第120話 グランディーネVSフェンリル①
竜機兵チームと転生者部隊の総力戦が始まり数分が経過していた。
黄色がかった薄い灰色の砂上に山吹色の竜機兵が佇んでいる。その重厚な装甲の至る所に鋭い刃物で斬られ突かれた傷が見られる。
その傷だらけの巨人の目の前には、ブルーグレー色の装甲に身を包む装機兵<フェンリル>が右手にエーテルグングニルを構え立ちはだかっていた。
<フェンリル>の操者ロキは、幾重にもダメージを受けてなお戦意を失わない山吹色の機体<グランディーネ>のタフさに呆れと驚きを感じていた。
『呆れるほどの頑丈さですね。エーテルグングニルで何度もダメージを与えているはずですが、まだやりますか?』
「あったりまえでしょ。勝負はまだ始まったばかり。これから私の華麗な反撃ショーが開始されるんだからお見逃しなく!」
<グランディーネ>の操者パメラはアニメの次回予告調に明るく振る舞うが内心では焦りまくっていた。
(やっべー、まじやっべー。この変態女やっぱりすんごい強いじゃん。左腕の爪がハルトに壊されて攻撃力が半減してるのに、この攻撃力はかなりヤバい。おまけに動きが速すぎてこっちの攻撃は空振りばかりだし)
<フェンリル>が一歩近づくと<グランディーネ>は一歩下がる。
後ずさりを繰り返しているとパメラは突然機体が動かなくなるのを感じ、足元を見た瞬間ギョッとするのであった。
<グランディーネ>の脚が砂に飲み込まれていく様子がモニターに映っていたのである。
「これってもしかして……流砂!? うっそー、ちょっ、ちょま、やばばばばばばばばっ!!」
あたふたしながら流砂に沈んで行く大地の竜機兵を遠くから見ながらロキは呆れ果てていた。
『……あなた何をやっているんですか。情けなさすぎて言葉が出ませんよ』
「ちょっとぉぉぉぉぉ。そんな所で高みの見物なんてしてないで私を助けてぇぇぇぇぇぇ! 正々堂々と拳で語り合うのが私たちの流儀でしょう!?」
『いや……私は拳使わないから。使うの槍とか爪だから』
「この薄情者ォォォォォォォォォォォ。この恨み晴らさでおくべきかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パメラは呪いの言葉を叫びながら流砂に飲み込まれていった。
砂漠の中に消えた<グランディーネ>を見送ったロキはコックピット内で合掌するのであった。
『完全な自業自得なのに恨み言を言われるのは少々納得行きませんが、安らかに成仏してください。――さて、それではノイシュの所へでも加勢に行きましょうか。相手はあの<ヴァンフレア>ですからね』
それと同時にロキの耳に恐ろしい声が聞こえて来た。
「こ~の~う~ら~み~は~ら~さ~で~お~く~べ~き~か~!」
『な、何なのこの、おどろおどろしい女の声は。……もしかして幽霊? いやぁぁぁぁぁぁ、お化け怖い!』
ロキが恐怖に怯えていると、<フェンリル>の両脚を掴まえている二つの腕が視界に入る。
すると足元の砂漠の一部が盛り上がり、二つの緑色の光が真っすぐに自分を見つめているのに気が付く。
『ぎゃああああああああああ! 出た、出た、出た、出た、お化け出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
コックピット内でロキがパニックに陥っていると、<フェンリル>の後側にて砂漠の中から巨大な何かが砂柱を上げて出現した。
両脚を掴んでいた腕は、今度は<フェンリル>を羽交い絞めにして動きを封じる。
ロキが恐る恐る後ろを確認すると、そこには流砂に飲まれたはずの<グランディーネ>が緑色のデュアルアイを妖しく輝かせながら立っていた。
『え、え、<グランディーネ>? さっき流砂に飲まれたはずじゃ――』
「ふっふっふっふっ、――計画通り!」
得意げに笑う少女の声が<フェンリル>のコックピット内に聞こえて来る。それは先程恨み節を吐いたパメラの声であった。
満足そうな笑い声に続いてモニターには不敵な笑みのピンク髪の少女が映っている。
「へへんっ、残念だったわね。<グランディーネ>は大地属性の竜機兵――砂漠の中を移動するなんてお茶の子さいさいなのよね。いやー、我ながら会心の演技だったわ」
『まさか最初から……流砂に飲まれたのもわざとだったというの?』
「まあねー。普通に戦っても中々攻撃が当たらないからね。名付けて、『当たらぬなら油断を誘おうホトトギス』作戦よ! なーんてねっ」
モニター越しに満面の笑みでダブルピースをするパメラを見て、ロキは幽霊で無かったことに秘かに安堵しつつ、その用意周到さに舌を巻いていた。
(彼女を甘く見すぎていた。まさかこんな作戦を練っていたなんて)
「さあて、それじゃあ有言実行と行きますかー。華麗なる反撃ショーの始まりよ!」
パメラは<グランディーネ>の両腕を敵の腰に回すと、自機の腰を反らせながら敵を持ち上げた。
機体を持ち上げられ後方に倒れて行く感覚を受けてロキは必死に抗う。
しかし腰をがっちり固定された状況では逃げることもままならず、そのまま<フェンリル>は後方に反り投げられ頭から砂漠の大地に落とされるのであった。
『ちょ、ちょっと待ちなさい。これってジャーマンスープレックス!? これ、本気で危ないやつ。ちょ、ああああああああああああああ!!』
砂の大地に「ズドン!」と大きな音が響き渡り、<フェンリル>の頭部が砂漠に突き刺さり、大股開きのままゆっくり仰向けに倒れた。
「あらあらあら、人前でそんなお恥ずかしいカッコで横になるなんて淑女としてどうなのかしら……ってことで追撃のインパクトナックル!」
『なんのっ!』
<フェンリル>はすぐさま距離を取って<グランディーネ>の打撃をぎりぎりで回避した。
獲物を逃がしたパンチは空振りに終わり、インパクトナックルの衝撃波によって砂柱が発生し山吹色の竜機兵を包み込んだ。
「また躱されたか。本当にすばしっこいヤツ!」
『あなたは真剣勝負において悪ふざけが過ぎるようですね。神聖な戦いを侮辱するような輩は私が許しません。徹底的に叩き潰してあげます!』
<フェンリル>はエーテルグングニルを前面に突き出しながら<グランディーネ>目がけて走り出す。
一方の<グランディーネ>は大地に拳を突き立てたままその場から動く気配が無い。
『次の挙動が遅すぎます。口ばかりではなく手を動かす努力をすべきでしたね』
「――そうだね。軽口を叩くのはここまで。こっからはマジで行かせてもらうよ!」
<フェンリル>が眼前まで接近した時だった。真下から黒い球体が突如現れ、その腹部に直撃した。
コックピットに強い衝撃が走る中、ロキはその黒い物体の姿を捉え目を見開く。
『かはっ。これ……は……、チェーンハンマー。――まさか!?』
球体と繋がる鎖の部分が砂の中から姿を現す。その鎖の先にいるのは山吹色の巨人だ。地面に打ちつけていた手に握っているのはチェーンハンマーの柄であった。
「この攻撃が本命よ。――食らえっ、ミョルニルハンマァァァァァァァァァァァァ!!」
<フェンリル>の腹部を捉えていた棘付きの球体が、パメラの叫びに呼応し高速回転を始めて敵を弾き飛ばす。
「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
<グランディーネ>は鎖を持ってハンマーをぶん回し、空中できりもみしていた敵機に再び直撃させそのまま地面に叩き付けるのであった。
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