第111話 転生者VS転生者

 敵と睨み合いが続く中、突然敵が外部スピーカーで語り掛けてきた。発信元は<モノノフ>か、どうやらあの機体が隊長機のようだ。


『『アルヴィス王国』装機兵全機に告ぐ。今すぐ武装を解除し投降しろ。そうすれば身の安全は保障しよう』


 問答無用で襲い掛かって来ると思ったが、意外な申し出にざわめきが起こる。けれど、それが本意ではないことは明らかだ。

 そもそも和平交渉に応じず、この戦場においても味方に被害が出てからの降伏勧告だ。タイミングがおかしすぎる。


「随分と舐められたもんだな。そんな『とりあえず言ってみました』的な降伏勧告に誰が応じるんだよ。今更人道的なところをアピールでもする気か? 他国に侵略行為を行った時点でそんなものは無い。それが理解できないなら小学校から義務教育をやり直してこい」


『――その物言い。やはり<サイフィード>の操者は転生者と言うことか。同郷のよしみだ。我々はお前を仲間として受け入れる準備がある。同じ転生者同士、地球にいた頃の話に花を咲かせようじゃないか』


 段々と腹が立ってきた。こいつの言葉は表面ばかりで中身が伴っていない。


「自分が転生者だと素直に言ったのは敬意に値する。けどさ、俺たちは既にこのテラガイアという世界の住人だ。転生者だけで仲良くして、その他は構わないなんて考えは俺にはこれっぽっちも無いのでそこんとこよろしく。――それと、そろそろ本音で話せば? 殺気を込めながら仲間になれとかつまらないギャグだから」


 水を打ったように静まり返る敵集団。すると突然女性の笑い声が聞こえて来る。


『あはは、だから言ったじゃん。こんなまどろっこしいやり方なんて意味が無いって。それに、あんな感情のこもっていない言葉じゃ誰も信用しないわよ。大根役者すぎて逆に面白かったわ』


『全くその通りね。そもそもジンに敵の説得なんて不向きだったのよ。何も考えず敵陣に突っ込んで戦う方が性に合ってるのよね』


『――悪かったな、大根で』


 敵のコントのような会話が聞こえてきた。笑っていた女性の声は<ドゥルガー>から、冷静にツッコんでいた女性の声は<フェンリル>からのようだ。

 それと<モノノフ>の操者の名は〝ジン〟と言うらしい。この隙にバトルスキル『鑑定』で敵のステータスを確認してみたが不発に終わった。

 どうやら、転生者の機体と操者のステータスは暴けないみたいだ。実際に戦ってみないと敵の強さは分からないか。


『やっぱり本当に戦うんすか。相手は竜機兵なんすけど……マジっすか?』


『何を弱気になってんだヤマダ。相手が勇者だろうと関係ない。それに連中を倒せば、俺たちが本物の――勇者だ!』


『勇者じゃねーよ、ヒシマ。竜機兵だっつーの、何でもかんでも勇者にするな』


 今度は二機の<ハヌマーン>からヘタレ声の男とやたら熱血な男のコントが聞こえてきた。ヘタレ声が〝ヤマダ〟で熱血男が〝ヒシマ〟のようだ。

 『鑑定』しなくても連中は次から次へと自分たちの情報を提供してくれる。あの転生者集団はバカなのかもしれない。

 俺と同じことを思ったのかクリスティーナが心配そうに俺に話しかけて来る。


『あの、ハルトさん。大変申し上げにくいのですが、転生者の方々は皆あのようにハイテンションと言いますか、緊張感が無いと言いますか……その……』


「クリスの言いたいことは分かったよ。つまり、転生者は皆バカなのかと言いたいんだよね。――もしかしたら、バカかもしれない。俺やシリウスは違うけどね」


 モニターに映る皆が一斉にジト目で俺を見ているが、俺はそんなの気にしない。だって俺バカじゃないし、時々ハイテンションになるけどバカじゃないし。

 シリウスは死んだ魚のような目をしており、その隣にいるメイドのセシルさんからは「おつむがお可哀想なシリウス様」という言葉が聞こえてくる。何かのプレイの最中かもしれないのでそっとしておこう。


 皆の緊張感が緩む中、『ズシン』と大きな音が聞こえ前方に注意が向く。<モノノフ>が足を地面に打ちつける音だった。


『非礼を詫びよう、<サイフィード>の転生者、それに竜機兵の操者たち。お前が言ったように、俺たちは最初から戦うつもりでここに来た。お前たちの命を保証するという言葉に嘘は無いが、その後『アルヴィス王国』の国民がどうなるかは分からない。――国と国民を守りたければ、死ぬ気で戦え!』


 戦国武将を彷彿とさせる<モノノフ>を通して、操者の殺気が俺たちに叩き付けられる。解放されたプレッシャーが重圧となって身体にのしかかって来る。

 並の操者であれば、たちまち恐怖に支配されて戦うどころでは無いだろう。

 しかし、いくつもの死線を潜り抜けてきた俺たちはプレッシャーをはねのけて攻撃準備に入った。


「攻撃開始!」


 俺の合図で竜機兵チームの全機がエレメンタルキャノンを始めとする遠距離攻撃を一斉射する。

 俺は<サイフィード>右肩のアークエナジスタルからワイヤーブレードを引き出し、敵部隊に接近した。

 皆の攻撃で砂埃が舞って視界が遮られ、それが俺に有利に働く。


「先手必勝、これでどうだ」


 砂のカーテンの向こうにいる敵影に向けて、蛇腹状に伸ばしたワイヤーブレードで攻撃する。

 砂ごと横薙ぎにするが、伸ばした刀身は途中で何かに受け止められてしまった。

 砂のカーテンが消失すると<フェンリル>が左腕に装備されている大型の爪で蛇腹状の刃を掴んでいた。


『――ワイヤーブレードですか。威力は高くありませんが、攻撃範囲が広くて使い易いんですよね。私もゲームでは好んで使っていましたよ。この世界でも使用したかったのですけれど、これはドグマでしか開発出来ない武器だったので泣く泣く諦めました』


「そうかい。俺も凄く気に入ってるんで、申し訳ないけどあげないよ」

 

 ワイヤーブレードの各刃間を繋ぐ特殊繊維のワイヤーが収縮し、刃が火花を上げながら<フェンリル>の爪から脱出して元の剣の形状に戻った。


『あら、随分と乱暴な回収の仕方ですね。もっと丁寧に扱ってあげないと武器が泣きますよ』


 <フェンリル>の操者は左腕の爪をわざとらしく開閉しながら艶やかな声で俺を挑発する。

 一度接触したためか回線が繋がり、相手の姿がモニターに映った。

 そこには黒髪ストレートロングの美女がいる。切れ長の目と瑞々しい唇が妖艶さを一層際立たせている。

 身体の上半身が映っているが、中々にご立派な山を二つお持ちのようだ。そんな俺の視線に気が付いた彼女は、「ふふふ」と笑いながら流し目に俺を見ていた。


『どうです、私のアバター〝ロキ・エルム〟は。中々に美人でしょう? かなり気合を入れてキャラメイクしたんですよ。イメージは妖艶な大和撫子、と言ったところでしょうか』


 何だよそのイメージは。「最高じゃないか」という言葉が喉まで上がってきていたが、それを何とか飲み下す。

 そうしなければこの身に災いが降りかかっていただろう。現在進行形で俺の背中に四人の女性の殺気に満ちた視線が突き刺さっているのだ。こえーよー。


「な、なるほどね。確かに大した造形美だな。百点満点中、ほぼ満点の出来だと思います」


『そう言うあなたは五十点以下の出来ですね。まさにモブ・オブ・ザ・モブです。全く印象に残らないので非常に困ります』


「…………」


 くそ、このヤロウ。見た目はともかく中身は最低だ。どうせモブ顔だよ、ちくしょう。元ネタは前世の自分だと言うのは黙っておこう。


『ハルトって、前世の白河そのまんまの姿だよね。初めてアバター見せてもらった時は笑ったなぁ』


「黒山ァァァァァァ、余計なことを言うんじゃない。そっちに戻ったら覚えてろよ、オメー!」


 黒山もといシリウスは「ひいっ」と小さく悲鳴を上げてモニター画面を閉じた。俺は話を聞いてクスクス笑っているロキに向けて突撃を開始するのであった。

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