第119話 ヴァンフレアVSドゥルガー③ 決着

『くそっ、隠し腕と武器が二本もやられた。いったいどれが……嘘でしょ。アブソーブソードが破壊された!? これじゃ、エネルギーが吸収できないじゃん。もう最悪、ついてな――』


 そう言いかけてからノイシュは先の攻撃を思い出し青ざめた。


『ちょっと待ってよ。あいつ、こっちが防御しているのにお構いなしに攻撃を続けてた。もしかしてあいつの狙いは最初から――』


「これであの緑色の剣を使ったエーテルの吸収は不可能になったな。それと同時に使用時にエーテルを大量消費するブラッディソードを多用することも出来なくなった訳だ。そう言えばその槍もそれなりにエーテルを消耗するはず。これで長時間戦闘は出来ないだろう」


『……やってくれるじゃない。けど、そっちだって術式兵装やスキルを連続で使用してマナがもう少ないんじゃない? 条件が悪いのはあんたの方よ』


 ノイシュは顔をこわばらせながらも自分の勝利を確信していた。強力な武器を湯水のように使えなくなっただけで機体のダメージは大したことが無い。

 一方、<ヴァンフレア>はHPやEPは徐々に回復しても、操者のマナが少なければ術式兵装は使用できない。

 そう思いつつ、再度<ヴァンフレア>とフレイアのステータスをモニターに表示し目を通すとノイシュは自分の目を疑った。



【フレイア・ベルジュ】  

年齢:18歳  性別:女

Lv:45   

近接攻撃:311  遠距離攻撃:268  防御:270  反応:292

技術:281  マナ:145/290(回復中)

【バトルスキル】

勤勉  抹殺  蹂躙  超反応

【パッシブスキル】

免許皆伝  インファイター(Lv6)  鍔迫り合い  負けん気  マナ回復   エース



『何よ……これ。マナが少しずつ回復してる……って、いつの間にか『マナ回復』を習得してるし。それにレベルが四十五に上がってる。会敵時は四十だったのにどうしてレベルが五も上がってるのよ。バグってんの!?』


 ノイシュは何度もフレイアのステータスを見直すが、その表示が変わることは無い。唯一、マナが徐々に回復しているのが確認出来るのみだった。


「別に何も不思議なことは無いさ。対戦相手のレベルが高かったから、戦いの中で得た経験値で私のレベルが上がっていった。ただそれだけのことだ」


『私と戦ってリアルタイムにレベルを上昇させたって言うの。……そうか、最初からそれを狙って積極的に攻めて来てたのね。そうすれば戦闘経験値が手に入るから』


「ご明察だ。もう少しでパッシブスキル『マナ回復』を習得出来そうだったのでな。レベルが四十五に至り、無事に目的が達成できた。――礼を言うぞ」


『こっんの、ざけんじゃないわよ。私を踏み台にするなんていい度胸じゃない。こうなりゃ、ブラッディソードの連続攻撃で斬り刻んでやる。攻撃力はこっちが圧倒してんのよ!!』


 <ドゥルガー>の背部アームが稼働し機体前面にてブラッディソードを構える。

 防御の上からでも確実にダメージを与える赤い剣を前にして、フレイアはこの戦いが終局に入ったことを悟った。


「確かにその赤い剣の攻撃力は圧倒的だ。だからこそ、こちらも切り札を使わせてもらう。マナを回復することが出来るようになった今なら気兼ねなく使える!」


 フレイアはエーテルソードをストレージに戻し丸腰になる。それと同時に<ヴァンフレア>の全エナジスタルが発光し、機体を赤いオーラが包み込んだ。

 これまでの戦いでは見せたことのない敵の行動と放たれるプレッシャーを前にして、ノイシュは迂闊に近づくのは危険だと判断した。


『なんなのよ、このエーテルの圧は。術式兵装で勝負をつける気!?』


 <ヴァンフレア>の足元から火柱が発生し、フレイアは躊躇せずに両手を炎の中に入れた。

 そして、その中から何かを取り出すと同時に、火柱は周囲に火の粉をまき散らしながら四散する。

 その一部始終を見ていたノイシュは<ヴァンフレア>が装備した物に見入っていた。


『なに……あれ。二本の剣? 綺麗――』


 それは二振りの片刃の剣だった。見た目はエーテルソードに酷似しており、白銀の刀身が陽光を反射し輝いている。

 その輝く刀身からは赤色のエーテルがオーラのように立ち上り、剣を振う度に炎の斬撃の軌跡が見て取れる。


「よし、マテリアライズ終了。ドラゴニックウェポン……エーテルカンショウ、エーテルバクヤ装備完了。――決着をつけるぞ!」


『ドラゴニックウェポン? 何よそれ、そんなのゲームには無かったわ!』


 フレイアは動揺するノイシュを他所に二刀一対の剣を構えて戦意を高めていく。


「お前も本当は分かっているはずだ。これはゲームではなく、現実なのだと。――だからこそお前も私も、こうして必死に戦っているんだ。生き残る為に……仲間と共に生きて行く為に!」


『っ!! ほんっとうにムカつくわ、あんた。――どうしてそこまで真っすぐに生きられるのよ』


「馬鹿だからさ。――行くぞ!!」


『上等よ、フレイア!!』


 深紅と漆黒の装機兵が同時攻撃を開始した。<ヴァンフレア>は二振りの剣を交差させ、攻防一体の構えを取る。

 <ドゥルガー>は最大火力であるブラッディソードで押し切る戦法を取った。


(攻撃手段をブラッディソードに限定すれば、あと三回は使える。これで潰す!)


『まずは一発目。食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


 赤い刀身から放たれる斬撃波が<ヴァンフレア>を襲うが、それを二刀一対の剣が受け止めた。


『うそっ、受け止めた。さっきはダメージを与えたのに!?』


「その剣の斬撃波は強力なエーテルの塊。――ならば、それと同等以上のエーテルで相殺出来る。今度は私の番だ!」


 エーテルカンショウとエーテルバクヤの刀身が炎の刃と化し、<ドゥルガー>に十字斬りを放つが寸前でノイシュは躱した。


『どんな強力な武器でも当たらなければ意味がないってね』


「その意見には同感だ。ただし、躱せたらの話だがな」


 フレイアの意味深な発言の直後、<ドゥルガー>の脚部パーツの一部が砂の上に焼け落ちた。

 機体の動作には影響は無かったものの、完全に回避したはずの攻撃が僅かに当たっていた事実にノイシュは恐怖を覚えるのであった。

 その間にフレイアは再び間合いに入り次の攻撃を開始する。


『くっ、攻撃速度が予想以上に速い。回避しきれない……防御しないと!』


「そこだっ!」


 <ヴァンフレア>の二刀の斬撃に対し、<ドゥルガー>は両手のエーテルカタールとブラッディソードで受け止めた。

 鍔迫り合いの後二機は距離を取り、各々の操者は次の一撃で勝敗が決まると確信していた。

 フレイアはマナ回復があるもののドラゴニックウェポンの連続使用でマナの消耗が激しく、ノイシュはブラッディソードを使用できるのが残り一回のみ。

 お互いに次の一撃に全てを賭けるしかなかったのである。


『もう<ドゥルガー>にはエネルギーが無い。次の一撃で絶対に倒してやる!』


 先に動いたのはノイシュの方であった。ブラッディソードの刀身を赤く光らせながら、深紅の竜機兵に止めを刺そうと前進してくる。

 一方のフレイアはその場から動かずに最後の攻撃の準備をしていた。

 刀身が炎に包まれたエーテルカンショウとエーテルバクヤを合わせて一振りの巨大な炎刃と成し、迫りくる敵目がけて<ヴァンフレア>が突撃を開始した。

 

『これが正真正銘、最後の一撃。沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


「これで決める。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、――ケツァルコアトル!!」


 二つの赤い刃がぶつかり合い、衝撃で周囲に砂塵が巻き起こる。

 砂嵐の中心にいる二機は互いの武器から放たれるエーテルの余波によって徐々にダメージを負っていく。

 装甲は傷つき表面が溶けていく。互角に見えた刃のぶつかり合いは少しずつ均衡が崩れていった。

 そして、灼熱の炎の刃が赤い斬撃波を押しのけ黒い装機兵を焼き払った。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


『きゃああああああああああああああ!!』


 ノイシュの叫びと共に<ドゥルガー>の黒い装甲が砕け散り元の黄色い状態へと戻っていく。

 四本あった隠し腕は全て破壊され、戦いの女神の名を冠した装機兵は両膝をつき機能を停止した。

 <ヴァンフレア>も満身創痍で、その場で片膝をつき動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ~。私の勝ちと言いたいところだが、これは相打ちだな。しばらく動けなさそうだ」


『よく言うわよ。ほとんどそっちの勝利でしょ。――あーあ、まさか格下と思っていた相手に負けるなんてね。本当に思い通りにならないことばっかりよ』


「そんなものだろう。世の中は世知辛く出来ているものだからな」


 戦いを終えて二人はコックピット越しに空を眺めていた。青い空の中を鳥の群れが飛び去って行くのが見える。


『自分が転生者だと自覚するようになってから、初めて空をちゃんと見た気がする。――空ってこんなに青くて広かったのね。何だか自分がちっぽけな存在に思えてきた。自分の悩みも何もかも含めて……ね』


「世界の広さに比べれば、人間はちっぽけな存在なのだろうな。でも、それでも私たちは生きている。生きているからには精一杯生きなければならない。私はそう思っている」


『そっかぁ。――――私も頑張ってみようかな。こうなったら腹をくくってこの世界でやってみるか!』


 こうして<ヴァンフレア>と<ドゥルガー>の戦いは相討ちという形で幕を閉じた。


 ――そして、次の戦いの舞台は竜機兵チーム最強の盾<グランディーネ>と転生者部隊の女傑ロキの操る<フェンリル>戦へと移行するのであった。

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