第118話 ヴァンフレアVSドゥルガー②
瞬く間に異形の怪物へと姿を変えた<ドゥルガー>を前にしてフレイアは冷静だった。
それは予め敵の能力についてハルトから説明を受けていたからである。
「あれが<ドゥルガー>に秘められた二つの能力か。背部に設置してある四基のアームパーツを稼働させ、合計六本の腕に武器を装備する〝シックスアームズ〟。そして、操者の戦意が極限まで高まった時に発動し、機体を黒色に変化パワーアップさせる〝カーリーモード〟。今の私にあれの相手が務まるか? いや……やって見せる。私と<ヴァンフレア>ならばやれるはずだ!」
フレイアは<ドゥルガー>の周囲を回るようにして敵の出方を探った。
ノイシュはカーリーモードを発動させた影響で、怒り心頭の状態になり自分の周りを動き回る敵機が忌まわしくてしょうがなかった。
『ああ~、ちょこまかちょこまかとウザったい! そっちが来ないならこっちから行ってやる』
<ヴァンフレア>が後ろ側に来た時を見計らって、ノイシュは<ドゥルガー>をそのままの体勢で後ろにジャンプさせる。
背部を晒したまま敵に接近するのは本来ならば悪手以外の何ものでもないが、この機体の場合は勝手が違っていた。
「なん……だ。背中を向けたまま近づいてくるだと?」
敵の行動に一瞬動きを止めるフレイアだったが、敵機体の特性を思い出し即座に二本のエーテルソードを構える。
<ドゥルガー>背部の四本腕が生き物のように動き出し、把持した武器で<ヴァンフレア>目がけて攻撃を開始した。
二本装備している三又の槍――エーテルトリシューラで串刺しに来たのを剣でいなしつつ、<ヴァンフレア>は敵の側面に回る。
「真横からならばっ!」
フレイアの剣の一撃をノイシュは緑色の両刃の剣で受け止め、エーテルカタールで斬りつける。
『その程度でシックスアームズの攻撃を抜けるわけないじゃん。返り討ちよ!』
咄嗟にバックステップしたことで、その攻撃は<ヴァンフレア>の胸部装甲をかすめる程度に止まった。
「くっ、こちらの予想より隠し腕のリーチや動きが速い。――ん?」
フレイアがモニターに表示されている<ヴァンフレア>のステータスバーを見ると、機体のエネルギーであるEPが低下していることに気が付く。
(どういうことだ。私はエーテルを消耗するような攻撃はしていないぞ。それなのにどうして?)
『何をボケっとしてんのよ。今度はこっちが攻める番よ』
不可思議な状況によって動揺する中、接近してきた<ドゥルガー>の赤い剣が<ヴァンフレア>を襲う。
エーテルソードを交差させて防御に徹するが、赤い刀身から放たれた斬撃波は防御の上から深紅の装甲を斬り刻んだ。
「なっ、何だと。うああああああああああ!!」
斬り飛ばされた深紅の竜機兵は後方の砂だまりに衝突し、大量の砂を全身に被りながら倒れてしまう。
その姿を見てノイシュは自分の勝利を確信し満面の笑みを見せていた。
『ぷっはははははははははは! 無様な姿ね。所詮、クソ雑魚主人公機は誰が乗ってもクソ雑魚なのよ。――このままバラバラに斬り刻んで頭部パーツを切り離して他の連中に見せてやろうかしら。そうすればあのハルトってムカつく転生者も驚くでしょうねぇ』
ノイシュは砂に埋もれた<ヴァンフレア>に接近し、エーテルトリシューラやエーテルカタール、緑色の剣で追撃に掛かった。
フレイアはエーテルスラスターで砂を吹き飛ばすと、倒れたまま地面を横に転がり敵の攻撃を回避する。
『逃がすかっ。大人しく串刺しになりなさい』
「くっ、そうは……いくかぁ!!」
地面を転がり続ける<ヴァンフレア>を狙った<ドゥルガー>の攻撃は、ぎりぎりで避けられ地面に当たる。
その最中<ヴァンフレア>の背部のマントが切り離され、攻撃をしていた<ドゥルガー>に被さると爆発炎上した。
『くぅぅぅぅぅぅ、何よこれ。マントが炎に!?』
「エーテルマントにはこういう使い方もある」
不意の攻撃を受けて敵がよろけている隙に、フレイアは機体を立ち上がらせ体勢を整える。
そしてこれまでの戦いを思い返していた。
(考えろ。ハルトから各装機兵や武器について教わったはずだ。<ヴァンフレア>のEPが下がった原因、あの赤い剣の攻撃力。その正体が分かれば突破口になるかもしれない。――考えて、作戦を組み立てろ。ステータスで負けている私が勝つには敵の虚を突くしかない)
<ドゥルガー>を覆っていた炎は間もなく消え去り、黒いボディが黒煙から姿を現した。
『あんな炎で<ドゥルガー>がやられるわけがないでしょう。今度こそ止めを刺してやるわ!』
五つの武器を前面に展開しながら黒い装機兵が向かってくる。そこにフレイアは違和感を覚えた。
「さっきの赤い剣だけ引っ込めただと。何故だ? あの剣は術式兵装クラスの威力があったはずだ。それをどうして……あ」
その時フレイアはハルトから聞いた武器の話を思い出した。ゲームに登場する武器の中でも特殊な部類の剣の話だ。
EP消費が激しいが非常に強力な赤い剣〝ブラッディソード〟。そしてその赤い剣によるマイナスポイントを補う能力のある緑色の剣の話だった。
「そうだ。思い出したぞ。――それならば!」
フレイアは敵の攻撃を躱して見せるが、緑色の剣の攻撃は敢えてエーテルソードで受け流した。
一旦距離を取って次の攻撃に備える。フレイアが機体のEPを確認すると、思った通りにエネルギーが減っているのが確認できた。
そして、モニターに表示されているもう一種類のステータス。――操者である自分のステータスを確認する。
(あの機体の武器性能は分かった。後はどうやって倒すかだが。――賭けてみるか。<ヴァンフレア>はEP回復のアビリティでエーテルが枯渇することは無い。後は私次第でアレを存分に使用出来るようになる。次の一撃でこの劣勢を覆す!)
フレイアは二本のエーテルソードの柄頭を接続し薙刀形態にすると、それを左手で持った。
そして素手になった右腕に炎のエーテルを集中し、機体の色と同様の深紅の炎を纏う。
右手の指は真っすぐに伸ばし
『それは確か――。一か八かの必殺技で逆転するつもり? 考えが甘いのよ。これで終わらせる!』
ノイシュの怒りの叫びに応じ、黒き<ドゥルガー>が赤い剣を突き出し正面から突撃してくる。フレイアは敵の動きをよく見てから前に出た。
(予想通りにブラッディソードを使う気だな。――ここが勝負どころだ!)
『落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
<ドゥルガー>の赤い刀身から斬撃波が放たれる。フレイアはバトルスキル『超反応』を使用して反応速度を上げ、上空に跳んで攻撃を回避した。
渾身の一撃を躱されたノイシュは舌打ちをしながら、上から襲い掛かって来る深紅の竜機兵を迎え撃つ。
フレイアは<ヴァンフレア>の右腕に更にエーテルを込めて渾身の一撃を放った。
「狙いは一点のみ。行くぞ、エクスプロードスマッシュ!!」
<ヴァンフレア>の炎の貫手は<ドゥルガー>の武器に防御されて本体には届かなかった。
しかし攻撃の手は緩まず、絶大なパワーで敵機を砂の地面に押し込めていく。
『何なのよ、このパワーは!? 何であんたは諦めないのよ』
「あいつが……ハルトがずっと頑張っているのに、私が早々に諦めるわけにはいかない。それが数ヶ月間、戦場であいつの女房役を務めてきた私の意地だ。――成敗!!」
フレイアの裁きの一言が放たれると、術式兵装エクスプロードスマッシュはその名の通りに炎の爆発を発生させ<ドゥルガー>の武器と背部アームを破壊した。
その衝撃はコックピットに伝わりノイシュにプレッシャーを与え、攻撃を終えたフレイアは敵から離れた場所に機体を不時着させるのであった。
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