第121話 グランディーネVSフェンリル②

『ああああああああああっ!』


 <グランディーネ>の術式兵装ミョルニルハンマーの直撃を受けた<フェンリル>は砂漠に叩き付けられ、ロキの悲鳴がモニター越しに聞こえて来る。


「はぁ、はぁ、はぁ……悪かったね、ロキ。ああやってバカを演じなきゃ、あんたの油断を誘えないと思ったのよ。悔しいけど、私の実力じゃまともに戦ってもあんたには勝てそうも無かったからね」


 パメラは相手を油断させるために自分が実行した悪ふざけの態度をロキに謝罪した。

 それが相手に届いているかどうかはともかく、根が真面目な彼女はそれを伝えておきたかったのである。


『――成程、そういうことでしたか。パメラさん、謝罪する必要なんてありませんよ。あなたがやったのは立派な戦術です。悪いのはあなたの策にはまった私自身なのですから』


 相手に渾身の一撃をお見舞いし、戦闘不能に追い込んだと確信していたパメラはロキが普通に返答してきたことに驚き表情をこわばらせる。


「ミョルニルハンマーをまともに受けたのに無事だって言うの!?」


 立ち上がった<フェンリル>の装甲はダメージこそ見られはしたが、致命傷には至ってはいなかった。


『ハンマーが命中する直前に『竜鱗りゅうりん』を発動させてダメージを軽減させたんですよ。あと一秒でも遅ければ大ダメージは免れなかったでしょうけど』


「――本当に何でもありね、転生者は。こっちが必死に考えた作戦を簡単におじゃんにしてくれるんだから」


 パメラは溜息を吐くとチェーンハンマーをストレージに戻し、エーテルシールドを前面に展開して防御態勢を整えた。

 

(悔しいけど私のハンマーさばきじゃ、あいつには当てられない。防御しつつ隙を見て一撃を入れるしかない)


『冷静な判断ですね。<グランディーネ>の最大の強みはその防御力。それを最大限活かして戦うのがベストでしょう。でも、私の<フェンリル>の攻撃力はその上を行く。それを見せてあげます』


 ロキはエーテルグングニルの穂先を<グランディーネ>に向け、エーテルを槍に集中させていく。

 するとエーテルグングニルから氷雪のエーテルが溢れだし、<フェンリル>を包み込むのであった。


『今から放つのは<フェンリル>最大の術式兵装です。これを受け止められれば、あなたにも勝機があります。あくまで受け止められればの話ですけどね』


 敵の自信あふれる言動にパメラは緊張のあまり頬から汗が流れ落ちていった。

 今までの戦いでロキがつまらないハッタリを言うような人物ではないと分かっていたからである。


(あれだけ言うんだから、ロキにはこっちの盾を破壊する自信があるんだ。――なら受けて立ってやる!)


「言ってくれるじゃん。それならあんたの自慢の技を受けきってボコボコにしてやるわよ」


 パメラはエーテルシールドにエーテルを集中し防御を最大にして攻撃に備える。

 その一方でエーテルグングニルの穂先にて氷雪の刃が形成されると、<フェンリル>はその俊敏な動きであっという間に間合いに入った。


『貫きなさい! オーディンストライク!!』


「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 パメラは氷雪の槍をエーテルシールドで受け止めた。左右の前腕に装備した盾を重ねた二重の構えで、<フェンリル>の術式兵装オーディンストライクを防ぐ。

 しかしコックピットに映るロキの表情には余裕があった。それを見てパメラは本能的にこの状況が危険だと悟った。

 けれど敵の攻撃を受けているこの状況では動きが取れない。その時恐ろしい現象が目の前で起こる。

 エーテルグングニルの穂先を覆っていた氷雪の刃が突如、高速回転を始めたのである。

 

「な、何よそれ!?」


『これがオーディンストライクの真の形態です。氷雪のドリルとなった、この術式兵装に貫けない物はありません。――ほら、聞こえるでしょう。表面を削られ砕けていく悲鳴の声が』


 ――ミシミシ、バキ、ビキビキ、ビキキキ、バキバキ、ガギギギギ、バギン!


 <グランディーネ>のコックピットには機体前面に構えたエーテルシールドに亀裂が入り、そして砕かれていく様が映し出されていた。


「くうっ、そんなエーテルシールドが……壊され――!?」


 ――ガガガガガガガガガガ、ガキン、バキィィィィィィィィン!


 重厚な金属が破壊される音が砂漠の大地に響き、粉砕されたエーテルシールドの破片が砂上に落ちる。

 敵の術式兵装の余波を受けて<グランディーネ>は砂煙を上げながら地面を転がっていくのであった。


「うあああああああああああ!」


 パメラは自機を吹き飛ばされた衝撃で悲鳴を上げながらも、機体の手を地面に接触させて転がるスピードを減速させ、しばらくして動きは止まった。

 そこから<グランディーネ>の軋む身体を何とか立たせるが、今や機体のシンボルたる盾は見る影もなく破壊され満身創痍の状態であった。


「まさかエーテルシールドが砕かれるなんて、なんつー破壊力なのよ……」


 パメラが敵の攻撃力に驚嘆していると<フェンリル>が悠然と闊歩する姿が目に入る。


『さすがの<グランディーネ>でもオーディンストライクを防ぎきることは出来ませんでしたね。どんなに強固な盾でもピンポイントでダメージを受け続ければいつか砕けるということです。――パメラさん、もうあなたには私をどうこう出来る攻撃力も防御力も無いはずです。投降をお勧めします』


「…………」


『あなたは勇敢に戦いました。ここで負けを認めたとしても、誰もあなたを責めたりはしませんよ。それに本音を言わせてもらえれば、私はあなた達とは戦いたくはありませんでした。だってそうでしょう。私たち転生者はあなた方、竜機兵チームを主人公としたゲームをしていたのですから。当然思い入れがあるんです。だからこそ死なせたくない。投降してください』


「ロキ……あんた優しいんだね。何度も拳を重ねてみたから何となく分かるよ。今のあんたの言葉に嘘はないんだって。――でもね、投降はしないよ。だって私と<グランディーネ>は『聖竜部隊』の盾なんだから。仲間を守るべき盾が真っ先に敵から逃げてどうすんのさ。もし私が投降したとしても、あんたの言うように皆は私を責めないだろうね。けどさ、私はそういう決断をした自分を絶対に許せない。だから私はここで踏ん張って戦い通す。仲間のためにも、そして自分がこれから先しっかり顔を上げて歩って行くためにもね!」


 パメラの目には微塵の迷いもない。そんな少女の決心を目の当たりにしたロキは全身に電気が走ったような感銘を受けるのであった。


『パメラさん、私はね気品のある女性が好きなんです。だから色んなゲームで作成したアバターは全てそういう女性像をイメージして作り上げてきました。この『竜機大戦』も例外ではなく、このロキと言うアバターも気品ある淑女として作ったんです。そして、私はクリスティーナ姫やフレイアさんのような強く気高い女性がお気に入りでした。――でも、今目の前にいるあなたは彼女たちにも負けないほどの気高さを持っている。本当に素敵です』


「へぇ~、私の魅力に気が付くなんて中々お目が高いじゃない。うちの部隊の男連中にあんたの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ。――さてと、それじゃ決着をつけるとしますかね」


 パメラが気合いと共に『再生』のバトルスキルを使用すると、満身創痍であった<グランディーネ>の身体が元の状態に戻っていく。

 しかし、破損していたエーテルシールドはその対象ではなく盾としての機能を果たせない状態のままであった。

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