第110話 情報は強力な武器となる

 俺も皆に後れを取る訳にはいかない。<サイフィード>の左肩のエナジスタルが発光すると、そこからエーテルブレードを取り出し装備する。

 <アヌビス>が放ったエーテルバンデージを剣でいなすと接触部から火花が散った。刀身にエーテルを集中すると刃が光り出し攻撃力が上昇する。

 俺は切れ味が増したエーテルブレードでエーテル帯を切断し、一気に間合いに入ると敵の胴体を横一文字に切断した。

 敵機の上半身が砂の大地に力なく落下し、炎上爆発する。爆風を背に受け<サイフィード>のエーテルマントが激しくはためいた。

 それを見た<アヌビス>たちは、恐怖におののいたように後ずさりしている。次の攻撃に備えて剣を構えていると、連中は突然後方に退却していった。


 呆気ない戦いの幕引きに皆は暴れたりなさそうであったが、それにしても退くのが早すぎる。

 俺が敵の行動を訝しんでいるとモニターにティリアリアが映り怪訝な表情を見せていた。

 どうやら彼女も俺と同じく敵の動きが気になるらしい。それに加えて彼女の持つ先見の能力がその不安の正体を掴んでいた。


『皆、油断しないで。強い力が……五機そっちに向かっているわ。さっき戦った機体とは別格の力を感じる』


「それが見えたんだな、ティア。――了解した。つまり<アヌビス>は戦力温存の為に一時撤退したに過ぎない。このタイミングでの増援なら、例の転生者の部隊の可能性が高い。皆、転生者と戦うにあたっての注意事項は覚えてるか?」


『当然だ。連中もお前と同様にゲームで竜機兵や操者である僕たちの長所や短所を熟知している。こちらの手の内は、ほぼ知られているということだったな』


『ただし、ゲーム通りではないこともある。私が<ヴァンフレア>の操者になっていることも、そのうちの一つ』


『俺が乗っている<ドラタンク>はハルトが考えた機体だから、向こうの転生者も性能は知らないって話だったよな』


『それと竜機兵に追加されたドラゴニックウェポンもゲームには無かったのよね。それが戦いの決め手になる』


『そして、何よりも彼らは<サイフィード>と転生者であるハルトさんの力を詳しくは知りませんわ。こちらの最大戦力の情報が知られていないのは大きいですわ』


「よし、皆大丈夫そうだな。転生者はこの世界の元になったゲーム経験者の可能性が高い。そうなると、ゲームに出てきた竜機兵チームの性能は把握されているはずだ。けど、皆が言ったようにゲームとは異なるところもいくつかある。それを最大限に活かしてヤツ等の隙を突く。――<アヌビス>との戦いで<サイフィード>や<ドラタンク>の性能は多少知られただろうが問題ないレベルだ。それとセオリー通りなら、敵は後方支援の<ドラタンク>と機体修理機能のある<アクアヴェイル>を真っ先に標的にするはずだ。この二機を守りつつ前衛部隊は敵の各個撃破を行う。後は状況に応じて臨機応変に対応しよう。以上だ」


『了解』


 コックピットのエーテルレーダーにこっちに向かってくる五機の反応が出た。この速度なら後二分ほどで接触する。

 モニターにシリウスの姿が映り、ブリッジで敵の姿を捉えたとの情報が入った。


『<ニーズヘッグ>で捉えた敵影を今から各機に転送する。ハルト、敵機の検証するよ』


「あいよ。送ってくれ」


 モニターに五機の装機兵の姿が映る。一機目は背部に旗を装備し、日本の戦国武将の甲冑を彷彿とさせる黒い機体。

 二機目は全身が水色で左手が巨大な爪になっている機体でエーテルマントを装備している。

 三機目はイエローを基調とした装甲で頭部には目が三つある。トリプルアイというやつだろう。

 残りの二機は同型の機体だ。全身がブラウンを基調としたカラーリングになっている。猿を思わせる頭部をしている。


 この五機が俺たちに向かって砂漠を駆けている。これらを見てシリウスが機体の特定を始めた。


『この五機の中で猿顔の機体が二機いるけど、これは<ハヌマーン>だと思う。運動性重視のバランスの取れた機体だよ。主武装のエーテルロッドは伸縮機能のある武器だから距離に注意して』


 俺もシリウスと同じ意見だ。<ハヌマーン>は『シャムシール王国』製の機体であり、エーテルバンデージも当然装備している。

 そして、『シャムシール王国』製の機体がもう一機。


『黄色い装甲で、頭部に目が三つ付いている機体は<ドゥルガー>だね。背中には左右に二本ずつ展開する隠し腕を搭載している。合計六本の腕で武器を装備することが出来るから攻撃力がかなり高い。――残り二機なんだけど、これについて僕は良く分からないんだ。ハルトは分かるかい?』


「大丈夫、知ってる機体だ。背中にエーテルフラッグを背負っているのは『ワシュウ』の<モノノフ>だ。パワーと厚い装甲が特徴の機体だよ。それ以外は特に細かい設定は無かったと思う。そして、最後の一機なんだけどエーテルマントを装備していることから多分『ドルゼーバ帝国』製の機体だ。それに、あの特徴的な左腕から考えると小説版に出てきた<フェンリル>の可能性が高い。その左腕の巨大な爪が強力だから要注意。どうして帝国の機体がいるのか謎だけど、それは置いておこう。――これでこの五機の正体が分かったな」


 正体が判明した敵の情報が<ニーズヘッグ>のデータバンクに登録され、各機体にまとめられた情報が送られてくる。


「この情報に加えて敵は強力な武装で機体強化をしているはず。そこに注意していこう」


 敵を迎え撃つ準備は整った。その時突風が砂漠を襲い大量の砂が巻き上げられる。お陰で視界が遮られて周囲の状況が分からない。

 奇襲に注意しつつ砂嵐が終わるのを待つ。時間にしてほんの数十秒だったが、緊張している状態だとそれがもっと永い時間のように感じた。

 そしてようやく風が治まり視界が良好になると同時に、コックピットにアラートが鳴り響く。

 だが、竜機兵チームの誰もがその警告音に気を取られることは無かった。俺を含め皆の視線が前方に集中していたからだ。

 砂漠の丘になっている所に五機の装機兵が立ち、俺たちを品定めするように見下ろしていた。

 ついに俺と同じ転生者と戦う時が来たのだった。

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