第122話 グランディーネVSフェンリル③ 決着
(これで機体は元通りになったけど、マナをかなり消耗した。一応『マナ回復』のパッシブスキルで少しずつ回復しているけど長期戦には持ち込めない)
「やるよ、<グランディーネ>。エーテル集中――ドラゴニックウェポン、エーテルアイギス!」
<グランディーネ>の足元から二つの巨大な岩塊がせり出し、パメラはそれを左右の腕に装備した。
それはあまりにもみすぼらしい姿であった。装機兵がそこら辺にある岩を持ち上げて武器だと言っている様なものだからだ。
『パメラさん、それはいったいどういうつもりですか。そんなただの岩の塊を腕に装着して盾の代わりにするだなんて、正直がっかりです』
「そう思うのなら止めを刺しに来ればいい。私は逃げない。今度こそあんたの攻撃を受けきって見せる!」
あくまで徹底抗戦の姿勢を崩さないパメラに感心しつつも、ロキは彼女が取った行動に失望の色を隠せないでいた。
そんなロキにとって自分に出来る最善の手は、一撃で目の前にいる大地の竜機兵を
『そんな苦し紛れの岩の盾など一瞬で破壊し、これ以上戦えないように機体を穴だらけにしてさしあげます』
ロキはパメラに止めを刺そうと<フェンリル>を<グランディーネ>に肉薄させる。そこからすかさずエーテルグングニルの連続突きを岩の盾に見舞っていく。
<グランディーネ>が装備した岩塊は容易に砕かれていき、その様子はまさに絶体絶命と呼ぶに相応しい状況であった。
『次の一突きでそのみすぼらしい盾は粉々です。――覚悟!』
ガキィィィィィィィィィィィン!
<フェンリル>の渾身の一突きが岩の盾に放たれた時、甲高い金属音が周囲に響いた。
ロキは何が起きたのか理解出来なかった。脆いはずの岩塊をエーテルグングニルで突き通そうとしたところ、貫通することが出来なかったのだ。
するとロキの連続攻撃で崩壊寸前だった岩塊に亀裂が入っていき、音を立てて崩れ去っていった。
そして、その岩の中から白金の盾が姿を現した。エーテルシールドよりも美しくそれでいて重厚な神秘の盾――エーテルアイギス。
<グランディーネ>専用のドラゴニックウェポンがその真の姿を見せたのである。
『岩の中に盾が仕込んであったの!?』
「エーテルアイギスは超高密度の大地のエーテルで構成されていてね。ストレージから呼び出す時にはその影響からか分厚い岩にコーティングされてるのよ。自分で岩を吹き飛ばす手間が省けたわ。サンキュー」
『くっ……いいでしょう。どんな盾を用意しようともオーディンストライクで破壊して見せます!』
ロキは一度距離を取り、エーテルグングニルの穂先にエーテルを集中させて氷雪の刃を再び形成した。
(エーテルグングニルを多用していることやオーディンストライクの連続使用でマナが残り少ない。おまけに<フェンリル>のEPも余裕が無い。しかし、<グランディーネ>も条件はだいたい同じはず。――次で決めて見せる)
ロキが最後の攻撃準備に取り掛かる中、パメラも次の一手に全てを賭ける覚悟を固めていた。
「ロキは次の攻撃に全ての力を投入するはず。それなら私に出来ることは――」
その時、<フェンリル>が全速で砂漠を駆け始めた。標的は白金の盾を装備した<グランディーネ>だ。
『勝負です、パメラさん。――オーディンストライク!!』
<フェンリル>の氷雪の刃がエーテルアイギスに直撃し高速回転を開始した。
白金の盾との接触点から火花が飛び散るが、先のエーテルシールドのようにひび割れる兆候は見られない。
『なんて頑丈な盾なの!?』
「これが『聖竜部隊』の守り手たる<グランディーネ>の底力よ! そんじゃあ、このまま反撃させてもらうよ。はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ファフニール起動!!」
エーテルアイギスに光の防御壁が張られ氷雪の刃が砕けていく。自らの必殺の一撃が不発に終わり、ロキは驚いた後に微笑みを見せるのであった。
『お見事です、パメラ・ミューズ』
「万全な状態ならあんたの圧勝だったよ、ロキ・エルム。――行くよ、<グランディーネ>。だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
<グランディーネ>の全エーテルスラスターが最大出力で稼働し、ファフニールを展開したまま<フェンリル>に突っ込む。
そして圧倒的な防御盾で弾き飛ばした。
猛スピードと堅牢な防御壁が合わさった攻撃は巨大な砲弾のようなものであり、直撃を受けた機動性重視の機体は原型を留めていたものの、一目で戦闘継続が不可能と思える損傷を受けたのであった。
戦闘が終わり、ボロボロの状態で砂上に横たわる<フェンリル>に<グランディーネ>が歩み寄って傍らで片膝をついた。
「ロキ……生きてる?」
『――ええ、生きてますよ。身体中が痛くてすぐには動けませんが、命に別状はないようです。どうして攻撃が当たる直前に減速して威力を弱めたのですか? あのまま突撃していれば<フェンリル>ばらばらに吹っ飛んだはずですが』
「自分でもよく分からないよ。でも、私はこれで良かったと思ってる。それに上手く言えないけどさ、戦ってみてあんたらとは分かり合えるような気がしたんだ。戦争の真っ只中だけど、相手の息の根を止めるまで戦うなんてことはしたくないしさ」
『あなたは本当に甘々ですね。でも、そんな甘さを突き通せるあなたは本当にカッコイイと思います。――もしも私が男のままだったなら、あなたを好きになっていたかもしれませんね』
「…………」
『…………』
二人の間に沈黙が訪れる。そんな空気を先に破ったのはパメラであった。
「あの……さ。今自分が〝男のまま〟とか言っていたけどどういう意味? え、あんた男なの? そんな如何にも素敵なお姉さまみたいな外見しているけど男なの? その巨乳は偽物なの?」
パメラが頭の上にいくつものクエスチョンマークを浮かべながらロキに単刀直入に質問すると、疑惑の本人はニコリと微笑みを見せるのであった。
『戦闘中にも少し話しましたが、私はアバターを設定する時は全て女性キャラにしているのです。この世界へはアバターとして生まれ変わっていますから、今は完全な女性と言えるでしょう。まぁ、確かに転生前の性別は男性でしたけれど』
「――マジっすか。元男がそんなナイスバディの美人に生まれ変わるとか羨ましすぎる。その胸の半分を私にください」
『お断りします』
死闘を繰り広げた二人が親交を深めていると、離れた場所で轟音と共に砂柱が連続で発生する現象が起こった。
パメラとロキがその異常現象の現場に注視すると、そこに二機の装機兵がいることに気が付く。
黄金の剣を持った白い竜機兵と巨大な剣を振り回す鎧武者の装機兵。この二機が鍔迫り合いをする度に大気が震え砂塵が発生する。
「なによあれ……」
『まさに別次元の戦いですね』
鬼神と化した<サイフィード>と<モノノフ>の激しい剣戟は周囲の地形を変えながら、さらに苛烈を極めていく。それが詳しく語られるのはもう少し先の話である。
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