第115話 武士が動く時
再び二つのチームの間に緊張が走る。俺とロキの戦いを観察して互いの戦力に対し、ある程度の予測が立った。
ここからはチーム戦に移行する。俺は仲間の一人一人と目を合わせ、全員が戦闘準備を整えた。
敵の動きに注意していると隊長機である<モノノフ>が前に出て、武器をストレージから取り出した。
やたらと柄が長い武器だ。
ゲームや漫画、小説、プラモデル、それら全ての媒体に出て来る武器なら一通り知っているはずだが、あんなのあったか?
それともドラゴニックウェポンのように、この転生世界が初出の武器なのだろうか。そう思う一方で、よくよく見ると何処かで見たような気もする。
『そちらの実力は大体理解した。ここからは総力戦。――この一撃をその狼煙とさせてもらおう』
<モノノフ>の操者ジンから再び異常なプレッシャーが向けられる。さっきまでの緩んだ雰囲気が一変し周囲が凍り付いたような感覚。
武者の如き装機兵が単機で俺たちに向かってくる。チームバトルをするのなら集団で一斉攻撃をするのがセオリーなのにどうして一機で向かってくるんだ。
敵の不可解な行動が疑問を抱かせ、疑問が不安を煽り、不安が死の臭いを運んでくる。
このままでは危険だと俺の直感が告げている。この直感が俺の意識をあの武器に向かわせる。
思い出せ、思い出せ、思い出せ。――――そうだ、思い……出した。あの武器は!
「全機全力で後退! 絶対にヤツの正面に立つな! 一撃でやられるぞ!!」
『了解!!』
俺の怒号の如き命令を受け、竜機兵チームの全機がこの場から急速離脱を開始する。
しかし、慣れない砂漠地帯に加え移動速度の低い<グランディーネ>と<ドラタンク>が遅れる。
「パメラ、フレイ!!」
『私等は大丈夫。スキルで何とかする。ハルトは離れて!』
その直後、コックピットに強烈な衝撃が走った。モニターには画面一杯に砂嵐の映像が映る。
何の前触れもなく発生した砂塵の暴走に背筋が凍る。視界もエーテルレーダーも通信も効かず仲間の安否が確認できない。
機体は突風に吹き飛ばされはしたがダメージは無く、砂上に着地した。それから間もなくして砂嵐も止みモニター映像がクリアになる。
そこに映ったのは信じられない光景だった。
さっきまで俺たちが立っていた場所が、まるでモーゼの十戒に出て来る海割りのように真っ二つに斬り裂かれていた。
砂漠に刻まれた斬撃の痕はクレバスのようになっていて底が見えない。
無理やり左右に分かたれた砂漠が元の形に戻ろうとクレバスの中に入っていくが、その裂け目が埋まる気配は無い。
あれが直撃していたらと思うとゾッとする。
「そうだ、皆は無事か!?」
周囲を確認すると、<ヴァンフレア>、<アクアヴェイル>、<シルフィード>の三機が砂埃の中で立ち上がる姿が見えた。
すぐにモニターで三人の安否を確認し、特に怪我はしていないと分かった。けれど、逃げ遅れたパメラとフレイの姿がない。
「パメラーーーー! フレーーーーーイ! いるんだろ、早く出て来いよ!!」
力の限り二人の名前を呼ぶが応答がない。クリスティーナたちも二人の姿を捜すが<グランディーネ>と<ドラタンク>の姿は見当たらなかった。
こうなると考えられるのは、あのクレバスの中だ。つまりそれは二機ともあの並外れた攻撃をまともに受けたということになり、最悪の結末が俺たちの脳裏をよぎる。
『僕があの裂け目に入って様子を見て来る』
「でも――」
『もし二機の残骸があれば報告する。今はそれしかできない』
「――すまない。頼んだよ、シオン」
シオンが俺を気遣っていることが痛いほど伝わる。俺が<グランディーネ>と<ドラタンク>の凄惨な姿を目の当たりにすれば、ショックが大きいと考えたのだろう。
だから自分から進んで辛い役を買って出たのだ。
『では行ってく――』
<シルフィード>が浮上を開始した瞬間、砂漠の中から出てきた腕がその脚を掴んだ。
突然の出来事に驚いたシオンが機体を急浮上させると、その腕の主が砂漠の中から姿を現す。
山吹色のマッシブな外観に加え両腕に巨大な盾を装備している機体だった。もう片方の腕の先には戦車の下半身を持つ機体が砂の中から出てくる姿が見える。
『ちょっとぉ、勝手に殺さないでくれる?』
『俺たちは健在だ。砂漠に埋もれていてエーテル通信が遮断されていたみたいだ』
パメラとフレイは無事だった。二機とも特に損傷はないようだ。あれだけの攻撃を受けて全機がノーダメージで健在だったのは奇跡と言えるだろう。
「よくあのタイミングで無事だったな」
『だからスキルで何とかするって言ったっしょ。私は『絶対防御』と『竜鱗』の合わせ技で防御を固めて、フレイは『完全回避』で難を逃れたわけ』
『そうは言っても動きが鈍重な<ドラタンク>ではどうなるか分からなかったから、パメラが盾になってくれていたんだ。ありがとうな、パメラ』
フレイの礼に対しパメラは屈託のない笑顔で答える。安堵の雰囲気が広がる竜機兵チームの全員だったが、目の前に広がる光景を目の当たりにして表情がこわばる。
そして、俺たちは砂漠を割った張本人へ視線を集中させた。
――東方イシス大陸の国『ワシュウ』製の装機兵<モノノフ>。その鎧武者のような機体は一振りの巨大な剣を携えていた。
刀身だけで並の装機兵一機分の全高を越える長さがある。俺の記憶が確かなら設定では二十メートル程度の大きさだったはずだ。
フレイアはそのバカでかい剣を見て冷や汗を流していた。剣に精通している彼女だからこそ、あの武器の異常性がよく分かるのだろう。
『あのような大剣の一撃をもらえばどんな装機兵も無事では済まないな。それにただ大きいだけじゃない。使い手にも劣らない異様な圧を感じる』
<モノノフ>はその大剣を右腕一本で持ち上げ肩に担いで見せる。俺はそれを見てあの機体に乗っている操者が只者ではないと悟った。
装機兵の多種多様な武器の中には一定条件を満たさなければ装備できない物がある。強力な武器であればあるほど求められる条件の難易度は上がる。
そう言う目線で考えれば、武器ではないが<サイフィード>の操者に求められる条件として〝マナ350以上〟というものがあったのも納得だ。
そして、あの大剣は恐らくドラゴニックウェポンに匹敵するようなチートクラスの武器に分類されるだろう。
サイズや性能から考えてあの武器を扱うには操者に400前後の
アバターを近接攻撃重視で育成していった場合、他のステータスとのバランスを考えてレベルは七十五前後と推測される。
ゲームの開発会社で認められていたトップレベルのアバターに匹敵する強さだろう。
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