第116話 斬竜刀ハバキリ
空で戦況を見守っている<ニーズヘッグ>からティリアリアがエーテル通信を繋げてきた。
砂嵐が消え大気中のエーテルが安定したことで通信が復活したようだ。
『皆無事で良かったぁ。今の砂嵐はあの物々しい姿の装機兵がやったのよね。ハルトはあの武器を知っているの?』
「ああ。今の今まで忘れていたけど、ぎりぎりで思い出した。連中は中々マニアックな武器を持ち出してきたよ。――あの大剣の名前は〝斬竜刀ハバキリ〟と言って、厳密に言うと『竜機大戦』公式の武器じゃない。模型雑誌との企画で付録になっていた武器だったんだ。俺としたことがすっかり忘れてたよ」
斬竜刀ハバキリについては詳細な設定は無い。デカくてかっこいい片刃の剣である事実のみ。以上。
<モノノフ>から外部スピーカーによって操者であるジンの声が聞こえてきた。
『斬竜刀を初見で見切るとは大したものだな。ハルトだったか……お前はこの剣を知っていたのか?』
「まあね。模型雑誌の付録だよな。俺がハバキリの存在に気付いた時には雑誌は売り切れていてさ、手に入らなかったんだよね。あれは悔しかったなー」
『そうか。それは残念だったな。――ふっ。ちなみに、俺はちゃんと手に入れたぞ』
こいつ……! 今鼻で笑ったぞ。おまけにドヤりやがった。腹立つわぁ。
俺が苛ついていると<モノノフ>は肩に担いでいた斬竜刀を持ち上げ、片手で把持したまま剣の切っ先を俺たちに向けてきた。
『先程放った一撃は挨拶がわりにすぎん。今度は本気で当てていく。この斬竜刀ハバキリの威力――身を持って体験してもらおう』
闘気を漲らせる鎧武者の周りに敵の仲間たちが集合する。
俺との戦いでダメージを負っていた<フェンリル>を淡い光が包むと損傷していた装甲が修復され戦闘前の状態に戻る。
恐らくバトルスキルの『再生』を使用したのだろう。優先して取得するようなスキルではないので、ロキは豊富な数のバトルスキルを習得していることが窺える。
大破していた左前腕部はさすがに元通りにとはいかなかったが、それでも厄介な相手であることには変わりない。
<モノノフ>を中心に据えて身構える、転生者により構成された装機兵部隊。いよいよ全員でかかって来る気のようだ。
その殺気に反応した皆も各々武器を構えて敵に対峙する。俺はどの敵に誰を当てるか割り振りをしていた。
「パメラは<フェンリル>を頼む。機体の耐久値は回復したみたいだけど、左腕の爪は壊れたままだ。その分攻撃力は低下している。エーテルグングニルはかなり強力な武器だから、それに注意してくれ。動きの速い相手だが<グランディーネ>のパワーならやれるはずだ。頼んだぞ」
『合点承知。パメラさんにまっかせなさい!』
「次はフレイアだ。あの黄色い機体<ドゥルガー>を担当して欲しい。さっき説明したが、ヤツは背部に四本の隠し腕を持っている。つまり合計六本の腕に武器を持って戦うはず。それに加えて肩には遠距離武器であるエーテルチャクラムまで搭載している。攻撃力が高い機体だが、<ヴァンフレア>も攻撃力に優れた機体だ。フレイアの剣技が発揮されれば押し切れる」
『任せておけ。竜機兵チームの斬り込み隊長としての役目を果たす』
「最後はシオン、クリス、フレイの三人で二機の<ハヌマーン>を抑えてくれ」
するとシオンが反応した。俺の物言いに引っかかるところがあったらしい。
『〝抑える〟とは随分と控えめな表現だな。あの二機は会敵してからずっと逃げ腰だ。それに操者からプレッシャーは特に感じないが。何か思うところがあるのか?』
「ああ。俺がロキと戦っている間、あの二機は適度な距離を保って俺の戦いを観察していた。それも、それぞれ離れて異なる角度から<サイフィード>を見ていたんだ。ただの臆病者の仕事じゃない。それに機体の選択も絶妙だ。<ハヌマーン>の性能は数ある機体の中でも、中の上ぐらいに位置する。突出した能力は無いが、装備する武器や操者の技量次第で色んな活躍が見込める機体だ。――もし、<ハヌマーン>の操者がそれを踏まえた上であの機体をチョイスしていたとしたら、相当手強い相手になるはずだ。二機の連携に注意して戦ってくれ。クリスとフレイはシオンのバックアップを頼んだよ」
『分かりましたわ。<ハヌマーン>二機の動きに注意しつつ対処します』
『任せておけ。<ドラタンク>にはまだ使用していない武装がいくつかあるからな。それで大ダメージを与えてやるさ』
『了解した。油断せずに対処する。――それで、お前はあのバカでかい剣の装機兵と戦うつもりか』
「あの斬竜刀と斬り結ぶには少なくとも、それを扱う操者と同等以上の近接攻撃値が要求される。対応できるのは俺しかいない。――それに純粋にあいつと一騎打ちをしてみたいんだ。悪いな俺の我儘に皆を付き合わせて」
途端にみんなが呆れ顔になり、「はぁ~」と溜息を吐いた。フレイアが皆を代表して、その理由を告げる。
『毎度のことで今更だが、お前はいつも一番の強敵を相手にしてくれている。それに対して、私たちは申し訳ないと思いはすれど我儘だとか思ったことは一度もないよ』
「そうかぁ。皆に不満が無いのなら良かったよ。それじゃ、<モノノフ>は俺が叩く。皆も頼んだぞ。――竜機兵チーム行くぞっ!」
『おうっ!』
俺の出撃命令によって竜機兵チーム全員が行動を開始した。これにより『竜機大戦』の中心的存在であった竜機兵部隊と転生者の部隊がついに全面激突する。
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