリス頼んだぜ』
『了解しましたわ。その間はお願いしますわ』
<ドラタンク>が弾幕を張り、二機の<ハヌマーン>はエーテルバンデージを盾のように展開して攻撃を凌ぐ。
その様子をシオンは冷静に観察し口を開いた。
「――二人ともレベルはどれ位になった? 僕は五十五になった」
『わたくしは五十二ですわ』
『俺は五十だ。この戦闘が始まるまではお前等とかなりレベル差があったにも関わらずな』
戦闘が再び膠着状態になった今、三人はこの戦いが始まってから感じていた違和感のすり合わせをしていた。
「ハルトの予想が当たったな。あの二機の<ハヌマーン>の操者は相当の手練れだ。おどけた調子を見せてはいるが、終始僕たちを圧倒している。解せないのはいつでもこちらを全滅させることが出来るのにそうしないことだ。わざと戦闘を長引かせて、僕たちに経験値が入るように仕向けている。そのおかげで既にレベルが十近くも上昇した」
『そうですわね。戦っているだけでこれだけの経験値が入るということは、それだけわたくし達と彼等にレベル差があるということですわ。まるでわたくし達のレベル上げを目的にしているような戦いぶりです。傷ついた<シルフィード>を修復して再び前線に戻すという流れを既に三回は繰り返していますけど、修復中は積極的に攻めることはせずにフレイさんの攻撃を防御でやり過ごしています』
『そのおかげで俺は一方的に敵を攻撃しているからか経験値が入って来るんだよな。だが、さすがに最初の頃のようにはレベルは上がらなくなってきたか。この傾向はあいつらも気が付いているはずだ。――となると』
<シルフィード>のコックピットモニターに映るクリスティーナとフレイの顔が緊張でこわばり、それはシオンも同じであった。
「敵の狙いが僕たちのレベルアップであったならば、その目的は達成されたと思っていいな。そろそろ何かしらのアクションをしてくるはずだ」
『――シオン、間もなく<シルフィード>の完全修復が終了しますわ。そうしたら、こちらから打って出ましょう。いえ、打って出るべきです。敵が頻繁に使用している伸縮自在のロッドは攻撃力こそ高くはありませんが、攻撃範囲が広く使い勝手が優秀な武器です。守りに徹すれば、これまでの流れと同じように翻弄されるだけですわ。そうなる前にこちらの最大戦力で勝負をかける方が勝率が上がるでしょう』
「クリスの言う通りだな。<シルフィード>と<アクアヴェイル>のドラゴニックウェポン。それに<ドラタンク>の全火器集中攻撃。散発的な攻撃をするよりも火力を集中させれば何とかなるか……」
『俺はクリスの作戦に乗るぜ。連中は多少のダメージならスキルですぐに回復しちまうし、エーテルバンデージの防御を抜くには攻撃力が高くないと話にならねぇ』
竜機兵チームの三人は互いに頷き合い決着への意気込みを見せる。
その一方で彼等と対峙する転生者部隊のヤマダとヒシマは、<ドラタンク>のエーテルガトリング砲をエーテルバンデージで防ぎつつシオンたちの雰囲気が変わったのを感じ取っていた。
『――風が変わったな。どうやら
『……ヒシマよぉ。もういい歳なんだから、そういう厨二っぽいセリフはどうかと思うよ。俺たち前世と今の年齢を合わせると立派な高齢者枠なんだぞ。さすがにちょっと痛くないか?』
『ヤマダは本当にノリが悪いな。俺たちは勇者だ。そして新たな勇者を選定するという重要な役目が俺たちにはある。だからこれくらいが丁度いいのさ』
『ノリはともかくとして連中のレベルは十分上がったようだな。向こうもやる気だし、第一段階の仕込みはこれで終了すっか。この戦いで竜機兵チームが使える連中なのかそうでないのかはっきりさせないといけない。――やるぞ、ヒシマ!』
『おおよ!』
気合いを入れるヤマダとヒシマは防御を解いてエーテルの弾幕を回避しつつシオンたちへの接近を開始する。
牽制していたフレイは敵が先に動き出したため焦りを見せていた。
『くそっ、向こうが先に動いた。<シルフィード>は!?』
『修復完了しましたわ!』
「二人ともありがとう、おかげで機体は万全だ。あの二機を倒して他の皆と合流する。――そのためには!」
<シルフィード>の全エナジスタルが眩い光を放ち、突如発生した竜巻が機体を覆っていく。
そして竜巻はその範囲を狭めていき、<シルフィード>の右手に収束すると一本の剣へと姿を変える。
「マテリアライズ終了。ドラゴニックウェポン――エーテルブリンガー!」
刀身に風を纏う両刃の剣を携えて風の竜機兵が再出撃し、水の竜機兵と竜戦車がそれに続くのであった。
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